底辺家族は世界を回る〜おじさんがくれた僕の値段〜

ROKUMUSK

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第二章

吹っかけ、得を示して元手を得る 1

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 ミーセスと別れた後、2人はレークイスへと入国した。そして入国完了を行う役職へと向かい、手元にあった証文証書を正式な物とした。

「なぁ、これで僕はあの女男に完全に売られたって事か?」

「あぁ」

「ならさ、もう演技とかしなくてもいいのか⁉︎」

「そうだな。演技をする必要は無い…だが、何がきっかけとなるか分からんからな…出来るだけ大人しくしてろ」

「分かった」

2人は人の行き交う道を歩いて次の旅路について話をした。


「ユリアーナ……俺は次の目的地をカッカドールにするつもりだが……どうする」

「どうする?って言われても、わかんないよ」

「故郷に……行くか?」

「……もう、何にも残ってないんだろ」

ロレント王国はレークイスに吸収された。そして故郷のアマレッタ村はもう無い。
きっと家屋も農地も、遊び場にしていた川さえも、その姿を変えているだろう。

「だからだ」

「“だから”って、どういう意味?」

「区切りをつけなくてもいいのか。思い出が、あるんじゃないのか?」

ユリアーナは空を見上げて、目を閉じた。
そんな彼女を、黙ってアルベルトは見つめる。

——俺は、区切りをつけなかった。
だから、未だにあの美しいものが頭から離れない。

「……いいや」

「何故だ?」

「だって……今の村を知らなければ、いつでも目を瞑れば戻れるから」

戻りたい。でも戻れない。
そして——どこかで、戻りたくないと思っている自分もいる。

その想いを、二人はそれぞれのやり方で昇華しようとしていた。

「俺は……愚かかもしれんが、“戻っていれば”と思うことがある」

「アルおじさんも……同じなのか?」

「ああ、そうだな」


穏やかな沈黙と喧騒が2人を同じ孤独に閉じ込めて行く。
2人はまるで互いの背に凭れているような安堵感の中、傷にゆっくり触れていく。


「戻ったら、何か変わる?…もし変わらないならさ…この記憶もいつか消えるんだろうし…今はこのままでいいや」

その一言は、まるでアルベルトの頬を打つようだった。
言葉が出ず、歩きながら、
忘れねばならないという強迫観念が、静かに崩れていくのを感じていた。

「……そうだな。変わらん。そう、変わらんな」

「だったらいいや。僕の記憶、変えたくないし」

「……お前は、時に聡すぎる」

「それって僕、褒められてるのか?」

アルベルトはわずかに口元を緩め、ユリアーナの頭を撫でた。






 2人が次の行き先に決めた南の国、カッカドール。農業大国であり、この世界の食糧庫である。国民は温厚で王族は善政を敷く良き統治者であると評判であった。

「カッカドールに向かうには三国を通過する」

「どこ?」

「ルシュケール、ザハルビーク、ヒルバル。ヒルバル以外は小国だ。ザハルビークは公国で元ガザンの某系王族が公王として統治している」

「ふーん」

アルベルトが教える事は何でも覚えるつもりのユリアーナだが、事、地理的な話や王侯貴族の話になると途端に興味を失った。

「ちゃんと聞け…攫われそうになったとき、不利益を被った時…知らぬ存ぜずと喚く前にお前の首は無いぞ」

「うっ」

 世界は未だ緊張を孕んでいる。今も何処かで戦は起きていて、傷も癒えぬ前から新たな傷が出来てゆく日常。

復興など今や誰も考えない。戦は富を持つ者の享楽であり、常套手段だ。

壊れた物は無かったように新しい物に挿げ替えられる。

ならば底辺である2人はどう生きるべきなのか。

「知識こそが底辺俺達の武器で活路だ」

「でもさぁ、王様を知ったらご飯が食べれるのか~?関わる事なんてないのに?」

ガンッ!

「いったぁぁ!何するんだよ!」


アルベルトの眼差しは鋭く、拳骨の痛みにユリアーナは蹲った。


「お前の存在が第二、第三のアマレッタ村を生むんだぞ…だからアルシャバーシャ様はお前を手に入れたがったし、ミーセスは俺に警告したんだ!」







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