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4章
17歳 -土の陽月3-
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真っ暗な地上から火柱が爆音と共に幾つも上がり、山奥の木々や岩などを不気味に照らしています。燃え上がる木々の合間には上下ひっくり返った土蜘蛛や、恐竜じゃないかと思うぐらいに巨大な蛇やトカゲの屍が累々と横たわっていて地面が見えないほどです。それらの屍の大半は切り裂かれているか黒焦げになっていて、討伐者が龍さんと桃さんである事を物語っていました。そんな巨大な屍の合間には原型を留めていない何かがあるのですが、それが何なのかは判別できませんし、したいとも思いません。
天空に浮かぶ島に居る私から見えているのは、かなり遠い景色のみです。なので辛うじて見るという行為ができていますが、これが眼前にあったらあまりのグロテスクさに悲鳴すらあげられずに気を失っていたかもしれません。それぐらい惨憺たる状況なのですが、この天空島の真下にあるアスカ村だけ無傷でいられるはずがなく、住人たちの家や茴香殿下の御殿も崩れたり焼けてしまっていることでしょう。むしろそれだけなら御の字で、土蜘蛛や巨大な蛇やトカゲの死骸が家を潰していたり体液で穢している可能性もあります。それを思うと、どれだけ殿下や村人に謝っても謝りきれないと思ってしまいます。
慣れ親しんだ自分の家が無くなってしまう悲しさは、経験があるだけに痛いほどに解ります。戦場になる可能性が高かった為に前もって家財道具は全て持ち出しているはずですが、それでも家が無くなってしまうのは辛い事です。
そもそも三太郎さんと龍さんの想定では、ここまで大規模な損害が出る予定ではありませんでした。その結論を導き出した理由は色々とありますが、一番の理由は土の神が異常なまでに現状維持を望んでいた事でした。土の神が成長という名の変化すらも嫌ったことは、変化を司る風の神を真っ先に滅ぼした事からも解ります。そして火の神と水の神を追い込み、意図しての事だったのかどうかは不明ですが、最終的にその二柱の神々も滅ぼしてしまいました。
それぐらい現状維持にこだわる土の神が大地を揺り動かし、山を崩し、植物も昆虫も妖化させて攻撃してくるとは思ってもいなかったのです。三太郎さんたちは積極的に自然環境を破壊する気はありませんでしたが、必要ならば仕方ないというスタンスでした。なのに蓋を開けてみればこちら側が環境維持に気を配らねばならず……。
この天空島を作った事からも解るように、最近の三太郎さんたちはかなり吹っ切れています。茴香殿下たちにも条件付きで技術提供したり、17年前と比べると私が持ち込む情報や技術に寛容になりました。
正確には寛容というよりも数千年もの間、全く進歩しない世界というのは異常だと思ったようです。そして成長を止められた世界は歪がゆえに崩壊の危機にあり、世界を守るには適切な成長が必要なのだと思ったようです。私個人の知識でいえば約2万年続いた旧石器時代なんてのもあるので、単純に数千年成長がないという事だけで問題があるとは言えないと思いますが、現に崩壊しかけているのだから対処するしかありません。
そして問題の土の神なのですが……
「金さん、土の神ってここに来ているの?」
「来てはおるが、そなたは意識をそちらに向けるでない」
私の目には土の神が見えていないんですよね。まだ夜明け前で暗いからだと思っていたのですが、桃さんの爆炎で照らされた周囲を見ても確認できません。土の神も金さんや山さんの元々の姿や、叔父上たちの守護精霊と同じように金属っぽい色をした球体だと思うのですが、それらしいものが見当たらないのです。
思わず探そうとしたのですが、すぐさま金さんに止められてしまいました。相手を探ろうと意識を向けたら、土の神もこちらを認識しやすくなるのだそうです。これはアレですね、ニーチェの「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」という言葉から哲学的な意味を抜いた、言葉通り受け取れバージョンです。
