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無敵な人
無敵な弟妹は
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俺の弟妹は無敵だ。
俺はいつも弟妹たちにらけちょんけちょんにされる。解せぬ。
「お兄、これで良いか?」
「おう。……うん、良い感じ。さっすが柊」
「…誉めても何もでないぞ」
照れた柊は左下を向いて呟く。柊は俺の三つ下の妹で、フリーデザイナーを生業としている。
俺には弟妹が三人居る。三つ下の双子の姉弟の柊と椿、八つ下の妹である榎だ。俺も弟妹たちも仲が良い方で、一ヶ月に一回は必ず近況報告も会っている。それこそ先日もあったばかりだ。普段はもちろんそれぞれの仕事があるから関わりが少ないが、柊に関しては別だった。
「お前が書くのは、やっぱり色味が綺麗で良いなぁ…」
夕焼けと宵闇が混ざった色味の空を描かいたキャンバスは、俺が以前柊に依頼していたものだった。
「玄関に飾るのにこの暗い色味で本当に良かったのか?」
「もちろん!この色使いが俺の好みぴったり」
「……お兄が納得しているなら、私も構わないが…」
確かに、綺麗な色使いだが玄関にはあまり飾らないとは思う。だけど、好きだから。一般論は関係ない。そもそも他人に家のインテリアの好みまでとやかく言われる筋合いはない。
「仕事は順調か?」
「そろそろ年末が近付いて来るからな…年賀状やら、来年の干支文字のデザインの仕事が増えている」
「そっか、柊はこれから繁忙期に入るんだな」
「どんな仕事でも年末にかけては繁忙期だろう」
「違いない」
かくゆう、俺の職場である楽器屋も繁忙期だ。年末商戦もだか、俺は楽器のリペアマンとして修理だけでなく、定期メンテナンスにも携わっているから、楽器の大掃除に来る客で忙しい。お陰さまで俺に贔屓にしてくれる固定客がまぁまぁ居てるから、儲かっている。フリーのわりに。
「お兄も繁忙期だろ?来月は集まらないでおくか?」
「えっ!?それはやだ。俺の楽しみを取り上げないで!?」
「仕事が優先だろうが」
「椿も榎も楽しみにしてるって!?」
「それはお兄の願望だろうが」
そうだけどっ!
弟妹はめちゃくちゃ冷めた性格で、俺がスッゴい弟妹たちを愛しているのに三分の一くらいの愛しか返してくれない。何故。解せぬ。
て、前に柊に言ったら"重すぎ"と言われた。解せぬ。
「まぁ、私も仕事を調整するが、最近は春樹のマネジメントもしてるからな…。あまり時間を取れる自信はない」
「春樹くんと僕らどっちが大事なの!?」
「重いわ阿呆」
柊からの即答に項垂れる。
「春樹くんも年末にかけて忙しいんだよね?榎もいつもそうだし」
「ああ。ハロウィンに、クリスマス、年末、新春コンサート…山積みだ。椿の方は季節原稿の締め切り次第だろう。榎はまだ産後一年だから、真人(まなと)次第だろうな」
椿は大学二回生の時に、本人曰く適当に応募した小説が入賞し、小説家デビューした。それ以来、短編・長編・季刊誌などなど、色々執筆活動をしている。が、締め切りを守らない常習犯で、担当編集者さんからは緊急連絡先として俺たちの連絡先も聞かれている。一度、大脱走したからだ。
「椿は締め切り守れたら、だな」
「守れないに五票」
「双子の弟に容赦ないな」
「双子だからこそ分かる。あいつは何回でも気が乗らないとか言って、締め切りを守らないのが目に見えている」
「確かに椿は言いそう…」
「榎は真人が一緒なら来れるんじゃないか?」
「真人なら大歓迎!可愛いし!」
「お兄に懐いているのが今世紀最大の謎だな」
「どういう意味かな!?」
「そのまんまだよ阿呆」
真人は榎の一歳になる息子で、俺の甥っ子にあたる。榎の小さい頃にスーッごく似ているから、俺はめちゃくちゃ可愛がっていて、真人もそれが分かるからか懐いてくれている。
「榎は懐かなかったのにな」
「それな。めちゃくちゃ泣かれた記憶しかない…」
「構うから嫌われるんだろ」
「柊、お兄ちゃんの心はもうズタズタだよ…」
容赦ない妹からの攻撃に俺のメンタルは大ダメージを負っている。
―――ピロん
「あ、すまん。私だ」
「確認して良いよ。仕事かもだろう?」
「いや、椿だ」
「椿はなんて?」
「"お兄と一緒に居るなら、来月は締め切り守らなくて良いなら集まると伝えてくれ"―――だとさ」
「不穏すぎ…。あれ…?―――ねぇ、椿に今日俺と会うの言った?」
「いや?」
「じゃあ、この話題してること連絡した?」
「見てただろ?スマホは机の上に置いていて、私は今鳴るまで一切触っていない」
「……ねぇ、エスパーなの?椿はエスパーなの!?」
「んなわけあるか阿呆」
いやいや、じゃあ何で筒抜けなの!?怖っ!
