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2章
11歳 -水の陽月5-
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アマツ大陸の中央にある、帝が住まう地「天都」
天都は争いの絶えなかったこの大陸に、安定と平和をもたらす為に作られた調停機関です。なので天都の歴史はアマツ三国より短いのですが、それでも今上が32代目と、それなりに長い歴史があります。前世の記憶を持っている私は、それよりも長い歴史がある皇室という存在を知っていたので、32代という事にはあまり驚きませんでした。逆に衛生面や医療技術が現代日本よりもはるかに低いこの世界で、32代で800年近い歴史があるという事の方に驚いてしまいました。どうやら帝に流れるヤマト国の血が稀に発揮されて、100年近く在位し続けた帝が二人程居た結果だそうです。
その長いアマツ大陸や天都の歴史の中には、戦争や飢饉などで滅亡の危機に瀕した事が幾度かありました。特に酷かった碧宮家が作られる切っ掛けとなった飢饉の時で、疫病の発生と相まって全人口の3~4割の人々が亡くなったそうです。
そんな歴史を持つこの地が、今再び、危機に瀕していました。
見た目は何の変哲もない竹筒を加工した水筒、ですが中は琺瑯製の容器に浦さんの技能を籠めた霊石を仕込んだハイテク水筒の中の水で口を漱いだのに、次の瞬間にはまたえずいてしまって慌てて口元を抑えました。
<大丈夫ですか??
一度、天都の外へ出た方が良いのでは?>
私の中から浦さんの心配そうな心話が聞こえてきます。私だって逃げられるものなら今すぐにでも逃げ出したいぐらいですが、今ここで都の外へ逃げて時間を無駄に消費したら、母上たちの命が危なくなってしまうので、逃げるなんて選択肢を選べる訳がありません。
<大丈夫、少し落ち着いたから>
そうは言いつつも、歩き出すどころか視線は自分の足元に固定し続けたままです。
(どうして……どうして、街中にあんなに死体があるの……)
先程見た衝撃的な映像を思い出してしまって、再び吐き気がこみ上げます。少しでも視線を足元から外したら、また死体が視界に入ってきそうで視線を動かす事ができません。とはいえ何時までも地面とにらめっこしている訳にもいかず、目を瞑って何とか脳内の映像を消し去ろうとするのですが、逆に鮮明に先ほどの映像を思い出してしまって、堪えようもない吐き気に再び胃の中のモノを戻してしまいました。
天都に入るまでは順調だったのです。何せ街道には全く人がおらず、本来なら衛士が居るはずの関所にも人影がありません。なので本来なら関所を大きく迂回して、間道や道ですらない場所を通って天都に行く予定だったのですが、金さんがありえない速度で関所を駆け抜けて、予定よりも早く天都に辿り着くことができたのです。
天都の中では誰の目があるか分からないので、流石に金さんと浦さんには私の中に戻ってもらいました。茴香殿下のようにギリギリで絶えている人がいる可能性もありますし、天都には各国の大社の次に格の高い神社があるので、そこの神職の人なら一般人よりも呪詛に耐えている可能性は高いと推測できます。
そんな大きな不安と小さな希望を抱いて初めて足を踏み入れた天都でしたが、そこは地獄でした。
道の辻という辻には死体が山積みにされ、季節的に腐敗はあまり進んでいないようですが、それでも全く腐敗していない訳ではないようで、凄まじい匂いを辺りに漂わせています。また虫も発生しているようで、一目見ただけで全身に鳥肌が立ちました。その凄まじく悍ましい場景に、声にならない絶叫を上げてしまったのがつい先刻。
その景色から逃げるように闇雲に走って辿り着いたのは大きな邸が立ち並ぶ、一目で華族の邸宅のある区画だと解る場所でした。この辺りの道には死体が山積みになっているような事はなく、何処まで続いているのか解らない塀が道の両脇にあるだけです。でも私は足を止める事が出来ませんでした。なぜなら道端に死体こそありませんが、背後からはまだ死の気配が追いかけてくるような気がして仕方が無かったのです。そうして全速力でその区画を駆け抜けていくと開けた場所に出ました。
そこには沢山の木々が植えられ、恐らくこんな事になる前はちゃんと手入れをされていたんだろうなと思われる庭園でした。その庭園の木陰へと入り、周囲から見られていない事を確認した途端に、口を強く抑えていた手を弾かれるようにして外して、胃の中のモノを全て吐き出してしまいました。
全てを吐き出してしまってこれでようやく落ち着くと思っても、先程の事を思い出してはまたえずくという事を何度も何度も繰り返し、嘔吐しているだけなのに疲労困憊になってしまいます。
前世は平和な時代の日本人だった私は、あんなに大量の死体を見るような事件や事故に遭遇する事はありませんでした。今世でも衛生面的な意味で酷い環境にはありましたが、死体に直面した事はありません。
そんな私にとって、沢山の死体が山のように積み重ねられている場景は衝撃的すぎて、どれほど脳裏から消し去ろうとしても消えてくれないのです。
<一度、籠を隠した洞に戻ってはどうだ?