なので即座に探す事を止めて、意識を別の方へと向けます。
私がここに居るだけで意味があると言ったのは龍さんで、何でも私という異分子がいることで、歴史の流れが大きくズレる可能性が高まるのだそうです。だからといって、ただボーと見ているわけにもいきません。今、まさに皆が生死を賭けて戦っているのですから。ですが、同時に余計な事をする訳にもいきません。私が動くことで三太郎さんたちの手間を増やしたら最悪ですし、土の神に私という異分子を認識されて集中攻撃を食らうような羽目になったら目も当てられません。
この17年の間に土の神が私を認識してしまう機会はあったんじゃないかと思ったのですが、常に三太郎さんが傍にいた事で良い具合にカモフラージュされていたんだとか。あとは内側にいた龍さんの力も土の神を欺いていたらしく、今のところ認識されていないのだそうです。
ですが至近距離で何かをやらかしたら、流石にバレます。なので三太郎さんたちから、口を酸っぱくして言われました。
「これを預けますが、使うのは逃げる時だけです。良いですね」
「その時まではぜってぇに使うなよ!」
「時は我らが稼ぐゆえ、そなたは逃げる事に専念せよ。良いな?」
「まぁ、そうならないように儂らが居るんじゃがな」
そんな皆の言葉を思い出しながら、ドーリス式キトンの腰から下げている巾着袋へと視線を移しました。中に入っているのは、純度や強度を選りすぐった各種霊石です。万が一にも土の神を倒せなかった場合、私は真っ先に、そして一目散に逃げろと言われました。その時に一緒に逃げる事はできないかもしれないからと、私の思うままに使うことの出来る、霊力を限界まで籠めた霊石をもらったのです。
ですが……
三太郎さんや龍さんの気持ちは嬉しいと思う反面、
世界が滅ぶというのに逃げてどうなるのでしょう?
どうせなら最後まで大切な人とは一緒に居たい。
これは昔も今も変わらない私の嘘偽り無い気持ちです。
<駄目だ!! 金、櫻を連れて先に行け!>
桃さんの切羽詰まった心話が飛び込んできたのは、東の山際がうっすらと白くなり始めた頃でした。夜明けだ!と心が浮き上がったと思ったら、問答無用で地面へと叩きつけられた気分になります。急な襲撃から2~3時間も戦い続けた桃さんたちでしたが、相手は妖化した手勢を次から次へと投入し、更にはこちらが守りながら戦っている事を嘲笑うように山を崩し地面を割って攻撃してきます。そのせいで想定以上に霊力を消費してしまったようで、桃さんは心話の声が掠れてしまう程に疲弊しているようです。
<櫻、おぬしには頭を下げねばならない事が幾つもある。
じゃが、今はその時間がない。本当にすまなかったな……>
まるで遺言のような事を言い出す龍さんに、浦さんまでもが先に行けと言い出します。三太郎さんたちのそんな言葉に私の頭の中はパニック寸前で、あんなに強くて頼りになる三太郎さんに龍さんまでもが揃っていて、どうして土の神一人に負けてしまうの?と思考の渦がぐるぐると回り続けます。
<その島を浮かしている霊力も攻撃へ回す。
その為の措置じゃから心配するな。良いな、直ぐ逃げるのじゃぞ?>
<おっ、良いな。その島をあいつに直撃させりゃぁ、少しは堪えるだろ>
明るい桃さんの声が、なんだかとても悲しくて……。
<嫌だ!! 最後までここにいる!!>
<聞き分けなさい!!!>
浦さんの一喝に、ビクッと身体をすくめてしまいました。浦さんにこんな声で怒られた事は今まで一度もありません。私だけ逃げても意味がないって言っても、ここで三太郎さんたちに何かあったら世界は滅んでしまうのだから最後まで一緒に居たいと言っても、三太郎さんたちは頷いてくれません。
<金、今から天空島の高度を徐々に下げる。
おぬしが行けると思ったら、櫻を抱えて飛び降りるのじゃ>
<相分かった。あとは頼む>
「金さん、駄目だよ!!」
このまま逃げるなんて絶対に駄目です。それに今は金さんと一緒にと言っていますが、ある程度逃げたところで金さんは私を開放し「あとは自力で逃げろ」と言って自分は踵を返すに決まっています。
「逃げるのは悪手だよ!!
