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第二章
面倒なことこそ大事と知る
しおりを挟む「……」
何だったんだろう。
いつの間にか全てが終わっていて、
そして僕はまだここに居る。
ユリアーナの意識が現実に戻ると、全ては既に終わっており、彼女は幌馬車で街を移動していた。未だに先程の事が夢だったのか、遠い過去の事だったのかと混乱していた。
「ユリアーナ」
「……」
「ユリアーナ‼︎」
ここに来る前にユリアーナは、自身を欲する大人の欲に晒されていた。その一人が自分であった事もアルベルトは分かっているが、これから先も同じ様な事があるだろう。そう思い、馬車を停めて荷台へと移った。
「ユリアーナ」
「…あ、うん…ごめん。ぼーっとしてたよ僕」
少し空を見つめるユリアーナ。アルベルトはそっとその頭を首元に抱き寄せた。
「これからも今日の様な事はあるだろう」
低く、穏やかな声がユリアーナを少しづつ現在に、現実に引き戻して行く。それをユリアーナは実感してほっと息を吐いた。
「ん。でも何て言うか、あんな大人に会ったの初めてで…でも打たれたのは…初めてじゃなくて」
アルベルトは、要領を得ないその言葉を黙って聞いた。
馬の軽い嗎が聞こえる。
「頬、痛むか」
その言葉に、ユリアーナは静かにアルベルトの胸に頭を預けて抱きついた。しかし、急に顔を上げたユリアーナは怪訝な顔をしていた。
「お、いっ…どこか他に怪我でもしたかっ?」
「なぁ、アルおじさん……あの偉そうなオッサン…頭大丈夫か?」
「…」
「子供の僕が見てもあのオッサン馬鹿だろ?アルおじさんにお金吹っ掛けられた事にも気付いてなかったし。価値はわかんないけど、あのお金、ここで使えば結構な額なんだろう?」
まさかの言葉にアルベルトは目を見開き感嘆した。
レーク金貨の価値は4大国で1番低く、その他小国と比較しても、価値に大きな差はない。
そして聖貨への換金率も2.2と低く、レークイスでは大金でも他国ではそこまでではない。しかし、奴隷3名を見繕い、中間業者を3者挟んでもお釣りが来るレベルだ。本来ユリアーナは聖金貨1枚の値だったのだから、吹っ掛けも吹っ掛け、ぼったくりだ。
「よく気付いたな」
「だって僕は聖金貨1枚だったろ?でもあの女男がくれた金はごめんなさいの金だから僕のじゃないよな…でも500枚から金貨1枚引いてもすごくお釣りがくる!」
「実際、レーク金貨を聖金貨に換算したら聖金貨227枚そこら…中間業者を挟んで手間賃渡しても聖金貨50は残るだろうな」
「えーーたった50?」
「50あったらどれだけ生活できると思う」
「えっと、僕の値段で半年だったろ?1年で2枚…10年で20枚…」
「どこで暮らして、どんな生活を送るかによるが…贅沢しなければ30年は暮らせる」
「‼︎」
指を折りながらユリアーナは考える。
自分の値段、それを元とした生活に掛かる経費。
そしてアルベルトが得た報酬の大きさ。
「僕もっ!僕もアルおじさんみたいにやれる⁉︎」
「あぁ。細かい事を見逃さず、世界や人の流れを面倒くさがらずに知るれば出来るようになる」
「…王様や国の事も?」
「そうだ。″面倒臭い″、これが1番物事を最悪に導いて行く。あの時あぁしていれば、こうしていればと思う時…大抵面倒臭がって放置した物が返ってきた結果だからな」
ユリアーナは思った。
アルベルトはいつだって見てない様で見ている。
無視している様で気にしていてくれる。
親でさえ、ここまで物事を詳しく説明してはくれなかった、と。
「アルおじさん」
「なんだ」
御者台に戻るアルベルト。そしてその隣に座ったユリアーナ。ニコニコと笑うユリアーナは幸せだと思った。
「僕の側にいてくれてありがとう」
「……あぁ」
アルベルトは人買いを辞めた。
きっかけはある様で無い。
続けていても良かった。
だが、新しい道を進むと決めた。
それはアルベルトの隣に温もりがあったからだ。
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