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第二章
悪縁との邂逅 1
しおりを挟むサザンガードに入った2人はまず宿を取った。そして張り詰めた緊張が一気に解け、アルベルトが荷を降ろすとユリアーナが抱きついて来た。
「な、なぁ!大丈夫なのか?あれって大丈夫なやつか?」
「良く頑張った。もう…大丈夫だろう」
言い切らないアルベルトにユリアーナは顔を上げたが、ほっとしているその穏やかな顔に息を吐いた。
「ほーーっ…殺されると思った」
「実際、危なかった…まさかガルフェウス殿が出てくるとは」
「知り合い?」
「いや……イシャバームの間諜としてレークイスに入った…イルシャム様の元従者だ」
「え?何であそこにいたの?」
「分からん。だが、寝返った…と見るべきだろうな」
「それってヤバいんじゃないのか?だって僕、あの女男に買われることになってんだろ?」
「あぁ。だが—— 見逃された。単にアルシャバーシャ様との繋ぎとして見逃されたのかもしれんが」
「えぇぇ…それってまた僕達あの女男に会わないと駄目って事?」
「報告はせねばならん。だが会いに行くつもりはない」
そう言ったアルベルトの顔は、不安や恐怖では無く何かを訝しむ顔だった。これ以上は聞いても理解出来ないし、アルベルトも説明しないだろうとユリアーナは布団に腰を下ろした。
「あ…ふっ」
しぱしぱと瞬きするユリアーナ。アルベルトは部屋の浴室にシャワーがあるのを確認して声を掛けた。
「ユリアーナ。シャワーがある、汚れを…」
浴室から顔を出したアルベルトは、床に板を一枚敷いてその上に敷かれただけのベットに倒れる様にして眠っていた。
「強行したからな…それに、本当に良く耐えた」
眠るユリアーナのブーツとポンチョなどを脱がせ、下着姿のまま上掛け布団を被せてやった。
布団を被せた胸元に、ポン、と手を置きそうになって、アルベルトの手が止まった。
ほんの少し、守ってやりたいと思った。
けれど、それ以上は分からなかった。
娘……父親。
どんな触れ合いが、どこまでが自然なのか。
死んだ娘にしてやれたのは、たった数回の抱擁だけ。
その先は知らない。
だから今、何をすればいいかも分からない。
何が“してやりたい”ことなのかも分からない。
……まずは、弟子として育てるか。
せめて今日一日は、肩の力を抜いて休もう……明日からはまた別だろうからな。
そうアルベルトは納得すると浴室に向かった。
翌日、夕方近くまで寝ていた2人は宿屋で料理を注文し、部屋でその日初めての食事をしていた。
「んぐっむぐっ、ぷはっ!で?ごくっごくっ」
「…お前に記憶という物は無いのか」
「え?…むしゃむしゃっごくっ」
頬をパンパンに膨らませ、口元や手元はベタベタ。食べカスが辺りに散乱している。アルベルトは溜息を吐きながらナプキンをユリアーナの手元に投げた。
「…今のお前では商売相手の前になど永遠に出せないぞ」
その言葉に、ユリアーナはポカンとした顔をしたが、イシャバームにてマナーがなっていなければ連れては行けないと言った言葉を思い出して慌てて口の中の物を飲み込んだ。
「わっ、分かってる!」
そして口元、手元を拭ってテーブルを拭くとそれを畳みそっと端に寄せた。
「…はぁ……」
溜息一つにユリアーナはビクリと震えて上目遣いでアルベルトを見た。そんなユリアーナに、自然と手が頭に向かう。
「そうだ、食い方はそいつの為人、過去、関わってきた者が表れる…ちゃんと気付けたな」
まるで犬畜生を可愛がっている気分だ。
だが、まぁ…こうやって育っていくのだろう。
俺達は。
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