この霊石を使って最後まで戦う方が道が開けるって!!」
金さんにしがみついていた事をこれ幸いと、足を踏ん張ってその場に重しのようにして踏みとどまりますが、そんな私を金さんはひょいといとも簡単に担ぎ上げてしまいます。そして暴れる私を意に介さず、ずんずんと歩いて天空島の端の少し手前まで進んでいきました。そこで飛び降りるタイミングを図るようです。
そうして初めて見た島の直下付近の風景は……。
教科書で見た空襲の後のように全てが真っ黒で、もしこの光景に題名をつけるとしたら「絶望」としか付けられないような光景が広がっていました。何より私の目を引いたのは遥か下方に小さく見えている桃さんと浦さん、そして龍さんの姿です。私の視力ではハッキリと見える訳がないのに集中した為か、それとも浦さんが力を貸してくれたのか直ぐに見つける事ができました。
彼らは人の形をしていても、人ではありません。ですから怪我をしても血を流したりすることはありません。
そんな彼らが……
浦さんの艷やかな長い髪が乱雑に切り落とされていて、右前側なんてショートボブよりも短くなってしまっています。それだけでも衝撃的だったのに、前線で戦っていた桃さんや龍さんは……何度目を凝らしても一部の手足が見つけられませんでした。
血の気が引くなんてものじゃありません。
私の視覚や聴覚から色も音も消え失せ、「どうして?」という自問の言葉だけが自分の中でこだまし続けます。先ほども「生死を賭けた戦い」と思ったりしていましたが、その言葉の持つ真の意味や重さを見せつけられた気がしました。
「あ、あぁあああ、やだっ!! やだぁぁああ!!!!!」
がむしゃらに暴れる私に、金さんの手が思わず緩みます。その隙に私は地面へと降りると、一目散に天空島の縁へと駆け寄りました。もちろん駆け寄ったところで私には飛び降りることはできませんし、弓などで攻撃する手段もありません。
私が落ちないようにと作られた柵に掴まって、身を乗り出すようにして地表に居る三人の名前を呼ぶ事しかできません。心話で届く声は確かに何時もとは違って、少し余裕がなかったり疲労したりしていました。ですがそれは戦いの最中だから仕方がないと、そう思っていたのです。まさかこんな姿になっているなんて思いもしませんでした。
「桃さん!! 浦さん!!! 龍さん!!!!」
喉から血が吹き出すような私の叫びが、夜明けの山々に響き渡ったのでした。
天空に浮かぶ島に居る私から見えているのは、かなり遠い景色のみです。なので辛うじて見るという行為ができていますが、これが眼前にあったらあまりのグロテスクさに悲鳴すらあげられずに気を失っていたかもしれません。それぐらい惨憺たる状況なのですが、この天空島の真下にあるアスカ村だけ無傷でいられるはずがなく、住人たちの家や茴香殿下の御殿も崩れたり焼けてしまっていることでしょう。むしろそれだけなら御の字で、土蜘蛛や巨大な蛇やトカゲの死骸が家を潰していたり体液で穢している可能性もあります。それを思うと、どれだけ殿下や村人に謝っても謝りきれないと思ってしまいます。
慣れ親しんだ自分の家が無くなってしまう悲しさは、経験があるだけに痛いほどに解ります。戦場になる可能性が高かった為に前もって家財道具は全て持ち出しているはずですが、それでも家が無くなってしまうのは辛い事です。
そもそも三太郎さんと龍さんの想定では、ここまで大規模な損害が出る予定ではありませんでした。その結論を導き出した理由は色々とありますが、一番の理由は土の神が異常なまでに現状維持を望んでいた事でした。土の神が成長という名の変化すらも嫌ったことは、変化を司る風の神を真っ先に滅ぼした事からも解ります。そして火の神と水の神を追い込み、意図しての事だったのかどうかは不明ですが、最終的にその二柱の神々も滅ぼしてしまいました。
