ミスティック・ゼロ ~ゼロと馬鹿にされた俺だけど、仕方なく学園生活を頑張る~

雷舞蛇尾

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008 不穏な空気

「ピギギギィッ」

 火球を受けたスライムは、断末魔を上げて燃え上がり、そのまま極小の自在石を残して蒸発してしまった。
 やはりスライムは、周囲のゼリー状の物質を火で燃やして蒸発する倒し方が手っ取り早い。

「『汎用自在創術はんようじざいそうじゅつ』ですか。その創術具からして、一応一通り使えるものと思って差支えないのかしら」

「まーな」

 俺は倒したスライムの自在石を拾いながら、そう答える。
 汎用自在創術とはすなわち、自在創術を使用するにあたり、とりあえずこの型式を覚えておけば、誰でも使えて効率かつ効果的ですよというものだ。
 『ファイア(火)』、『アクア(水)』、『サンダー(雷)』、『ウインド(風)』、『ガイア(土)』の五属性を基本として、そこに複数の型式を組み合わせたものを汎用自在創術とそう呼ぶ。
 俺が今使って見せたのが、汎用自在創術『FBファイアボール(火球)』だ。
 型式については『ボール(球型)』の他にも、『ソード(剣型)』、『ガン(弾型)』など様々あり、種々ある中で自分の使い易いものをいくつか使えるようにしておくというのが一般的である。
 汎用自在創術に更にもう一つ『派生形はせいけい』という概念を加えた『特殊自在創術とくしゅじざいそうじゅつ』や、その人独自で使用することのできる汎用的な属性・型式にとらわれない『固有自在創術こゆうじざいそうじゅつ』なんてものも存在する。

「ちなみに特殊自在創術っていうのは――」

 目の前に新たに現れた二体目と三体目のスライムに向けて、俺は二つの火球を同時に作り出し、叩き込んだ。

「とこんな感じ。今のは『ダブル(双)』と言う派生形を加えた『WFBダブルファイアボール(双火球)』という特殊自在創術となる」

「そんなこと説明されるまでもありませんわ」

 鳳凰天星火はそう言うと、俺の横で簡単に二つの火球を作り出した。
 6組で唯一の四等級自在創術士って言っていたし、まぁそのくらいは簡単にできるわな。

 ◇

「二人合わせて2,000円、2点分となります」

 あれから俺と鳳凰天星火は3時間程度魔洞で魔物を狩り続け、いったん解散した後始業前に自在石の換金・換点を行った。
 自在石の換金は、銀行などの金融機関の他、最近ではコンビニでも行うことができるが、この学園では校舎の1階に専用の窓口が設けられており、俺たちは基本的にここを利用することになるというのを鳳凰天星火から教えてもらった。
 まぁ、換点は校内の窓口でしかできないため、わざわざ校外に換金しに行くメリットは無いのだろうが、スライム20体分の自在石でこの金額とはどんな悪徳企業だよ。

「あれだけの時間潜っていて1,000円か」

 自分の電子マネーに追加された1,000という数字を見て、俺は「はぁ」とため息をついた。
 弱く、自在石のうまみも少ないことから、無視されることの多いスライムばかり狩っていたとはいえ、それでも時給約300円って何の冗談だよと。しかも得点も半分ずつだから1点しかもらえてないし。

「今日は天人の力を測るための様子見でしたからこの成果ですけど、あなたの力量ならもっと深くまで潜っても問題なさそうですし、効率はこれから上がると思いますわ」

 同じく1,000円を現金で受け取った鳳凰天星火は、何を気にした様子もなく平然とした顔でそう言ってのけた。

「いいよなー、お嬢様は。俺にはこんなにもお金が必要だって言うのに」

 苦労の二文字を知らなさそうなお嬢様に向けて、俺は呪詛のようにそう返す。
 すると、鳳凰天星火は不思議そうな表情で小首を傾げた。

「あら? 1,000円もあれば昼食と夕食くらいにはなるでしょうに。どこにそんなにお金が必要なんですの?」

「推し活」

「聞いたわたくしがバカでしたわ」

 そう言って、とても残念なものを見るような目で俺を見ながら、鳳凰天星火はため息をつく。
「何だよー、アオイたそは俺の生きる糧なんだからなー」と抗議するも、「はいはい」と鳳凰天星火は俺の言葉を聞き流して、そそくさと俺を置いて階段を昇っていった。

