37 / 114
名も無き冒険者の末路
しおりを挟む「(子供か…。)」
子供に対しては、好きだとか、嫌いだとか、特に大きな感情を持たない。
しかし双子の子供が現れたのは、厄介なタイミングではあった。
アーティファクト『幽世の狭間』は、俺の姿を隠してくれて、俺がたてる音も防いでくれる。
しかし、直接的な接触をすれば何かが居る事はバレるし、物を持ち運べもしない。
強い衝撃を伴う行動をする時には、結界を解除しなければならなかった。
俺は、双子に接触しないよう、プランターで仕切られた他の通路へ移動する。
しかし、双子の片割れの視線は明らかに俺の姿を追ってきていた。
「姉さん?」
「あそこ。ナレの光がとどいてないところ、うごいてる」
「どこ?」
「(チッ…。勘の良いガキだ)」
『幽世の狭間』の結界は、ナレの花の光を遮り、見えないハズの俺の位置は、双子の片割れにバレてしまっているようだった。
幸い温室には、この双子しか居ない。
こいつら消える分、探索時間は狭まるが、ここで処理していくか。
ロムスタ伯爵の依頼でも、人の処理を任される事があった。
数はもう覚えていない。
今さら人殺しに罪の気持ちは沸き上がらなかった。
その処理する相手が、たとえ罪のない、見知らぬ子供であろうとも。
俺は鞘に納まっているショートソードに手をかけ、ゆっくりと小指から順に握りを確かめる。
そして、すらりと刀身を鞘から抜いた。
プランターを飛び越え、一拍で二人とも殺れるだろう。
事故の起きない人体の柔らかい部分を狙う。
声をあげさせずに殺すには、骨に当てぬよう首の手前側か、横隔膜への斬撃。
透明な俺を見る双子の片割れの深い視線は、双子の殺害の準備に動く俺の行動から思考、すべてを捉えているように思えた。
衝撃で結界を壊すと、『幽世の狭間』に魔力を溜める時間がより多く必要になるため、俺は懐にある『幽世の狭間』を操作し、結界を解除する。
次の瞬間───
⭐ ⭐ ⭐ ⭐
「カッハァ…。ガアッ…ガッ」
いきなり何もない所から男が現れ、倒れこみ、私はびっくりした。
高価そうな装備に身をつつむ男は、首をかきむしりながら苦しんでいる。
「わぁ、びっくりしたぁ」
「おきゃくさん…。ここはあぶないですよ?」
「ナレの光でこんなにも苦しんで。いつもは、死んでいる人しか見ないので助かるかどうかも解りませんね」
男はもがきながらもポーション瓶をポーチから取り出す。
ポーション瓶の中身は、高級な等級のポーションのようで、ナレの花の光に感応したように輝いていた。
「今そんな物を飲んだら、直ぐに死にますよ? あらゆるポーションはナレの花を元に出来ているのですから。特に等級の高いポーションの薬効が何処から生まれているかご存知ないのですか?」
「だんざいされる」
しかし、私の注意を聞かないで、男はポーションを飲み干してしまった。
痙攣し、充血した目から血を流し始める男。
「姉さん、この人は良い肥料になるのかしら?」
「つみはふかそう」
「それなら、ナレの花は喜びそうですね。トネリコにはどうですか?」
「トネリコにはいらない」
そんな事を姉と話していると、男は叫び声をあげ始める。
「いたい?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
苦しむ男に近づき、しゃがんで額に手をあててやる姉。
「女神は人々の発展と平穏を願い、ナレの花に身を変えたと言います。どうして自ら人々の平穏を破る人に、女神の願う奇跡が起こると思うのでしょうか?」
強すぎるナレの祝福はそのままポーションにすれば、普通に暮らす人の罪までも苦しめる。
故に錬金術はナレの薬効を出来るだけ残しながら、さまざまな薬草を混ぜ、女神の祝福を器はそのままに取り除き、ポーションをつくるのだ。
魔の森深部の魔物や、罪の強い人間を肥料に、本来取り除かれるハズのナレの花の祝福をより強くしてつくる、モールド伯爵家の使う耐トレーニング秘薬の正体とは…、、、
「…しんだ。」
姉に手を添えられながら遺体となった男が、ナレの花の祝福に包まれる。
その光景は、まるで、姉が遺体を祝福しているようにも見えた。
「クロエ、シア。またお客様ですか?」
男の断末魔が聞こえたのか、執事見習いのルークさんが温室へ入ってきた。
「ルークさん。ここには当分私たち以外入らない方が良いと思います」
「うえたトネリコげんきすぎるあいだ、ほかのひと、むり」
最近の温室の環境は、ナレの花により良く変わっているけれど、それが人にとって良い環境とは言えない。
祝福が強すぎるのか、ルークさんも僅かに顔を歪めている。
「遺体の処理を、貴女たちに任せる訳にもいかないでしょう?」
「だいじょぶ。ひとでふえた」
「姉さん? あれは人手というか。確かに人手は増えたのですが…」
「トネリコ、てつだって」
姉さんがそう呼ぶと、温室の奥の方から、枝を手のように動かし、ずりずりとプランターを引きずって、じょうろを持ったトネリコが現れた。
育てた私にも、どうなってトネリコが動くようになったのかわからない。
多分魔物みたいなのだけれど、トネリコは私たち双子の言うことを聞いてくれるのだ。
じょうろを持つトネリコを見た執事見習いのルークさんは、頬をひくつかせた。
──────
作者です。ナレの花の女神の逸話を何話で書いたか、もしくは書いてないか忘れていまして、ちょっと悩んでいます。
多分書き忘れんだろうなと納得中です。
19
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
乙女ゲームに転生したので、推しの悲恋EDを回避します〜愛され令嬢は逆ハーはお断りです!
神城葵
恋愛
気づいたら、やり込んだ乙女ゲームのサブキャラに転生していました。
体調不良を治そうとしてくれた神様の手違いだそうです。迷惑です。
でも、スチル一枚のサブキャラのまま終わりたくないので、最萌えだった神竜王を攻略させていただきます。
※ヒロインは親友に溺愛されます。GLではないですが、お嫌いな方はご注意下さい。
※完結しました。ありがとうございました!
※改題しましたが、改稿はしていません。誤字は気づいたら直します。
表紙イラストはのの様に依頼しました。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ゲームの悪役貴族に転生した俺、断罪されて処刑される未来を回避するため死ぬ気で努力したら、いつの間にか“救国の聖人”と呼ばれてたんだが
夏見ナイ
ファンタジー
過労死した俺が転生したのは、大好きな乙女ゲームの悪役貴族アレン。待つのはヒロインたちからの断罪と処刑エンド!?冗談じゃない!
絶対に生き延びて平穏な老後を送るため、俺はゲーム知識を総動員して破滅フラグ回避に奔走する。領地を改革し、民を救い、来るべき災厄に備えて血の滲むような努力を重ねた。
ただ死にたくない一心だったのに、その行動はなぜか周囲に「深謀遠慮の聖人」と勘違いされ、評価はうなぎ登り。
おまけに、俺を断罪するはずの聖女や王女、天才魔導師といったヒロインたちが「運命の人だわ!」「結婚してください!」と次々に迫ってきて……!?
これは、破滅を回避したいだけの悪役貴族が、いつの間にか国を救う英雄に祭り上げられ、ヒロインたちに溺愛される勘違い救国ファンタジー!
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる