底辺家族は世界を回る〜おじさんがくれた僕の値段〜

ROKUMUSK

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第二章

名を呼ばれる

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 人買いの仕事は実入りが良い分過酷な仕事だ。

 顔馴染みが年を取る度に損失を増やし、蓄えを切り詰めても今更別の仕事にあり付け無いと嘆くのを見て来た。

そう、この仕事は長く出来る物じゃ無いと分かっていた。

だが、その決断はまだ先でも良いと引き延ばしていた。
たとえ無一文で野垂れ死んでも、気に掛ける者もいないのだから──と。

だが昼間の出来事から、漠然としていた人生を見直すべきだと俺は気付かされた。

ユリアーナとの出会いは、俺にとって幸運なのかもしれない。

「おじさん、これからどこに行く?ここみたいな街か?」

 領事館では今日出国する手続きをしていたが、アルシャバーシャ様との事で買い出しも何も出来ずにいたから、このまま出国するのは無理だと再度手続きをしに戻る事にした。

「ユリアーナ」

「なに?」

嬉しそうに笑う顔に俺はまだ、慣れない。
どう接するべきか判断に困る。

娘だと、娘の様に守ると決めた子だ。
しかし、子供とまともに接した事の無い俺はどうするべきかに戸惑っている。

この手で触れて良いのか、と悩む。

「荷物を買い足さなきゃ砂漠は越えられん…明日出国する。手続きをし直すぞ」

「えー…僕、あそこに戻るの嫌だよ。あの人、またいるかもしれない…」


アルシャバーシャ様の事が気に入らない様だな。
それもそうか、あの様な事をされれば仕方もない。


「なら宿で待っていろ…だが、絶対に部屋からでるなよ」

「分かってるよっ!音も立てないし、誰かが来ても返事もしないよ」

こういう時、賢いと助かるな。
何を言わずとも己の状況を理解している。
ふむ…教え込み甲斐がありそうだ。

宿を先に取る。そして荷物を降ろした。
ユリアーナはこの旅で初めてのベッドに喜んでいる。
とりあえず注意しておくか。

「この部屋に入るまでに人に見られている。もしもお前に何かしようと思う者がいれば押し入ることもあるかもしれん」

「…うん」

部屋を見渡すと、背の高いキャビネットがあり、隣にコートを掛けるワードローブがあった。扉を開け見分する。

「ここにするしかないな」

ワードローブ内のフックに俺のベルトを引っ掛け、皮のバックルを締める。そして扉の内側にあるフックをボタンホールを通した。少しの隙間しか開かなくなった扉の隙間から腕を差し入れフックを金槌で歪め外れない様にする。

「これくらいならお前も入れるだろう…入ってみろ」

「お、おう」

ユリアーナは軽く引っかかりながらもスルリと入り込み、隙間から俺を見た。その目に恐怖は無く、ワクワクとしている様だった。

「…はぁ…」

何でこう…全く緊張感に欠ける娘だ。

「?」

「とりあえず出てこい」

「ん」

「ユリアーナ、もしも誰かが来たならここに隠れろ。だが、強度は無い。大人の力なら強引に開けることも容易いだろう」

「ならどうするんだよ?」

「これで殴れ」

フックを曲げた金槌をワードローブ内の床に置く。最低限だが抵抗は出来るはずだ。

「俺が出たら部屋に鍵をする。誰か来たならここに隠れる…いいな?」

「おじさんが戻っ…」

「アルベルト」

「っ!…ア…アル…おじさん…」

「何だ?」

名を、呼ばれる事が嬉しいとは思わなかった。
だが呼ばせたかった。

— アル!

最後に呼ばれたのはいつだったか。

— アル!いってらっしゃい。

ドアから見上げていたユリアーナの姿にサナが重なった。
けれど、以前の様な苦しみは無い。

「アル…おじさんが戻ってきたら…どう分かる?」

「ノックを3回、それを3回する」

「分かった!」

任せろ!とでも言いたげに胸を張る姿に俺は呆れと共に、ふっと張り詰めた何かが解けた気がした。















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