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6.私は逸材を見つけたのかもしれない。
しおりを挟む私のケニー公爵領での生活は、順調そのものだった。
トレーニングは隠れてやる羽目になったけれど、お母様の言い付けを守って、見せてはならないと言われた事は、身内以外には全て見せてない。
日々、公爵家の中でトレーニングに繋がりそうな事を探す日々。
何故か音のしない執事の足運び。
数は少ないけれど、同じ足運びをする侍女さんとか。
その人たちの絶妙な間合いの取り方だとかだ。
こういう細かな技術は、私のモールド伯爵領では見られなかった技術だ。
トレーニングの開発に繋げよう。
充実しているハズの日々だけれど、ストレスがあったのか、その分、元孤児の護衛トールの育成をほんの少し頑張っちゃった。
トールは態度は、依然おどおどしたままだけれど、孤児の中では飛び抜けた実力に成長しつつある。
恐るべき緑色のおかっぱ頭が、日々変わる新しいトレーニングに挫けそうになる度に、私はトールがコンプレックスを持っていそうな所を褒めて頭を撫でてあげた。
これぞ私がこちらに来て習ったチェルシー様というか武田信玄流、人の育て方らしい。
お陰でトールと私の間にあった壁のような物が薄くなってきた気がする。
トレーニングを続けると、何故か私をお嬢様ではなく、お師匠様と呼びだす人が一定数いるのよね。
トールもそのたちの人だったけれど、厳しくなったトレーニングを続けている割に、お嬢様呼びが定着してきた。
チェルシー様と言えば公爵家のお風呂が極まっているとか、専用のトイレは現代風とか、温泉の別荘があるとか、やっぱり前世が男性っぽくない所が多い。
少なくとも、私は公爵家のお風呂を見て、チェルシー様の趣味に完全に同意してしまった。
武田信玄というのは、あくまで設定なのだろうかと思ってしまう。
中二の病という奴だ。
前世の私の友人にも、恐るべき中二の病にかかった子が居た。
その子は眼帯をして、魔眼が疼くとか言っていた。
一方で、私はチェルシー様に戦国武将っぽい所だって見つけた。
もしかしたら合わせてくれただけかもしれないのだけれど、チェルシー様は私が護身術を好きなことに興味を持ち、女性の護身術程度なら学びたいと言ってきてくれたのだ。
本当に私が好きなのは、女性の護身術ではなく、トレーニングを考える事と、トレーニングをする事と、強くなる事なんだけれど、お母様の言い付けで、体外的には、女性の護身術という事になっている。
盗賊の退治だって、あくまで私は当主代理として護衛の騎士たちの指揮をとっただけで、私自身は戦ってない事にしている。
そして、モールド伯爵領レベルのトレーニングとは到底言えないけれど、いざ身体を動かしてみると、チェルシー様はとても筋が良いように見えるのだ。
流石、戦国武将。
武術との相性は抜群だ。
また、転生者であるチェルシー様は、私と同様に聖女の力、光魔法を持っている。
やっぱり教会に睨まれてしまうからと、光魔法の所持は、チェルシー様も周りに隠しているんだけれどね。
光魔法は、まるでトレーニングのために生まれてきたかのような、トレーニングに最適な魔法なのだ。
私の勘は、チェルシー様は絶対に強くなれると囁く。
この件を通して、転生者は、能力的に双子のような物なのかもしれないなと私は感じた。
逸材。
チェルシー様はきっと逸材だ。
チェルシー様がどこまで強くなるのか、私は試してみたい。
ダメだろうか?
武力の支配するこの世界で、強くなる事はとても良い事だ。
だって肉体言語はあらゆる人種、あらゆる生き物にとって、世界共通の言語なんだから。
あらゆる種がわかりあえる。
現代日本で言えば例えばそれは何だろう?
英語…。そう、英語である。
世界で使われている英語を学ぶのに、何か疑問のある人はいるだろうか?