 ◇

 鳳凰天星火に遅れること数秒程度。
 俺が教室に入ると、一人の男子生徒が教壇に立って何かを演説していた。

「という訳で、皆で魔洞の探索を行おうと思うんだ」

 名も知らぬ彼は俺が入ってきたことに気付いたようだが、気にせずそのまま続ける。

「みんな、どうかな? 特に水南すいなさんのグループが居てくれるとすごく助かるんだよね」

 水南さんと言われ、彼の周りに集まっていた人だかりの中の日焼けした金髪ギャルのような少女がピクリと体を反応させた。
 なるほど、あれが水南さんね。

「ウチらは――、その――」

 何とも歯切れの悪い返しだなと思いながら、俺は素知らぬ顔で自分の席に座り、鞄を机横のフックに引っ掛けた。

「頼むよこの通り」

 男子生徒が両手を合わせ懇願する姿勢を見せたところで、その水南さんは「分かった」と一言告げる。
 その瞬間、周囲の人だかりが沸いた。

「ただし、無茶はしない、危なくなったらすぐ引き返す。これを絶対に守って」

「分かったよ」

 真面目な顔でそう言う水南さんに、男子生徒は安堵した様子でそう返答していた。

「一体何の騒ぎですの? 皆でと言うのはわたくしたちも関係するのかしら?」

 自分の席に荷物を置いたらしい鳳凰天星火が、その人だかりの近くに歩いていき、そう尋ねる。
 すると男子生徒は、教壇から降りて鳳凰天星火の真正面に立った。

「鳳凰天さんには関係のない話だよ」

 その言葉を聞いて、一瞬呆気に取られたような表情を鳳凰天星火は浮かべる。

「あぁ、ごめん。これでは伝わらなかったかな。君たちのような足手まといは、参加してもらいたくないという意味さ」

「何の会かは存じ上げませんけれど、その足手まといという言葉。聞き捨てなりませんわね」

 男子生徒からの侮辱に、鳳凰天星火は眉を吊り上げて反論する。
 しかしそんな彼女の様子を意にも介さない様子で男子生徒は続けた。

「君はここ最近毎日スライムばかり狩っているそうじゃないか。今日もそこの変人と二人でスライムの自在石を換点したそうだね」

 彼がそう言った瞬間、周りの人だかりからクスクスと笑い声が起こる。
 「スライムとかウケる」とか「本当に四等級なのかよ」とか、内容は嘲笑そのものだった。

「ノブレス・オブリージュと君は言っていたけれど、僕には自分の本当の実力を知られたくなくて下の者同士で慣れ合っているようにしか見えないんだよ」

「なんですって――」

 一触即発。
 鳳凰天星火が振り上げた左腕を俺が掴んで制止した。
 うん、手が出そうかなと思って後ろで待機しておいて良かった。

「離してください、天人」

 どうやら制止しているのが俺だと言うのは分かっているらしい。
 こちらを振り向きもせず、今にも鳳凰天星火は俺を振りほどいて殴りかかろうとしている。

「やめとけって。怒る気持ちは分かるけど、殴るほどではないだろ」

 俺のその言葉を受けて少し冷静になったのか、鳳凰天星火の左腕からはゆっくりと力が抜けていく。

「それと、名も知らぬそこの君。お前もお前で不必要にこいつを煽る必要はないだろ」

 俺がそう言うと、そいつは気障な手つきで髪をかき上げ「別に煽ってるつもりはなかったけどね」とのたまった。うわー、むちゃくちゃ嫌いなタイプだわこいつ。

「ともかくだ。僕たちはこれから魔洞の探索の打ち合わせをしないといけないんだ。君たちには関係のない話だから、授業が始まるまでどこかへ行っているか、自分の席で大人しくしてもらっていていいかな」

「へいへい」

 教室にとどまることもできたけれど、今の鳳凰天星火の表情を見るに、こりゃ一度離した方がいいかなと思って俺は彼女の手を引き、教室を後にした。
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