それぐらい現状維持にこだわる土の神が大地を揺り動かし、山を崩し、植物も昆虫も妖化させて攻撃してくるとは思ってもいなかったのです。三太郎さんたちは積極的に自然環境を破壊する気はありませんでしたが、必要ならば仕方ないというスタンスでした。なのに蓋を開けてみればこちら側が環境維持に気を配らねばならず……。
この天空島を作った事からも解るように、最近の三太郎さんたちはかなり吹っ切れています。茴香殿下たちにも条件付きで技術提供したり、17年前と比べると私が持ち込む情報や技術に寛容になりました。
正確には寛容というよりも数千年もの間、全く進歩しない世界というのは異常だと思ったようです。そして成長を止められた世界は歪がゆえに崩壊の危機にあり、世界を守るには適切な成長が必要なのだと思ったようです。私個人の知識でいえば約2万年続いた旧石器時代なんてのもあるので、単純に数千年成長がないという事だけで問題があるとは言えないと思いますが、現に崩壊しかけているのだから対処するしかありません。
そして問題の土の神なのですが……
「金さん、土の神ってここに来ているの?」
「来てはおるが、そなたは意識をそちらに向けるでない」
私の目には土の神が見えていないんですよね。まだ夜明け前で暗いからだと思っていたのですが、桃さんの爆炎で照らされた周囲を見ても確認できません。土の神も金さんや山さんの元々の姿や、叔父上たちの守護精霊と同じように金属っぽい色をした球体だと思うのですが、それらしいものが見当たらないのです。
思わず探そうとしたのですが、すぐさま金さんに止められてしまいました。相手を探ろうと意識を向けたら、土の神もこちらを認識しやすくなるのだそうです。これはアレですね、ニーチェの「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」という言葉から哲学的な意味を抜いた、言葉通り受け取れバージョンです。
なので即座に探す事を止めて、意識を別の方へと向けます。
私がここに居るだけで意味があると言ったのは龍さんで、何でも私という異分子がいることで、歴史の流れが大きくズレる可能性が高まるのだそうです。だからといって、ただボーと見ているわけにもいきません。今、まさに皆が生死を賭けて戦っているのですから。ですが、同時に余計な事をする訳にもいきません。私が動くことで三太郎さんたちの手間を増やしたら最悪ですし、土の神に私という異分子を認識されて集中攻撃を食らうような羽目になったら目も当てられません。
この17年の間に土の神が私を認識してしまう機会はあったんじゃないかと思ったのですが、常に三太郎さんが傍にいた事で良い具合にカモフラージュされていたんだとか。あとは内側にいた龍さんの力も土の神を欺いていたらしく、今のところ認識されていないのだそうです。
ですが至近距離で何かをやらかしたら、流石にバレます。なので三太郎さんたちから、口を酸っぱくして言われました。
「これを預けますが、使うのは逃げる時だけです。良いですね」
「その時まではぜってぇに使うなよ!」
「時は我らが稼ぐゆえ、そなたは逃げる事に専念せよ。良いな?」
「まぁ、そうならないように儂らが居るんじゃがな」
そんな皆の言葉を思い出しながら、ドーリス式キトンの腰から下げている巾着袋へと視線を移しました。中に入っているのは、純度や強度を選りすぐった各種霊石です。万が一にも土の神を倒せなかった場合、私は真っ先に、そして一目散に逃げろと言われました。その時に一緒に逃げる事はできないかもしれないからと、私の思うままに使うことの出来る、霊力を限界まで籠めた霊石をもらったのです。
ですが……
三太郎さんや龍さんの気持ちは嬉しいと思う反面、
世界が滅ぶというのに逃げてどうなるのでしょう?
