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1.キグルミ無双
しおりを挟む目が覚めたら、おもちゃの国のアトラクションが目の前にあった。幼児が遊ぶようなおもちゃの色のアスレチック。
アスレチックは謎のチカラで空に浮かんでいるようで、下を見ると地面も見えないとんでもない高さにある。
目の前には、横に4人も並べない上へと続く坂道に、障害物が点々と並んでおり、その先のアトラクションへと続いている。
何でこんな夢を見ているのかと俺は考える。
俺の名前は土谷陸。大学生である。
昨日は大学から寄り道もせずに安アパートに帰り、趣味でやっているTouTubeの動画編集をしていた。
最近の生活からして、おもちゃのアトラクションの夢を見るようなシチュエーションはあっただろうか?
俺の周りには風変わりなキグルミを着ている人たちが、かん高い声でマママとかミミミと呟いていた。
きっと精神がヤバい人たちなのだろう。
キグルミのガラスのような瞳がキラリと光る。
数十人が横一列に並ぶ。
赤、黄、青、緑、白、黒。
キグルミの色は全部で6色。
ふと自分の手を見ると、俺も黄色のキグルミを着ていた。
ふいに頭の上でカウントダウンが始まった。
10.9.8.7....
カウントダウンが0になると同時にバァンと空砲がなり、キグルミたちはワーと叫びながら俺を置いて走り出す。
──走りらなきゃ、走らなきゃ
頭の中で謎の声がする。
俺は混乱しながらも声に従い、アトラクションの先を目指す事にした。
少し前を走っていた青のキグルミが、他のキグルミと争う弾みで坂道から奈落の下の空へ落ちていく。死んだな…。
すると、俺の真横に、落ちたキグルミと同じ色のキグルミがトスンと落ちてきた。
俺は上を見るが、上には雲一つない澄んだ空しかない。
立ち止まり、落ちてきた青のキグルミと目を合わせる俺。
青のキグルミは一瞬止まるが、空から落ちてきた癖に怪我はしていないのか、俺を置いて元気に走り出していった。
何で下に落ちていった奴が、上から降って来たんだ?
ここは夢の中なのか?
俺はますます混乱する。
──走らなきゃ、走らなきゃ
負けたら消えちゃう、居なくなっちゃう
何だか言葉が不穏になり始める頭の中の声。
俺は背中を突き動かされるように走り出した。
坂道を超え、障害物を避け、争うキグルミに割り込み、連中を空へと落としていく。
キグルミたちはまるで人が入っていないかのように器用ではないようで、むんずと掴んでバランスを崩すと面白いように転がっていく。
後ろを見ると、奈落の底へと落としたキグルミたちが、どういう原理からか解らないが、坂道の途中に降ってきていた。
──前に、前に
この順位のままだと消えちゃうよ
まぁ夢だから順位なんて良いんだけれどと思いながらも、俺は再び走り出す。
ガシッと目の前のキグルミを掴んでは投げ、掴んでは投げ、進む。
アトラクションは終盤に差し掛かっただろうか、俺の前を走るキグルミはいなくなっていた。
そして、道は途切れ、ジャンプしないと向こう側にたどり着けない場所へとたどり着いた。
下を見るとやはり地面さえ見えない空だ。
俺は怖じ気づく。
落ちたらどうなってしまうんだろう?
そもそも空から降って来ているのは、落ちたのと同じ人なのだろうか?
ジャンプした向こう岸を進めば、ゴールであろう白黒のモザイク柄の線がある。
俺の横で赤いキグルミがジャンプして、向こう岸にたどり着いた。
このままでは負けてしまう。
そう思った俺は、勢いをつけて向こう岸へとジャンプする。
夢で身体能力が上がっているのか、思ったよりもジャンプは大きく、向こう岸には簡単に届いた。
そのまま走り出すが、前にいる赤いキグルミには届かない。
俺は本能に従い、右手を赤いキグルミへの足元へとかざす。
「モモモ!」
俺が叫ぶと、突如地面に土で出来た出っ張りが出現した。
赤いキグルミは俺の作り出した出っ張りにひっかかり転倒する。
俺は転倒した赤いキグルミをむんずと掴んで後ろにぶん投げると、一番でゴールした。
──かった!かった!
いちばんだ! いちばんマナ貰える!
頭の中の声も喜んでいる。
ふと後ろを見ると、さっきの赤いキグルミが二番目にゴールした。
一番じゃなくても、消えたりしないじゃないかと思いながら、俺は競争の結果が出るのをゴールで待った。
そして、10位が決まる白と緑のキグルミのデッドヒートでそれは起こった。
白のキグルミが先にゴールすると時は止まり、おもちゃのアトラクションは、ゴール出来なかったキグルミたちと光の中へと消えていったのだ。
次の瞬間、目の前に1位と2位と3位の並ぶ表彰台が現れた。
あの赤いキグルミがトコトコと2位の場所に立つ。
俺もキグルミの姿で表彰台の1位の所に立った。これで良いハズだ。
3位は青いキグルミだったハズだが、何故か黒いキグルミが3位の順位台に立つ。
すると空から落雷が落ち、黒いキグルミは消し炭になった。
バタンと倒れる黒いキグルミ。
間違えると殺されるのかよ…、おもちゃとキグルミの世界なのにグロいな。
そして本来の順位通りに青いキグルミが表彰台の3位の位置に立つと、おもちゃのアトラクションとキグルミたちの消えていった光の塊が、表彰台へと吸い込まれていった。
──マナを40手にいれた!
こんなにマナを貰えたの初めて!
興奮する頭の中の声。
俺はというと、もうそろそろこの夢覚めねぇかな、と思っていた。
やがて表彰台は闇に覆われ、俺の意識は薄れていく。
そうして、俺を含めてゴールした9人のキグルミはどちゃっと地面に吐き出された。
俺は再び自分の手を見る。
黄色のキグルミだ。
「モモモ…」
夢から覚めない。
どうなってんだ、これ。
「フェフェフェ。生き残ったかい。次のレースはどうする?」
ふと見上げると、巨大な老婆が立っていた。
俺の身長が170cmくらいだから、老婆の身長は20mくらいあるだろうか?
老婆の装いはいかにも魔女といった出で立ちだ。
俺以外のキグルミは元気に両手を挙げる。
いや、きみたち消えるかもしれないのに、あのレースが怖くないのね。
老婆は手を挙げたキグルミたちをつまんで、近くにあった釜へと放り投げていく。
釜の中ではグツグツ謎の液体が煮え立っている。
あの鍋に入れば流石に夢は覚めるだろう。
たとえ老婆の言うとおりまたレースになるとしても、あのキグルミたち相手なら無双出来るしな。
俺は両手を挙げ老婆にアピールする。
さあ、俺を夢から覚ませてくれ。
そして俺は巨大な老婆につまみ上げられる。
うわ、高い高い!
高所恐怖症ではないが、その高さに恐怖で身がすくむ。
そうして俺は、煮え立つ鍋の中に旅立ったのだった。
俺含むキグルミたちは鍋の中に溶けて混ざりあう。
俺を包むのは一面の青い世界と落下する浮遊感だ。
そして、どちゃっと地面に着地すれば、目の前にはキグルミの集団とおもちゃの国のアトラクションが待っていた。
そして俺は思い出す。
この夢はTouTubeで見たことのあるゲームの世界だ。
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