そなたは大丈夫だと申すが、嘔吐しすぎて体調を崩しているように見える>
金さんも心配のようで、持参していた大きな籠を隠した洞まで戻る事を提案してきました。でも……
<もう、大丈夫。
呪詛の阻止が遅れたら遅れた分、死んでしまう人が増えちゃう……。
何より母上や兄上たちが心配だから頑張れるよ>
<そうか……。ならば我も止めぬ。
ただ気をつけよ、体力が落ちておる事を忘れるでないぞ?>
<櫻がそう言うのならば仕方ありませんね……。
呪詛の波動は此処から更に奥の方から感じます。
昨晩の呪詛の名残なので明確な場所は解りませんが、
方角としては天都の中でも北の方ですね>
北の方……そう言われて私はようやく視線を地面から北の方へと移しました。木々の隙間から北の方角を見れば、幾つもの屋根の向うに瓦葺きの屋根が見えます。この世界ではどれ程地位が高くても、どれ程財産を持っていても屋根を瓦葺きにする事はできません。瓦葺きは公共機関にのみ許された屋根なのです。つまりあの辺りが天都の中核である大内裏なのでしょう。
「よし、行こう」
手の甲で口元を拭った私は、若干ふらつく足に気合で力を入れて一歩を踏み出したのでした。
気合を入れて歩き出したものの、私も金さんも浦さんも天都の地理に疎いという問題がありました。金さんと浦さんは神社のある方角は解るそうですが、逆に言えばそれぐらいしか解りませんし、私に至っては何一つ解りません。
「こんな状況じゃ茴香殿下が貸してくれた保護証も意味がないかも」
道を歩いている人は全くいませんし、各家の門前に普段なら居るであろう衛士も今は居らず、誰かに道を尋ねる事も出来ません。だから黄金宮家に保護を求めようにも、黄金宮家が何処にあるのかすら解らないのです。
そんな状況の中、浦さんの助言に従って呪詛の波動の名残を追って天都を北上し続ける事、体感時間で約2時間。途中ですれ違った人は皆無に等しかったのですが、とある地点で急に大勢の人の声が聞こえてきました。
<誰かいるみたい……。どうしよう? 近付くべき??>
ここまで余りにも人に会わな過ぎたので、ようやく人に会えたという安心感よりも警戒心や不安感の方が勝ってしまいます。そんな訳でいきなり近付くよりは、物陰からこっそりと覗く事にしました。何か身を隠せるモノがないか周囲を素早く見渡せば、天水桶として使っているらしい雨水を溜めておく大きな樽があったのでその陰に隠れます。
そして樽の陰からこっそりと見てみると、どうやら道の先には神職と思われる人が大勢居て、それぞれ神楽鈴や様々な楽器を手に祓詞を大声で唱えているようです。更には何かを守っていようで、ぐるりと円形に隊列を組んでいました。
<うーん、野盗の類ではなさそうだけど、
あの物々しい雰囲気じゃ道を尋ねても答えてくれ無さそう……>
呪詛が蔓延しているのだから神職の方の必死さは納得できるのですが、同じように護衛している衛士だか検非違使だかの武装した人たちの血走った目や鬼のような形相に、話しかける勇気なんて欠片も湧いてきません。
それに山吹からは、天都では出来るだけ人に顔を見られないようにと注意を受けています。平民ならばギリギリ許容できるそうですが、華族には絶対に近づかないように釘をさされているのです。十中八九、私が母上に似ている為に碧宮家の血を引いていると気付かれてしまう事と危惧したのだと思います。
それにしてもまだこんなに動ける人がいるなんて、さすが天都というべきでしょうか。天都に来るまでの道中にあった小さな村なんて、辛うじて意識がある人が数名は居ましたが、動ける人なんて誰も居ませんでした。少しでも早く天都に行く事を考えたら素通りするべきだという事は解っていたのですが、心情的にそれもできなくて……。せめてお水だけでもと、家々を回ってお水を配ったり飲ませたりしてから村を後にしました。
これだけ大勢の人が移動するということは、此処よりも呪詛に強い安全地帯に避難する一行なのかもしれません。夕方になればまた呪詛が発動する可能性が高く、そうなる前に少しでも安全な場所に行きたい私は、あの一行の後をつける事にしました。あれだけ大声を出しながら移動するのなら、後をつけるのは簡単そうです。
<無理をしてはいけませんよ?
