底辺家族は世界を回る〜おじさんがくれた僕の値段〜

ROKUMUSK

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第二章

吹っかけ、得を示して元手を得る 3

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 そろそろ出立の為の買い出しに行くとアルベルトが言い、ハカンと3人で部屋を出た。すると何やら階下が騒がしく、ハカンぎ先に降りて様子を伺った。

「あちゃータイミング悪っ…アイツ来るの早いよ」

商会の扉近くには従者を10名も連れた男がいた。
その男は、まだ寒くも無いのに貴重な獣の毛皮を纏い、貴重な宝石がこれでもかと嵌め込まれた剣を帯刀していた。

階段の中段に居たアルベルト達に気付いた男は手招きをしてハカン達を目の前に立たせ、ニヤリと笑う。

「おい、お前」

指を指されたのはハカンだった。しかし、次の言葉にハカンは頭を抱える事となる。


「その奴隷、俺に売れ。美しい奴隷は“いたぶる”に限る」


チラリとアルベルトを見るハカン。
アルベルトはフードを外して恭しく礼をした。
ハカンもアルベルトも彼が誰であるか知っている。
知らぬ者など何処にもいない。
彼はレークイスのお荷物。

国政にも王統にも関心を持たず、退廃的な遊興と残酷な嗜好に溺れる、最低な人物である。

彼は「売れ」と言うと躊躇なくユリアーナに近づき、顎を掴み、顔を覗き込んだ。

目を逸らしたユリアーナの頬を、音を立てて叩く。

「ほう、怯え顔もまた良いな……気に入ったぞ。幾らだ?レーク金貨10出す。なんなら倍以上の値をつけてやろう。俺に逆らう者はいない」

「‼︎」

慌ててユリアーナを庇うアルベルト。
殴られ呆然としたユリアーナをハカンもその手を引いて背に隠した。


「申し訳ございません。この者は既に、買い手が付いております」

叩頭したアルベルトにレブラントは可笑しそうに嗤い吐き捨てた。

「誰だ?誰が買おうが、俺のほうが格上だろうが。倍出しても良いと言ったのだぞ」

アルベルトは言い辛そうに間を置いて、弱々しく返事をした。

「…この者の値は聖白金1枚と聖金貨500で…御座います」

レーク金貨と聖金貨では価値が違う。
レーク金貨1枚の価値は聖金貨2.2枚と同等。
それが白金貨ともなると目が飛び出る金額である。

「はっ⁉︎」

常識外れの金額に、レブラントは一瞬言葉を失った。
そしてアルベルトは続ける。

「この者の主人はイシャバームの宰相閣下…アルシャバーシャ様で御座います…」

「なんだと……? たかが奴隷風情が……アルシャバーシャ様の……だと? 冗談も大概にしろっ!」


困惑するレブラントを他所に、アルベルトは証文証書と買取証文としてのペンダントを恭しく従者に手渡した。

従者がそれを受け取り、刻印と細工を確認する。

無言のまま、その場に確かな証拠が残されていく。


「……おい人買いアルベルト」

レブラントは渋々その場を収めるような素振りを見せたが、目に宿る下卑た欲望は隠しきれない。

「はっ」

「お前は掘り出し物を見つけるのが上手いか?」

「目利きは良い方かと自負しております」

「その奴隷以上の者を連れてこい!」

「今は北西、北東に戦の兆しは無く…お時間が掛かるかと」

時を稼ぎ、欲望を霧散させ、記憶を改竄させるのが俺達底辺のやり方だ。

そうアルベルトは素早く算段を付けていく。

「良い…その分より良い者を寄越せ」

「見目の良い男児となると奴隷は難しいかもしれません…なると身売りの者…中間を幾つか挟みますとかなり値が張りますが…400…」

「構わん…手付にレーク金貨500。気に入ればもう300上乗せしてやる」

普通の売り買いならばここまで掛かる事はない。
しかし、ユリアーナという極上を見た後に言い渡された最上の買い手の存在。そしてそれを橋渡しした存在が目の前にいると言う事がレブラントの金銭感覚を狂わせた。

「畏まりました。謹んでご依頼を承ります」

「頼んだぞ…だが1年以内。出来ねば…」

「見目良き者を2名…―必ずご満足いただけるかと」

「……まぁ、よかろう」

「過分な手付け金にございますから…中央に良き転売屋がございますれば、一人、私よりのお近付きとしてお贈り致しましょう」

この人買いは当たりだ。得をしたな、そうレブラントは鷹揚にうなずいた。

最後まで品位のかけらもなく、嫌らしい笑みを浮かべながら、レブラントは懐から証書を取り出した。

「これを持て。他に奪われるなよ。俺の“楽しみ”を台無しにしたら、どうなるかわかるだろうな?」

地に落ちた王族。
愚かさを武器に、暴力と金で他者を支配しようとする男。
アルベルトは、胸の奥で嘲笑しつつ、表面上は深々と頭を下げ、それを受け取った。

ユリアーナは少し離れた場所でそのやり取りを見つめていた。

「これが“補償”……“補填”……」

アルベルトに叩き込まれた知識が、いま目の前で現実になる。

他人事のように――けれど確かに、その世界の端に、自分は立っていた。



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