どうせなら最後まで大切な人とは一緒に居たい。
これは昔も今も変わらない私の嘘偽り無い気持ちです。
<駄目だ!! 金、櫻を連れて先に行け!>
桃さんの切羽詰まった心話が飛び込んできたのは、東の山際がうっすらと白くなり始めた頃でした。夜明けだ!と心が浮き上がったと思ったら、問答無用で地面へと叩きつけられた気分になります。急な襲撃から2~3時間も戦い続けた桃さんたちでしたが、相手は妖化した手勢を次から次へと投入し、更にはこちらが守りながら戦っている事を嘲笑うように山を崩し地面を割って攻撃してきます。そのせいで想定以上に霊力を消費してしまったようで、桃さんは心話の声が掠れてしまう程に疲弊しているようです。
<櫻、おぬしには頭を下げねばならない事が幾つもある。
じゃが、今はその時間がない。本当にすまなかったな……>
まるで遺言のような事を言い出す龍さんに、浦さんまでもが先に行けと言い出します。三太郎さんたちのそんな言葉に私の頭の中はパニック寸前で、あんなに強くて頼りになる三太郎さんに龍さんまでもが揃っていて、どうして土の神一人に負けてしまうの?と思考の渦がぐるぐると回り続けます。
<その島を浮かしている霊力も攻撃へ回す。
その為の措置じゃから心配するな。良いな、直ぐ逃げるのじゃぞ?>
<おっ、良いな。その島をあいつに直撃させりゃぁ、少しは堪えるだろ>
明るい桃さんの声が、なんだかとても悲しくて……。
<嫌だ!! 最後までここにいる!!>
<聞き分けなさい!!!>
浦さんの一喝に、ビクッと身体をすくめてしまいました。浦さんにこんな声で怒られた事は今まで一度もありません。私だけ逃げても意味がないって言っても、ここで三太郎さんたちに何かあったら世界は滅んでしまうのだから最後まで一緒に居たいと言っても、三太郎さんたちは頷いてくれません。
<金、今から天空島の高度を徐々に下げる。
おぬしが行けると思ったら、櫻を抱えて飛び降りるのじゃ>
<相分かった。あとは頼む>
「金さん、駄目だよ!!」
このまま逃げるなんて絶対に駄目です。それに今は金さんと一緒にと言っていますが、ある程度逃げたところで金さんは私を開放し「あとは自力で逃げろ」と言って自分は踵を返すに決まっています。
「逃げるのは悪手だよ!!
この霊石を使って最後まで戦う方が道が開けるって!!」
金さんにしがみついていた事をこれ幸いと、足を踏ん張ってその場に重しのようにして踏みとどまりますが、そんな私を金さんはひょいといとも簡単に担ぎ上げてしまいます。そして暴れる私を意に介さず、ずんずんと歩いて天空島の端の少し手前まで進んでいきました。そこで飛び降りるタイミングを図るようです。
そうして初めて見た島の直下付近の風景は……。
教科書で見た空襲の後のように全てが真っ黒で、もしこの光景に題名をつけるとしたら「絶望」としか付けられないような光景が広がっていました。何より私の目を引いたのは遥か下方に小さく見えている桃さんと浦さん、そして龍さんの姿です。私の視力ではハッキリと見える訳がないのに集中した為か、それとも浦さんが力を貸してくれたのか直ぐに見つける事ができました。
彼らは人の形をしていても、人ではありません。ですから怪我をしても血を流したりすることはありません。
そんな彼らが……
浦さんの艷やかな長い髪が乱雑に切り落とされていて、右前側なんてショートボブよりも短くなってしまっています。それだけでも衝撃的だったのに、前線で戦っていた桃さんや龍さんは……何度目を凝らしても一部の手足が見つけられませんでした。
血の気が引くなんてものじゃありません。
私の視覚や聴覚から色も音も消え失せ、「どうして?」という自問の言葉だけが自分の中でこだまし続けます。先ほども「生死を賭けた戦い」と思ったりしていましたが、その言葉の持つ真の意味や重さを見せつけられた気がしました。
「あ、あぁあああ、やだっ!! やだぁぁああ!!!!!」
がむしゃらに暴れる私に、金さんの手が思わず緩みます。その隙に私は地面へと降りると、一目散に天空島の縁へと駆け寄りました。もちろん駆け寄ったところで私には飛び降りることはできませんし、弓などで攻撃する手段もありません。
私が落ちないようにと作られた柵に掴まって、身を乗り出すようにして地表に居る三人の名前を呼ぶ事しかできません。心話で届く声は確かに何時もとは違って、少し余裕がなかったり疲労したりしていました。ですがそれは戦いの最中だから仕方がないと、そう思っていたのです。まさかこんな姿になっているなんて思いもしませんでした。
「桃さん!! 浦さん!!! 龍さん!!!!」
喉から血が吹き出すような私の叫びが、夜明けの山々に響き渡ったのでした。
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