双子のテレパシー!?怖いんだけど!?
「今日会ってるのは、たぶん春樹から椿に連絡行ったんだろう」
「春樹くんから?」
「ああ」
「なんで?」
「春樹が椿に私の日常を、日記みたいにメールで送り付けているらしい」
「え、それ面白すぎるんだけど」
春樹くん、柊の日常をよりにもよって椿に送ってるのは、面白すぎる。
柊はどの程度理解しているのか微妙だけど、椿は柊が大好き。それはもう、小さい頃からずっと一緒に居る。幼稚園から大学まで同じところに進学し、実家の部屋も"必要性を感じない"とか椿が言って、昔からずっと二人一緒の部屋で寝ている。柊も椿が良いなら、と無頓着ぶりを発揮して特に異議を唱えないし、柊も何だかんだでいつも椿を優先する。
そんな柊に椿よりも優先する存在である彼氏が出来て。椿としては面白くないはずだ。そんな春樹くんからの、柊の日常メール。
……何だろう。そのやり取りを見てみたいような、パンドラの箱のような…。
―――ぴよん
再び柊のスマホが鳴る。
さっきとは違う着信音で。
スマホを確認する柊を観察していると、ふいにその表情が綻んだ。
「春樹くんから?」
「ん?ああ、春樹からだ。仕事が終わったから合流しようか、と」
「そかそか。もう暗くなってきたし、迎えに来てもらえ。今日は春樹くんが車を使っているんだろう?」
「ああ。春樹からも朝出るときに、迎えに行くと言われていた」
幸せそうな柊を見ると、安心する。もう"あの時のような"柊は、見たくない。
「じゃあ、お迎え来るまでの間、もうちょい来月の集まりの話詰めて良い?」
「榎に確認しろ」
即答。なんで。
「椿にも冷たくされたし、お兄ちゃん悲しい」
「勝手に言ってろ」
「弟妹が俺に非常につめたーーい」
俺の弟妹は無敵だ。
俺はいつもけちょんけちょんにされて、白旗を振るしかない。
解せぬ。
俺はいつも弟妹たちにらけちょんけちょんにされる。解せぬ。
「お兄、これで良いか?」
「おう。……うん、良い感じ。さっすが柊」
「…誉めても何もでないぞ」
照れた柊は左下を向いて呟く。柊は俺の三つ下の妹で、フリーデザイナーを生業としている。
俺には弟妹が三人居る。三つ下の双子の姉弟の柊と椿、八つ下の妹である榎だ。俺も弟妹たちも仲が良い方で、一ヶ月に一回は必ず近況報告も会っている。それこそ先日もあったばかりだ。普段はもちろんそれぞれの仕事があるから関わりが少ないが、柊に関しては別だった。
「お前が書くのは、やっぱり色味が綺麗で良いなぁ…」
夕焼けと宵闇が混ざった色味の空を描かいたキャンバスは、俺が以前柊に依頼していたものだった。
「玄関に飾るのにこの暗い色味で本当に良かったのか?」
「もちろん!この色使いが俺の好みぴったり」
「……お兄が納得しているなら、私も構わないが…」
確かに、綺麗な色使いだが玄関にはあまり飾らないとは思う。だけど、好きだから。一般論は関係ない。そもそも他人に家のインテリアの好みまでとやかく言われる筋合いはない。
「仕事は順調か?」
「そろそろ年末が近付いて来るからな…年賀状やら、来年の干支文字のデザインの仕事が増えている」
「そっか、柊はこれから繁忙期に入るんだな」
「どんな仕事でも年末にかけては繁忙期だろう」
「違いない」
かくゆう、俺の職場である楽器屋も繁忙期だ。年末商戦もだか、俺は楽器のリペアマンとして修理だけでなく、定期メンテナンスにも携わっているから、楽器の大掃除に来る客で忙しい。お陰さまで俺に贔屓にしてくれる固定客がまぁまぁ居てるから、儲かっている。フリーのわりに。
「お兄も繁忙期だろ?来月は集まらないでおくか?」
「えっ!?それはやだ。俺の楽しみを取り上げないで!?」
「仕事が優先だろうが」
「椿も榎も楽しみにしてるって!?」
「それはお兄の願望だろうが」
そうだけどっ!
