転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう

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ナレの花

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王立学園へと旅立つ朝。
街道だけは雪をどけてあるが、まだまだ辺りは雪景色だ。
私が早めに王都へと立つ理由はいくつかある。
魔の森の脅威を受け持ってきた我がモールド伯爵家は、名ばかり伯爵家であるため、多くの貴族の持つ王都の別邸を所持していない。
しかし近年魔物素材の売買で財政が大きく改善したため、私が王立学園に行く機会に、本来の立場である伯爵家らしい王都での別邸を買い求める事に決めたのだ。
ここには、現在モールド伯爵家がロムスタ伯爵家を筆頭とする、中央貴族と対立している事情もあっ  た。
王立学園の寮では、安全を確保出来ない可能性があるのだ。
直ぐに物件が見つからないかもしれないので、その時は庶民より少し大きな家でも良いかなと、私個人は思っている。

次に、商人たちとモールド伯爵家の利益調整。
今、魔の森深部の魔物素材は、モールド伯爵家のお抱え商人が独占している。
しかし、冬の社交シーズンで、王家お抱えの商人にも卸して欲しいと、王家から要請を受けた。
何をどのくらい卸すか、物流が大きく動けるようになる春前に、その調整を、何故か私がやらされる事になったのだ。
実は前世の記憶を持つ私は、計算能力が、この世界の水準では無駄に高い。
お母様からは、その能力を活かせないかと、機会がある度に、商人と交渉させられるのだ。
商人との交渉には、執事のロッゾもついてくるから、王都の商人だろうと大丈夫だとは思うけれど。

私は眠気まなこの弟マシューとお母様にハグし、侍女と馬車に乗り込む。

「おねえしゃま、どこ行くの?」
「そうねぇマシュー。お母様にもわからないわ」
「お母しゃま、わからないの?」
「だってお母様はマリアじゃないんだもの。マリアがどこに行くかなんてわからないわ」

マシューがしきりにお母様に訪ねるが、お母様はスルーする。
4歳の壁の時期のマシューは、当分私に会えないとなると大騒ぎするだろう。

「ぼくも、あのばしゃにのりたい!」
「ルークに同じ馬車を用意させておくわ。楽しみね、マシュー」
「お姉しゃまといっしょに、のるの!」
「あら。その時はお母様も乗っていいかしら?」
「うん、いいよ!」

はぐらかすお母様に、少し悩んでマシューが答える。
どういう訳か、にこにこ馬車を見送るマシュー。
マシューがお母様に勝てる日はまだまだ遠いみたい…。
ばいばいマシュー。

王都について来る人は、侍女のユリシーズ。
ユリシーズを指導する侍女のアドリア。
御者をしてくれている、騎士見習いである緑のおかっぱ頭のトール。
後から来る予定のルークの代わりで、青髪執事のロッゾ。
茶髪で顔の四角い料理人メンチ。
黒髪細目の騎士ヴァイスと、壮年のひげもじゃ騎士のデニムは騎乗して護衛についている。
もう一つの馬車の御者を勤める従者のレオナール。

総勢8名。
足らない分は王都で雇う予定だ。
どの道、別邸の維持には新たに人を雇う事になる。    
王都での活動は、王都に詳しい人が良いだろう。


⭐  ⭐  ⭐  ⭐


様々な仕事を請け負う冒険者は、各国で移動の自由を保障されている。
なので冒険者はスパイとして都合の良い身分でもある。
多くの貴族はお抱えの冒険者を雇い、情報を集め、時には破壊工作をさせる。

かく言う俺も、貴族お抱えの冒険者だ。
雇い主は中央貴族の雄として名高いロムスタ伯爵。
腕の立つ俺は、ロムスタ伯爵との蜜月関係から功績を集め、いつしかAランクの冒険者となった。
冒険者ギルドの規定する冒険者のランクは、下はEから、上限はA。
特別な功績を立てるとSランクなんて物もあるが、事実上Aランクが冒険者の最高位だ。
今日ロムスタ伯爵から受けた任務は、モールド伯爵家の隠し持つ新型兵器の入手だった。
モールド伯爵家には、これまでに何人ものロムスタ伯爵の息がかかった冒険者が侵入してきた。
しかし、モールド伯爵家の館の中にある、とある所へ侵入した者たちは、皆帰らなかった。

モールド伯爵家には、俺たちロムスタ伯爵の息がかかった冒険者の間で、帰らずの温室と呼ぶ区画がある。

きっとそこには何かがあるに違いないのに、誰も帰って来れない。
そしてついに、ロムスタ伯爵の抱える冒険者の中で最高位の俺にお鉢が回ってきたのだ。

俺を冒険者の最高位のランクにまで押し上げる要因となった、アーティファクト『幽世の狭間』と呼ばれる合わせ鏡。
幽世の狭間の効果により、結界で姿を隠し、温室の前へと難なくたどり着く。

ノブを回して扉を押す。
温室に鍵はかかって居なかった。
ただ扉には刻印がしてある。

「これは…、何かの封印?」

刻印は魔術要素を通さない物に見える。
知り合いの錬金術師の工房では、似た刻印を使って調合失敗の影響を外に通さないようにしている。

確か、錬金術で一番の懸念は…、魔術汚染。

暴発した魔術要素が、精神世界での在るべく姿を、他の物へと塗り替えてしまう事を魔術汚染と言う。
特に精神の変容から、魔術汚染の生物へ与える影響は絶大だ。

「大丈夫。幽世の狭間の結界は魔術汚染も防いでくれる」

刻印は、温室の中に、なにかがある事を教えてくれていた。
温室へと入ると、外壁はガラス張りだ。
中は思いの外広いようだった。
モールド伯爵家はこの温室に随分と金をかけている。

「光っている…? これは、ナレの花?」

プランターに並んでいるのはナレの花だ。
俺たち冒険者に言わせれば、どこにでも生えている薬草。
錬金術師に言わせれば、あらゆる薬草の原料となる奇跡の花。
そして敬虔深い神官の話す逸話では、女神の変わり果てた姿。

「奥に向かうにつれ、ナレの花の周りに浮かぶ光が強くなっている…? なんだこれは」

「クロエ。ナレのハナがさわいでる!」

「姉さん、花は喋らないのよ?」

「双子…?」

温室の奥から年端もいかない双子が現れた。
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