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鉄壁の令嬢
しおりを挟む「噂になってるぜ。無事、ロムスタ伯爵家に勝利出来たようで何よりだ。伯爵様には、世話になってるって、何か贈り物でもしなきゃなんねぇな」
市民街の別邸の応接間で、開口一番、戦勝を祝ってくるアロンソさん。
ニヤリとニヒルな笑みを浮かべている。
そこらの貴族より顔が整っているから、どこかで貴族の血でも入っているのかもしれない。
アロンソさん自身はマフィアのボスだけれど。
「で、忙しいんだろう? マリア嬢」
「ええ、まあ」
モールド伯爵家がロムスタ伯爵に勝利したと知られてからは、私が登校すれば、手のひらのを返したようにお茶会だとか告白だとかで、学生生活は天地を混ぜっ返したように煩くなった。
何でもロムスタ伯爵は、戦う前まではウチとの戦いをひた隠しにしていたけれど、戦って負けた事実は隠しきれず、王都の貴族内の権力争いという名の足の引っ張り合いの格好の的になっているらしい。
現状、学校は公爵家令嬢のチェルシー様をメイン盾に何とかやり過ごしているのだけれど、ダンジョンに行けなくなるくらいには忙しく、煩わしい事この上なかった。
「今をときめくモールド伯爵の鉄壁の令嬢に時間をとっていただいて光栄ですと、言うべきだったかな?」
そう言うと、ウインクをするアロンソさん。
「…鉄壁」
──鉄壁の令嬢
王立学校に来ているのに婚約者候補もつくらない、会う事さえも難しい、今をときめくモールド伯爵家『鉄壁の令嬢』。
最近私につけられたあだ名だ。
…ゴツい。
私はアロンソさんに鉄壁の令嬢と言われて白目を剥いた。
「はっはっは。冗談だ冗談。貧民街までその話で持ち切りだって事だ。まぁ、貧民街はロムスタ伯爵に恨みを持つ奴らも入っているからかもな」
「もっと乙女らしいあだ名は何かなかったのですか?!」
「どうも市民街の別邸の襲撃が、面白可笑しく伝わってるせいもあるようでね。すまんな。護衛に雇って貰ったウチの不手際だが、随分守りの堅い執事が居たみたいで、噂を止めようがない」
「ふむ? 少し張り切りすぎましたかな」
顎に手をやり、考える素振りを見せる噂の執事ロッゾ。
「ぐぬぬ…」
ロッゾには上手く差配して別邸を守って貰ったので文句は言えない。
私は唸った。
「鉄壁の執事の守る令嬢ってね。そういえば、冒険者キルドに冷や汗を浴びせるような盗賊団から村を守った、辺境の英雄殿ってのも聞いたな。東部には人材も豊富なようで」
「ああ、アレならトールです。アロンソさんも知っているでしょう? 初めてお会いした時に戦ったおかっぱ頭の。偶々モールド伯爵領に帰っていたそうです」
「…なるほど。モールド伯爵家の隠し玉が動いてたと」
「それで、アロンソさんを呼んだ本題なのですけれど」
「なんなりと。ごねて、あまりマリア嬢に時間を取らせちゃ、会えない連中に怒られるしな」
用件を伝える前に快諾するアロンソさん。
マフィアのボスがこれで大丈夫なのかしらと、疑問に思い顔を傾ける私。
「実はロムスタ伯爵家との戦い以降、父モールド伯爵の調子が思わしくなく、当家は精霊使いについての情報を求めています。ただ、モールド伯爵家がそれを欲しっているとは、表だって知られたくないのです」
「…伯爵様が? 良いのかい? そんな事を話しちまって」
お父様はペットロスで引きこもってるだけとも言えるので、最悪知られても致命的な情報ではない。
だが、モールド伯爵家がそれを求めていると知られれば、敵対勢力の嫌がらせで精霊使いと呼ばれる人、もしくは人たちが酷い目にあう可能性があった。
私は黙って頷いた。
ロッゾが私の代弁をする。
「今は主だった者が戦後処理に奔走していまして。かと言ってマリアお嬢様も動けません。アロンソ殿には様々な伝があるかと思います。当家でも精霊使いについて調べている最中ですが、今の所手掛かりもない状態でしてな、何か一つでも解れば御の字という所です」
「ロムスタ伯爵が伯爵様にいったい何をしたのか知らんが、随分重要な役割じゃねぇか…。伯爵家でさえわからんもんを、ウチなんかにあんまり期待されても困るぜ? もちろん、努力はするがな」
自信のない言葉とは裏腹に、目を妖しくギラつかせるアロンソさん。
何処かの歴史にでも埋もれてしまったかのように、精霊使いの情報は未だに手に入っていない。
もし、精霊使いが歴史の表に出せないような裏家業的な存在であるなら、アロンソさんは精霊使いの情報を探すのに適任だろう。
「当面の経費はこちらで。成功報酬はこちらでよろしいですかな?」
「頼みましたよ、アロンソさん」
「やれやれ、どうもマリア嬢に付き合うと、暇をしている時間がないらしいな」
アロンソさんはテーブルに置かれた特製クッキーを一気に口にほおりこんでバリバリと食べ、経費の入った袋を持ち立ち上がった。
「ごちそうさん。今日もクッキー、美味かったぜ?」
礼を良い、立ち去るアロンソさん。
「…信頼出来るお人なのでしょうが、特製クッキーが無ければ、とてもここまでの関係は築けなかったでしょうな。あの態度を見ると私などではとてもとても」
アロンソさんが去り、ポツリと呟くロッゾ。
チクリと罪悪感が私の胸を刺す。
「そうね。モールド伯爵家の人脈を支えるのはクッキーなんて、誰も思わないでしょうね」
でも、今更特製クッキーを手放す事は出来ない。
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