弟妹はめちゃくちゃ冷めた性格で、俺がスッゴい弟妹たちを愛しているのに三分の一くらいの愛しか返してくれない。何故。解せぬ。
て、前に柊に言ったら"重すぎ"と言われた。解せぬ。
「まぁ、私も仕事を調整するが、最近は春樹のマネジメントもしてるからな…。あまり時間を取れる自信はない」
「春樹くんと僕らどっちが大事なの!?」
「重いわ阿呆」
柊からの即答に項垂れる。
「春樹くんも年末にかけて忙しいんだよね?榎もいつもそうだし」
「ああ。ハロウィンに、クリスマス、年末、新春コンサート…山積みだ。椿の方は季節原稿の締め切り次第だろう。榎はまだ産後一年だから、真人(まなと)次第だろうな」
椿は大学二回生の時に、本人曰く適当に応募した小説が入賞し、小説家デビューした。それ以来、短編・長編・季刊誌などなど、色々執筆活動をしている。が、締め切りを守らない常習犯で、担当編集者さんからは緊急連絡先として俺たちの連絡先も聞かれている。一度、大脱走したからだ。
「椿は締め切り守れたら、だな」
「守れないに五票」
「双子の弟に容赦ないな」
「双子だからこそ分かる。あいつは何回でも気が乗らないとか言って、締め切りを守らないのが目に見えている」
「確かに椿は言いそう…」
「榎は真人が一緒なら来れるんじゃないか?」
「真人なら大歓迎!可愛いし!」
「お兄に懐いているのが今世紀最大の謎だな」
「どういう意味かな!?」
「そのまんまだよ阿呆」
真人は榎の一歳になる息子で、俺の甥っ子にあたる。榎の小さい頃にスーッごく似ているから、俺はめちゃくちゃ可愛がっていて、真人もそれが分かるからか懐いてくれている。
「榎は懐かなかったのにな」
「それな。めちゃくちゃ泣かれた記憶しかない…」
「構うから嫌われるんだろ」
「柊、お兄ちゃんの心はもうズタズタだよ…」
容赦ない妹からの攻撃に俺のメンタルは大ダメージを負っている。
―――ピロん
「あ、すまん。私だ」
「確認して良いよ。仕事かもだろう?」
「いや、椿だ」
「椿はなんて?」
「"お兄と一緒に居るなら、来月は締め切り守らなくて良いなら集まると伝えてくれ"―――だとさ」
「不穏すぎ…。あれ…?―――ねぇ、椿に今日俺と会うの言った?」
「いや?」
「じゃあ、この話題してること連絡した?」
「見てただろ?スマホは机の上に置いていて、私は今鳴るまで一切触っていない」
「……ねぇ、エスパーなの?椿はエスパーなの!?」
「んなわけあるか阿呆」
いやいや、じゃあ何で筒抜けなの!?怖っ!
双子のテレパシー!?怖いんだけど!?
「今日会ってるのは、たぶん春樹から椿に連絡行ったんだろう」
「春樹くんから?」
「ああ」
「なんで?」
「春樹が椿に私の日常を、日記みたいにメールで送り付けているらしい」
「え、それ面白すぎるんだけど」
春樹くん、柊の日常をよりにもよって椿に送ってるのは、面白すぎる。
柊はどの程度理解しているのか微妙だけど、椿は柊が大好き。それはもう、小さい頃からずっと一緒に居る。幼稚園から大学まで同じところに進学し、実家の部屋も"必要性を感じない"とか椿が言って、昔からずっと二人一緒の部屋で寝ている。柊も椿が良いなら、と無頓着ぶりを発揮して特に異議を唱えないし、柊も何だかんだでいつも椿を優先する。
そんな柊に椿よりも優先する存在である彼氏が出来て。椿としては面白くないはずだ。そんな春樹くんからの、柊の日常メール。
……何だろう。そのやり取りを見てみたいような、パンドラの箱のような…。
―――ぴよん
再び柊のスマホが鳴る。
さっきとは違う着信音で。
スマホを確認する柊を観察していると、ふいにその表情が綻んだ。
「春樹くんから?」
「ん?ああ、春樹からだ。仕事が終わったから合流しようか、と」
「そかそか。もう暗くなってきたし、迎えに来てもらえ。今日は春樹くんが車を使っているんだろう?」
「ああ。春樹からも朝出るときに、迎えに行くと言われていた」
幸せそうな柊を見ると、安心する。もう"あの時のような"柊は、見たくない。
「じゃあ、お迎え来るまでの間、もうちょい来月の集まりの話詰めて良い?」
「榎に確認しろ」
即答。なんで。
「椿にも冷たくされたし、お兄ちゃん悲しい」
「勝手に言ってろ」
「弟妹が俺に非常につめたーーい」
俺の弟妹は無敵だ。
俺はいつもけちょんけちょんにされて、白旗を振るしかない。
解せぬ。
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