底辺家族は世界を回る〜おじさんがくれた僕の値段〜

ROKUMUSK

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第二章

旅星

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 ゆらゆらと揺れる視界の中で、夢を見る。

僕は夢でいつも見る綺麗な女の子、
僕の娘だった子と抱き合っていた。

『なんでママはパパといるの?』
『私の為だなんて言わないでよ』
『死にたいからパパと居るの⁉︎』

夢だって分かってるんだけど、何だか…何だか…。
僕に言われたみたいでどうしたら良いか分からなかったんだ。

『ママ、ママ!』

僕は誰かのために殴られたいなんて思わないよ。
兄さんと喧嘩したって僕は殴り返すし、妹に髪を掴まれたら掴み返すしな。でも夢の中で僕は怖くて立てないんだ。

『何で逃げちゃ駄目なの?』
『逃げてよ!』

肩を掴まれてグラグラ揺らされた。
そうだよな。逃げなきゃ…おじさんと逃げなきゃ!


 ハッと目が覚めたら、何でか僕はおじさんに抱えられていて、おじさんが走っているからガツガツ荷物に顔が当たってた。びっくりして、おじさんの背中を何度も叩いたけど、止まってくれない。

ガブ‼︎

分厚いコートを何度も噛んだけど止まってくれない!

「おじさっ!とまっ、止まれよ!」

頑張っておじさんの体を押し除けた。
そしておじさんが僕を見上げ、それからゆっくり歩き出したんだ。

でも僕は急に怖くなっておじさんの腰に抱きついた。
だって、今まで碌に笑いもしなかったおじさんが泣いていたから…。
とても悪い事が起きたんだって思ってさ、怖かったんだ。

「おじさんっ!な、何で泣いてるんだよ…」

確か僕はあの怖い女みたいな男に首絞められてたよな。
おじさんが助けてくれた…の、かな?

おじさんが…僕を…助けてくれた。
だよね?

おじさんは僕があそこで死んでも何とも思わないと思ってた。『クソ、損した』程度にしか思わないって、本当に思ってたんだ。

でも、おじさんは今泣いてて、僕の体を強い力で抱きしめてくれてて…訳が分からないけど、何だか僕はここにいて良いんだって言われてる気分になった。

「な、なぁ…おじさん…」

「アルベルト」

「あ?」

真っ黒な目はいつもくすんでて、何も映してない様に見える。でも、今のおじさんの目は夕日が当たってキラキラしてて、そこには、はっきりと僕が映ってたんだ。

これから売られるってのにさ…。
目を合わせてくれた事がとても嬉しいって、
そんな事思うなんて僕はおかしくなったのかな?

見下ろすおじさんの顔はさ、
いつかの……父さんが『ただいま』を言う時みたいな顔だった。



「アルベルトだ」

何言ってんだろおじさん。
アルベルトって誰だよ。

「な、なんだよ?アルベルトって」

「……俺の名だ」

アルベルト…アルベルト…。

「アルベルト•ダッカート」

「アル…ベルト…」

何で今更おじさんは名前を教えてくれるんだろう。
僕も名前、言うべきなのかな?
急に身体中が熱くなって、恥ずかしくなった。

「お前の名前を教えてくれ」

「僕…の?」

「あぁ、そうだ…知りたいんだ」

胸がドクドク煩くて、
喉がぎゅーーって締まって息が苦しい。
なのに嬉しい。

「ぼっ!僕はっ…うぐっ、ふえっ…」

ガサガサのおじさんの手は大きくて、
僕の顔がすっぽり包まれた。

「ゆっくりでいい」

「ふえぇぇっ!僕はっ!僕はユリアッ…うえぇっ!ユリアーナだっ!」

そう、僕はユリアーナ。
ロレント王国の、アマラッタ村の、父さんと母さんの娘。
ユリアーナなんだよ…おじさんっ!

砂の匂いのするおじさんは僕を簡単に抱き上げていたけど、僕は重いかな?って思って降りようとした。でも、ぎゅってするおじさんの腕が僕を掴んでる。

見下ろすおじさんの顔は涙で濡れてて、何でか村で飼ってた真っ黒で大きな犬を思い出した。

「ユリアーナ…俺は人買いを辞める」

「…」

「共に行こう」

「‼︎」

おじさんは僕を売ると言ってた。
売らないと損だからって。
でも今、おじさんは『共に行こう』って言った!
それって、僕をおじさんが買ってくれたって事だよな⁉︎

「な、なぁ!なら俺に金払ってくれよ!売るよ!俺、おじさんに俺を売るっ!だからっ!連れてってくれよっ…下さいっ!」

おじさんは一瞬びっくりした顔をしたけど、何でか急に笑い出してぎゅうぎゅうに抱きしめてくれた。



「そんなのこれまでに掛かった費用で精算済みだ」






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