いざとなれば私が出て、呪詛を退けるという手も使えます。
勿論、人目が無い所が望ましいですが、何事も優先順位というものがあります。
私達にとって櫻、貴女の安全が第一ですからね>
<うん、ありがとう>
私の中という誰よりも近い場所に浦さんが居る、金さんも居るというのはとても心強く。桃さんが居ない事に少し寂しさを覚えてしまいますが、その桃さんが母上たちを守ってくれているのだと思えば、それもまた心強く……。何が何でも呪詛を止めさせて、皆の元へ帰ろうという気持ちが改めて強く湧いてきます。
そうやって私達が心話をしている間も神楽鈴等の楽器を鳴らし祓詞を唱えがながら移動する一行は、どうやら大内裏のある方向へと向かっているようです。おそらく大内裏のほど近くにある、三つの神社のどれかに行くのだと思います。天都の神社なら集めている信仰も多そうですし、そんな神社の片隅に隠れる事が出来ないかなぁ……なんて考えつつ後をつけていたら、突然金さんの
<櫻、後ろだ!!>
という声が聞こえたと思ったら、私の背後に何か大きなものが空から降りて来ました。
「何者だ!!!」
低く鋭い男性の声が私の耳を打つと同時に、私の腕二本分よりも更に太い筋肉質な腕が背後から首にまわされました。柔道の締め技でいうところの裸締のように腕で首を締め上げられた私は、抵抗する間もなく抑え込まれてしまったのでした。
天都は争いの絶えなかったこの大陸に、安定と平和をもたらす為に作られた調停機関です。なので天都の歴史はアマツ三国より短いのですが、それでも今上が32代目と、それなりに長い歴史があります。前世の記憶を持っている私は、それよりも長い歴史がある皇室という存在を知っていたので、32代という事にはあまり驚きませんでした。逆に衛生面や医療技術が現代日本よりもはるかに低いこの世界で、32代で800年近い歴史があるという事の方に驚いてしまいました。どうやら帝に流れるヤマト国の血が稀に発揮されて、100年近く在位し続けた帝が二人程居た結果だそうです。
その長いアマツ大陸や天都の歴史の中には、戦争や飢饉などで滅亡の危機に瀕した事が幾度かありました。特に酷かった碧宮家が作られる切っ掛けとなった飢饉の時で、疫病の発生と相まって全人口の3~4割の人々が亡くなったそうです。
そんな歴史を持つこの地が、今再び、危機に瀕していました。
見た目は何の変哲もない竹筒を加工した水筒、ですが中は琺瑯製の容器に浦さんの技能を籠めた霊石を仕込んだハイテク水筒の中の水で口を漱いだのに、次の瞬間にはまたえずいてしまって慌てて口元を抑えました。
<大丈夫ですか??