肉体言語とは、この世界の英語なのである。
チェルシー様に肉体言語を覚えて貰う。もうそのためのトレーニングも考えてある。
貴族の作法を学ぶため、一年近く公爵領にいる予定だったけれど、変更してチェルシー様を鍛えるため、残りの期間モールド伯爵領に来て貰っても良いかもしれない。
モールド伯爵領のトレーニングの話を領外に持ち出すことはお母様に禁止されているから、ケニー公爵領でやるトレーニングは限界があるのだ。
公爵家で知った事を参考に、モールド伯爵領のトレーニングも改良したいし。
ケニー公爵領へ来てから、特に注意されることもなし、私の貴族の作法は問題ないハズなのだ。
⭐ ⭐ ⭐ ⭐
「という事で、私チェルシーは悪役令嬢の可能性があるの」
「は、はあ」
「マリア。大切な事なので、しっかり聞いて欲しいわ」
うん。訳がわからない。
ヒロインが出てくるのは解る、ゲームなんだから。
でも、何とどう繋がって、絶大な権力に庇護されている公爵令嬢が、酷い目にあうのか皆目わからない。
仮に王子殿下に婚約破棄をされたとしてもだ。
そして、悪役令嬢である条件が、何故金髪のクルクル巻き毛…チェルシー様談によると、ドリルなのか。
乙女ゲームの開発会社は、何かドリルに恨みでもあるのかだろうか?
同じ事が私に起こったとして、お父様は私との縁を切るだろうか?
答えはNOである、と私は思う。
私の髪型がちょっと変わった物だとしてもね。
「チェルシー様、考え過ぎでは?」
「あら? マリアにも関係があることなのよ? だって私が悪役令嬢だとするじゃない? 」
「はい」
「ならば悪役令嬢たる私とお友達のあなた、マリアは乙女ゲームでは何の役割になるかしら?」
「あまり、良い役目ではなさそうですわ」
「そう。乙ゲーでは悪役令嬢の意地悪を実行する役割ね。取り巻き令嬢と呼ぶわ。悪役令嬢ほどではないとしても、最後は一緒に酷い目に合うの」
公爵令嬢と…お友達になるだけで破滅する。
乙女ゲーム、おそるべしである。
しかし、それでは私はチェルシー様に巻き込まれただけなのでは…、と思うが、あえて言わない。
チェルシー様だって、悪役令嬢という役割に巻き込まれただけなのだから。
まぁ、私が楽観視するのは、本当に、この世界が乙女ゲームの世界で、チェルシー様が悪役令嬢だったなら、という注釈がつくからだけど。
女の子同士の友情は、余程の事がなければプライスレスなのだ。
「それで、取り巻き令嬢の立場の私は、どう振る舞えばよろしいんですの?」
「そうね、取り巻き令嬢が乙ゲーに与える影響は実は大きいわ。悪役令嬢が仮に命令一つしてなくても、取り巻き令嬢の行動次第では、悪役令嬢は断罪されてしまう場合があるの」
「まぁ…! なんて野蛮なゲーム!」
言葉は通じないのだろうか?
乙女ゲームはきっと肉体言語が支配する世界なのだ
。
力なき人々は、襲いかかってくる理不尽に泣き寝入りするしかない世界。
私の今までの経験がささやいてくる。
チェルシー様にも、早く肉体言語を教えてあげなければならない。
何となく思っていただけ私の気持ちが、今確信へと変わる。
「ですからマリア。あなたに求めるのは…」
「わかりますわチェルシー様。全て私にお任せくださいまし。共にモールド伯爵領へ行きましょう」
皆までいうなと私は答える。
鍛えましょう、チェルシー様。
あなたには才能がある。
「そう。わかりやすいですわよね。取り巻き令嬢役たるあなたには、ヒロインとの仲介役をお願いします」
「「えっ?」」
私とチェルシー様は同時に疑問の声をあげた。
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