底辺家族は世界を回る〜おじさんがくれた僕の値段〜

ROKUMUSK

文字の大きさ
44 / 53
第三章

ルシュケールの貨幣と換金 2

しおりを挟む

「こんにちわ」

高めの受付台に、用紙とレーク金貨の入った袋を置いたユリアーナ。手だけが現れて、驚きつつ受付男性が覗き込んだ。

「君が両替するのかな?」

あくまでも丁寧に、だが子供相手と柔らかな笑みを浮かべる男性。ユリアーナは緊張から顔をこわばらせていたが、強く頷いた。

「1人?」

「違うよ」

振り返り、指を指した方向にアルベルトとミーセスがいた。2人はじっとユリアーナを見ていて、男性はその姿におかしそうに笑いつつ会釈した。

「初めての両替かな?」

「う、うん!難しい?」

「大丈夫だよ。僕が教えてあげるからね」

「ありがとうお兄ちゃん!」

安心した様に笑うユリアーナ。だが、その言葉にミーセスとアルベルトはムッとして、受付の男性ににじり寄った。そして耳元で囁いた。

「頼むせ兄ちゃん。うちの子の初めてのお使いだ…ナメたマネしたら《リリク》が動くからな…暴かれたくねぇもんあるなら親切丁寧に、あくまでも客として扱えよ?」

「いいか、コイツはまだガキで男だ…変な目で見るなよ」

なんて過保護な親だろうか。
そう受付男性は苦笑いしつつ頷き、待合のソファに手を向けた。

「あちらでお待ちください、

「俺がお父様だ」「いや、お前は兄だろう」そんな事を言い合いながら2人は渋々移動する。その光景をユリアーナはポカンとして見ていた。


「優しいお父さんとお兄さんだね」

「ん?違うよ?2人とも父さんでも兄さんでもないよ?」

「え?」

冗談を真顔で返され、受付男性は一瞬言葉に詰まったが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。

「僕は今アルおじさんに商人の仕方を教わってるんだ。今はお金の事習ってるんだ」

「…そうか。あの2人から教わるなんて羨ましいね」

「2人の事知ってるの?」

「まぁ、と有名だからね。リリクのミーセス•ガラムハットさんに、元エッケルフェリアのアルベルトさんでしょ?まぁ、彼方は僕の事なんて知らないだろうけど」

何だか知らないけれど、自分の保護者が有名で、それを羨ましがられているという事に、ユリアーナは破顔した。

「君も、僕だったからいいけど…綺麗な顔をしているから、2人から絶対に離れたらだめだよ?この国は決して良い国ではないから…悲しいけどね」

「ありがとうお兄ちゃん。アルおじさんから僕はなれないよ」

「うん。—さ、両替してみようか」

「うん!」


 ルシュケールで使用されているのはルク貨幣。1聖金貨は700ルク金貨程度。そして1レーク金貨は364ルク金貨と小国ながら商人が集まり、両替商が数多く集まるこの地の換金レートは悪く無かった。

「どのお金に換えるか分かるかい?」

「んとね、レーク金貨をここのお金に換えたいんだ!」

「そっか。なら、今は季節変動で換金率がいいから…150レーク金貨はルク金貨55枚と銀貨70枚だね」

「……」

ユリアーナは分からない言葉ばかりな事にショックを受け、泣きそうな顔で男性を見つめた。それを見て、男性はさらに詳しく説明をしてくれた。

「詳しく聞くかい?」

「……う″ん″っ…グスッ」

「泣かないで、大丈夫だよ。きっとお2人が分からなかったら何度でも教えてくれるよ…なら言葉からいこうか」

男性はアバルトと言う名だと教えてくれた。
そして、少し迷ったがユリアーナも名を教えた。

「ユリアーナ?女の子だったのか」

「…違うよ…逆さ名」

女だと言うべきなのか。
しかし、アルベルト達がそれを公言していない以上、言うわけにはいかないとユリアーナは目を伏せた。

「そっか。お父さん達は君を守りたかったんだね」

「……うん」

優しい人だとユリアーナは思った。けれど、アルベルトを見ていて、直感は決断の時に信じる物だと知った。故に真実を曝け出すのはアルベルトの判断に任せる。そうユリアーナは決めていた。

「…アバルトお兄ちゃん」

話を逸らす様にアバルトの書いた金額にユリアーナは眉を顰めた。

「ん?」

「何でお金…減っちゃうの?」

「減る?」

「だって150枚の金貨が55枚になっちゃったよ?」

「そうだね」

「この金額なら何もしなくても生きていけるって言ってたのに…55枚になったらどうしよう…アルおじさん困っちゃうよ」

「ふふっ、そうだなぁ。困っちゃうな」

「どうする?」

「どうしよっか?」

ユリアーナの反応が可愛らしく、アバルトはクスクスと笑うと頭を撫でた。それを見ていたアルベルトが近寄り、紙を取り上げた。

「季節変動か…換金率は?」

「レークが8%で1980、ルクが5%の735ですね」

「良いだろう。手数料は5%位か?」

「はい。ですが…アルベルトさんとお近付きになれるのでしたら4%は如何ですか?」

その言葉にアルベルトは訝しげな顔をしたが、アバルトの小指に嵌められた指輪の紋章に、中央特区、総合商会から派遣された人物である事を理解した。

「……借りは作らない主義だが…」

「ユリアーナ君のお勉強の為ですね?良いですよ…これは僕からのお小遣いです」

アルベルトはアバルトの撫でた跡に、「触れるな」とでも言いたげに手を滑らせ、頷いた

「では、今すぐ換金を?それとも、もう少しお勉強してからにします?」

「…ユリアーナには俺が教える」

「アルおじさんっ!僕、アバルトお兄ちゃんと勉強したいっ!」


ミーセスはその時の事を一生忘れないだろうと思った。
あのアルベルトが懇願する様に「何故だっ!」と叫んだからだ。











しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~

イチイ アキラ
ファンタジー
生まれ変わったら飛べない鳥――ペンギンでした。 ドラゴンとして生まれ変わったらしいのにどうみてもペンギンな、ドラゴン名ジュヌヴィエーヴ。 兄姉たちが巣立っても、自分はまだ巣に残っていた。 (だって飛べないから) そんなある日、気がつけば巣の外にいた。 …人間に攫われました(?)

処理中です...