一度、天都の外へ出た方が良いのでは?>
私の中から浦さんの心配そうな心話が聞こえてきます。私だって逃げられるものなら今すぐにでも逃げ出したいぐらいですが、今ここで都の外へ逃げて時間を無駄に消費したら、母上たちの命が危なくなってしまうので、逃げるなんて選択肢を選べる訳がありません。
<大丈夫、少し落ち着いたから>
そうは言いつつも、歩き出すどころか視線は自分の足元に固定し続けたままです。
(どうして……どうして、街中にあんなに死体があるの……)
先程見た衝撃的な映像を思い出してしまって、再び吐き気がこみ上げます。少しでも視線を足元から外したら、また死体が視界に入ってきそうで視線を動かす事ができません。とはいえ何時までも地面とにらめっこしている訳にもいかず、目を瞑って何とか脳内の映像を消し去ろうとするのですが、逆に鮮明に先ほどの映像を思い出してしまって、堪えようもない吐き気に再び胃の中のモノを戻してしまいました。
天都に入るまでは順調だったのです。何せ街道には全く人がおらず、本来なら衛士が居るはずの関所にも人影がありません。なので本来なら関所を大きく迂回して、間道や道ですらない場所を通って天都に行く予定だったのですが、金さんがありえない速度で関所を駆け抜けて、予定よりも早く天都に辿り着くことができたのです。
天都の中では誰の目があるか分からないので、流石に金さんと浦さんには私の中に戻ってもらいました。茴香殿下のようにギリギリで絶えている人がいる可能性もありますし、天都には各国の大社の次に格の高い神社があるので、そこの神職の人なら一般人よりも呪詛に耐えている可能性は高いと推測できます。
そんな大きな不安と小さな希望を抱いて初めて足を踏み入れた天都でしたが、そこは地獄でした。
道の辻という辻には死体が山積みにされ、季節的に腐敗はあまり進んでいないようですが、それでも全く腐敗していない訳ではないようで、凄まじい匂いを辺りに漂わせています。また虫も発生しているようで、一目見ただけで全身に鳥肌が立ちました。その凄まじく悍ましい場景に、声にならない絶叫を上げてしまったのがつい先刻。
その景色から逃げるように闇雲に走って辿り着いたのは大きな邸が立ち並ぶ、一目で華族の邸宅のある区画だと解る場所でした。この辺りの道には死体が山積みになっているような事はなく、何処まで続いているのか解らない塀が道の両脇にあるだけです。でも私は足を止める事が出来ませんでした。なぜなら道端に死体こそありませんが、背後からはまだ死の気配が追いかけてくるような気がして仕方が無かったのです。そうして全速力でその区画を駆け抜けていくと開けた場所に出ました。
そこには沢山の木々が植えられ、恐らくこんな事になる前はちゃんと手入れをされていたんだろうなと思われる庭園でした。その庭園の木陰へと入り、周囲から見られていない事を確認した途端に、口を強く抑えていた手を弾かれるようにして外して、胃の中のモノを全て吐き出してしまいました。
全てを吐き出してしまってこれでようやく落ち着くと思っても、先程の事を思い出してはまたえずくという事を何度も何度も繰り返し、嘔吐しているだけなのに疲労困憊になってしまいます。
前世は平和な時代の日本人だった私は、あんなに大量の死体を見るような事件や事故に遭遇する事はありませんでした。今世でも衛生面的な意味で酷い環境にはありましたが、死体に直面した事はありません。
そんな私にとって、沢山の死体が山のように積み重ねられている場景は衝撃的すぎて、どれほど脳裏から消し去ろうとしても消えてくれないのです。
<一度、籠を隠した洞に戻ってはどうだ?
そなたは大丈夫だと申すが、嘔吐しすぎて体調を崩しているように見える>
金さんも心配のようで、持参していた大きな籠を隠した洞まで戻る事を提案してきました。でも……
<もう、大丈夫。
呪詛の阻止が遅れたら遅れた分、死んでしまう人が増えちゃう……。
何より母上や兄上たちが心配だから頑張れるよ>
<そうか……。ならば我も止めぬ。
ただ気をつけよ、体力が落ちておる事を忘れるでないぞ?>
<櫻がそう言うのならば仕方ありませんね……。
呪詛の波動は此処から更に奥の方から感じます。
昨晩の呪詛の名残なので明確な場所は解りませんが、
方角としては天都の中でも北の方ですね>
北の方……そう言われて私はようやく視線を地面から北の方へと移しました。木々の隙間から北の方角を見れば、幾つもの屋根の向うに瓦葺きの屋根が見えます。この世界ではどれ程地位が高くても、どれ程財産を持っていても屋根を瓦葺きにする事はできません。瓦葺きは公共機関にのみ許された屋根なのです。つまりあの辺りが天都の中核である大内裏なのでしょう。
