底辺家族は世界を回る〜おじさんがくれた僕の値段〜

ROKUMUSK

文字の大きさ
41 / 53
第三章

アルベルト怒りの絶品料理

しおりを挟む
 太陽が真上に昇り、温度はぐんと上昇して体力を奪っていく。

「アルおじさん暑い」

「水を飲んだらこっちにこい」

膝の上に座らせた下着姿のユリアーナに、アルベルトはオイルを塗り込んでいく。

乾燥は命取り。

こまめにオイルを塗り、水分を摂らせるアルベルト。その甲斐甲斐しく世話をする様子をミーセスはただじっと見ていた。

しかし、暇な時間に飽きたミーセスがちょっかいをかけ始めた。

「俺にもオイル塗ってくれよーアルベルトー」

「オッサン気持ち悪いっ!自分で塗れるだろっ!」

「背中にぃ、尻とぉ、太腿はぁ~…無理じゃん?」

しな垂れ、わざとらしい口調でアルベルトの背中に伸し掛るミーセス。そして睨むユリアーナの鼻をガブリと噛んだ。

「っ‼︎汚いっ!アルおじさんっ!コイツ僕噛んだっ!」

「俺とアルベルトは寝袋を共に使う仲だぞ?オイル位、塗るさ……なぁ、ア•ル•ベ•ル•ト♡」

「貴族が行軍訓練の準備を怠ったのは笑い草だったな?平民の情けに縋る姿は情け無いにも程があったぞ」

「そんな俺も愛•し•い♡だろ?」

その言葉にユリアーナは目を見開き、まるで毛を逆立てた子猫のように、アルベルトの膝から飛び退いた。

「団長…ユリアーナを揶揄うのをやめろ」

「ぼ、僕の場所なんだぞっ!アルおじさんの隣は僕のだぞっ!」

「はいはい、子猫はその辺で鳴いてろ」

背中から抱き付くミーセスを、アルベルトは腕で首を掴んで背負い投げした。

ドスッ!


「ってぇな!冗談だろ?」

「お前は…何だ、まだ子供のままでいるのか?」


その言葉にユリアーナはキョトンとし、ミーセスは泣きそうな顔で笑う。アルベルトはオイルや植物から出来たジャムの様な皮膚を保護する薬剤を箱に詰めて立ち上がった。

「ユリアーナ、お前の今を知っている。けれど、お前がこれからすべき事は何だ」

「……勉強?」

「人を知り、どう向き合い、どう付き合うのかを考える事も勉強だ…団長は馬鹿でも愚かでもない。ただ面倒臭い人間だ……厭うてやるな」


吹き抜ける砂風と、馬の嘶きが3人を包む。
ユリアーナはミーセスをじっと見ていた。
そしてミーセスもユリアーナを見下ろす様に見ていて、静かな睨み合いが続く。

「はぁ……俺は寝る」

アルベルトは荷台に乗り込むと水を一口、そしてハーブを潰した物を首筋に塗って眠りに着いた。


「なぁオッサン…」

「何だ?ルシャーク野良猫

「アルおじさんは僕にオッサンと仲良くして欲しいって事か?」

「そうだろうな」

「何でだ?」

「さぁ?それを考えるのもお前の勉強だろ?」


あれから何時間と経つのに未だに響く言い合う声。
騒がしさがアルベルトの眠りを浅くし、起きたくは無いが起きるしかなく、苛々したままアルベルトが荷台から出て来た。

「煩いぞっ‼︎ 何時間騒ぐつもりだっ!しかも……こんなに飲み食いしやがって!お前達に今晩の飯は無いからなっ!」


初めて見るアルベルトの本気の怒りに、ユリアーナは耳が倒れんばかりにシュンとして、ミーセスの手を握りその背に隠れた。



 日が傾き始め、次第に冷たい風が吹く。そしてポツポツと降り出した雨が水溜りとなっていく。

馬は喜び、ユリアーナは口を開け天を仰ぐ。
ミーセスはタバコに火をつけ、見えぬ地平線を探している。

 アルカの果実の油は加熱すると爽やかな酸味ある香りがする。そこに乾燥ハーブを数種、乾燥果実を入れてベッカ酒を加える。甘味と酸味、辛味の混じった香りが漂い、騒つく心がそこに集中して行く。

ジュワッ

乾燥肉と長期保存が利く野菜がオイルに浸る。
アルベルトは蓋をして火を消すと皮布で包んで荷馬車の床に置いた。

「アルおじさん…いーにおい…」

「アルベルト、腹が減るなぁ」

「……黙ってろ。俺は、腹が、立っている」

「「…はい」」

1日半分の水、乾燥果実一袋、柑橘果実半箱。
これを失ったのはこれからの旅における出費を増やす。それがアルベルトには許せなかった。

「……クソったれがっ!」

レークイスの換金率は低い。今回の買い出しで掛かった費用で他国で買い物をすれば、同じ量は買えない。必要な時に金が使えない、その恐怖を知るアルベルトはパン種を板に叩きつけた。

熱した鉄の小鍋に薄くしたパン生地を貼り付ける。
次第に小麦粉の良い香りが漂い、ふっくらパリっとしたパンが焼き上がる。


薄くパリっとしていてモチモチとしたパン。
そこに、スパイシーで風味豊かな乾燥肉の戻しとオイル煮された野菜を挟む。最後に新鮮な果実の食い残し…一瞬だけ、それを見つめた。
だが、構わずナイフを入れた。

「「ゴクッ」」

まともな食事を砂漠では行わない。
それが旅人の当たり前。
しかし、アルベルトの怒りはそんな当たり前を忘れさせた。

ガブッ

乾燥肉とは思えない風味と食感。
爽やかな果実の香りと酸味がオイル感をサッパリさせる。


「ふー…」

食べ切ったアルベルトをユリアーナとミーセスは指を咥えて雨に濡れている。

「次は無いと思え」

差し出された2つのサンドに2人は嬉々として飛び付いた。



























しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処理中です...