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第三章
ルシュケールの貨幣と換金 2
しおりを挟む「こんにちわ」
高めの受付台に、用紙とレーク金貨の入った袋を置いたユリアーナ。手だけが現れて、驚きつつ受付男性が覗き込んだ。
「君が両替するのかな?」
あくまでも丁寧に、だが子供相手と柔らかな笑みを浮かべる男性。ユリアーナは緊張から顔をこわばらせていたが、強く頷いた。
「1人?」
「違うよ」
振り返り、指を指した方向にアルベルトとミーセスがいた。2人はじっとユリアーナを見ていて、男性はその姿におかしそうに笑いつつ会釈した。
「初めての両替かな?」
「う、うん!難しい?」
「大丈夫だよ。僕が教えてあげるからね」
「ありがとうお兄ちゃん!」
安心した様に笑うユリアーナ。だが、その言葉にミーセスとアルベルトはムッとして、受付の男性ににじり寄った。そして耳元で囁いた。
「頼むせ兄ちゃん。うちの子の初めてのお使いだ…ナメたマネしたら《リリク》が動くからな…暴かれたくねぇもんあるなら親切丁寧に、あくまでも客として扱えよ?」
「いいか、コイツはまだガキで男だ…変な目で見るなよ」
なんて過保護な親だろうか。
そう受付男性は苦笑いしつつ頷き、待合のソファに手を向けた。
「あちらでお待ちください、お父様お兄様」
「俺がお父様だ」「いや、お前は兄だろう」そんな事を言い合いながら2人は渋々移動する。その光景をユリアーナはポカンとして見ていた。
「優しいお父さんとお兄さんだね」
「ん?違うよ?2人とも父さんでも兄さんでもないよ?」
「え?」
冗談を真顔で返され、受付男性は一瞬言葉に詰まったが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「僕は今アルおじさんに商人の仕方を教わってるんだ。今はお金の事習ってるんだ」
「…そうか。あの2人から教わるなんて羨ましいね」
「2人の事知ってるの?」
「まぁ、色々と有名だからね。リリクのミーセス•ガラムハットさんに、元エッケルフェリアのアルベルトさんでしょ?まぁ、彼方は僕の事なんて知らないだろうけど」
何だか知らないけれど、自分の保護者が有名で、それを羨ましがられているという事に、ユリアーナは破顔した。
「君も、僕だったからいいけど…綺麗な顔をしているから、2人から絶対に離れたらだめだよ?この国は決して良い国ではないから…悲しいけどね」
「ありがとうお兄ちゃん。アルおじさんから僕はなれないよ」
「うん。—さ、両替してみようか」
「うん!」
ルシュケールで使用されているのはルク貨幣。1聖金貨は700ルク金貨程度。そして1レーク金貨は364ルク金貨と小国ながら商人が集まり、両替商が数多く集まるこの地の換金レートは悪く無かった。
「どのお金に換えるか分かるかい?」
「んとね、レーク金貨をここのお金に換えたいんだ!」
「そっか。なら、今は季節変動で換金率がいいから…150レーク金貨はルク金貨55枚と銀貨70枚だね」
「……」
ユリアーナは分からない言葉ばかりな事にショックを受け、泣きそうな顔で男性を見つめた。それを見て、男性はさらに詳しく説明をしてくれた。
「詳しく聞くかい?」
「……う″ん″っ…グスッ」
「泣かないで、大丈夫だよ。きっとお2人が分からなかったら何度でも教えてくれるよ…なら言葉からいこうか」
男性はアバルトと言う名だと教えてくれた。
そして、少し迷ったがユリアーナも名を教えた。
「ユリアーナ?女の子だったのか」
「…違うよ…逆さ名」
女だと言うべきなのか。
しかし、アルベルト達がそれを公言していない以上、言うわけにはいかないとユリアーナは目を伏せた。
「そっか。お父さん達は君を守りたかったんだね」
「……うん」
優しい人だとユリアーナは思った。けれど、アルベルトを見ていて、直感は決断の時に信じる物だと知った。故に真実を曝け出すのはアルベルトの判断に任せる。そうユリアーナは決めていた。
「…アバルトお兄ちゃん」
話を逸らす様にアバルトの書いた金額にユリアーナは眉を顰めた。
「ん?」
「何でお金…減っちゃうの?」
「減る?」
「だって150枚の金貨が55枚になっちゃったよ?」
「そうだね」
「この金額なら何もしなくても生きていけるって言ってたのに…55枚になったらどうしよう…アルおじさん困っちゃうよ」
「ふふっ、そうだなぁ。困っちゃうな」
「どうする?」
「どうしよっか?」
ユリアーナの反応が可愛らしく、アバルトはクスクスと笑うと頭を撫でた。それを見ていたアルベルトが近寄り、紙を取り上げた。
「季節変動か…換金率は?」
「レークが8%で1980、ルクが5%の735ですね」
「良いだろう。手数料は5%位か?」
「はい。ですが…アルベルトさんとお近付きになれるのでしたら4%は如何ですか?」
その言葉にアルベルトは訝しげな顔をしたが、アバルトの小指に嵌められた指輪の紋章に、中央特区、総合商会から派遣された人物である事を理解した。
「……借りは作らない主義だが…」
「ユリアーナ君のお勉強の為ですね?良いですよ…これは僕からのお小遣いです」
アルベルトはアバルトの撫でた跡に、「触れるな」とでも言いたげに手を滑らせ、頷いた
「では、今すぐ換金を?それとも、もう少しお勉強してからにします?」
「…ユリアーナには俺が教える」
「アルおじさんっ!僕、アバルトお兄ちゃんと勉強したいっ!」
ミーセスはその時の事を一生忘れないだろうと思った。
あのアルベルトが懇願する様に「何故だっ!」と叫んだからだ。
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