「よし、行こう」
手の甲で口元を拭った私は、若干ふらつく足に気合で力を入れて一歩を踏み出したのでした。
気合を入れて歩き出したものの、私も金さんも浦さんも天都の地理に疎いという問題がありました。金さんと浦さんは神社のある方角は解るそうですが、逆に言えばそれぐらいしか解りませんし、私に至っては何一つ解りません。
「こんな状況じゃ茴香殿下が貸してくれた保護証も意味がないかも」
道を歩いている人は全くいませんし、各家の門前に普段なら居るであろう衛士も今は居らず、誰かに道を尋ねる事も出来ません。だから黄金宮家に保護を求めようにも、黄金宮家が何処にあるのかすら解らないのです。
そんな状況の中、浦さんの助言に従って呪詛の波動の名残を追って天都を北上し続ける事、体感時間で約2時間。途中ですれ違った人は皆無に等しかったのですが、とある地点で急に大勢の人の声が聞こえてきました。
<誰かいるみたい……。どうしよう? 近付くべき??>
ここまで余りにも人に会わな過ぎたので、ようやく人に会えたという安心感よりも警戒心や不安感の方が勝ってしまいます。そんな訳でいきなり近付くよりは、物陰からこっそりと覗く事にしました。何か身を隠せるモノがないか周囲を素早く見渡せば、天水桶として使っているらしい雨水を溜めておく大きな樽があったのでその陰に隠れます。
そして樽の陰からこっそりと見てみると、どうやら道の先には神職と思われる人が大勢居て、それぞれ神楽鈴や様々な楽器を手に祓詞を大声で唱えているようです。更には何かを守っていようで、ぐるりと円形に隊列を組んでいました。
<うーん、野盗の類ではなさそうだけど、
あの物々しい雰囲気じゃ道を尋ねても答えてくれ無さそう……>
呪詛が蔓延しているのだから神職の方の必死さは納得できるのですが、同じように護衛している衛士だか検非違使だかの武装した人たちの血走った目や鬼のような形相に、話しかける勇気なんて欠片も湧いてきません。
それに山吹からは、天都では出来るだけ人に顔を見られないようにと注意を受けています。平民ならばギリギリ許容できるそうですが、華族には絶対に近づかないように釘をさされているのです。十中八九、私が母上に似ている為に碧宮家の血を引いていると気付かれてしまう事と危惧したのだと思います。
それにしてもまだこんなに動ける人がいるなんて、さすが天都というべきでしょうか。天都に来るまでの道中にあった小さな村なんて、辛うじて意識がある人が数名は居ましたが、動ける人なんて誰も居ませんでした。少しでも早く天都に行く事を考えたら素通りするべきだという事は解っていたのですが、心情的にそれもできなくて……。せめてお水だけでもと、家々を回ってお水を配ったり飲ませたりしてから村を後にしました。
これだけ大勢の人が移動するということは、此処よりも呪詛に強い安全地帯に避難する一行なのかもしれません。夕方になればまた呪詛が発動する可能性が高く、そうなる前に少しでも安全な場所に行きたい私は、あの一行の後をつける事にしました。あれだけ大声を出しながら移動するのなら、後をつけるのは簡単そうです。
<無理をしてはいけませんよ?
いざとなれば私が出て、呪詛を退けるという手も使えます。
勿論、人目が無い所が望ましいですが、何事も優先順位というものがあります。
私達にとって櫻、貴女の安全が第一ですからね>
<うん、ありがとう>
私の中という誰よりも近い場所に浦さんが居る、金さんも居るというのはとても心強く。桃さんが居ない事に少し寂しさを覚えてしまいますが、その桃さんが母上たちを守ってくれているのだと思えば、それもまた心強く……。何が何でも呪詛を止めさせて、皆の元へ帰ろうという気持ちが改めて強く湧いてきます。
そうやって私達が心話をしている間も神楽鈴等の楽器を鳴らし祓詞を唱えがながら移動する一行は、どうやら大内裏のある方向へと向かっているようです。おそらく大内裏のほど近くにある、三つの神社のどれかに行くのだと思います。天都の神社なら集めている信仰も多そうですし、そんな神社の片隅に隠れる事が出来ないかなぁ……なんて考えつつ後をつけていたら、突然金さんの
<櫻、後ろだ!!>
という声が聞こえたと思ったら、私の背後に何か大きなものが空から降りて来ました。
「何者だ!!!」
低く鋭い男性の声が私の耳を打つと同時に、私の腕二本分よりも更に太い筋肉質な腕が背後から首にまわされました。柔道の締め技でいうところの裸締のように腕で首を締め上げられた私は、抵抗する間もなく抑え込まれてしまったのでした。
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