底辺家族は世界を回る〜おじさんがくれた僕の値段〜

ROKUMUSK

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第三章

ルシュケールの貨幣と換金 3

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 アバルトに懐いたユリアーナは、何故、どうしてを繰り返した。聖貨幣の価値の高さ、各国の自国貨幣との扱いの違いにまだすんなりとは理解出来なかったからだ。

「ユリアーナ君はこの世界にどれだけの国があるか分かるかい?」

「イシャバームにサザンガード、レークイスにルシュケール……あと、カッカドール!それと、僕の村の国…は無くなったから5つ!」

手を広げ、ユリアーナはアバルトに答えを求め目を輝かせている。

その姿にアバルトは朗らかに笑った。

「ふふ、残念。正解はね──
確定国が4つ、指定国が2つ、予備国が12、独自国が122。全部で140の国があるんだ」

「……多いのか少ないのか分かんないけど…すごいね!」

「あははっ!確かにね」

笑い合う2人を保護者2人はソファに座り黙って見ていたが、アルベルトの睨みつけるような目に、ミーセスは思わず吹き出した。

「確定国っていうのは、“どこから見ても間違いなくちゃんとした国”って意味だよ。大きな力や影響力があるところさ」

「…そんな国あった?」

イシャバームでは首を絞められ、サザンガードでは殺されそうになった。レークイスでは頬を叩かれて連れていかれそうにもなった。そんな国がちゃんとした国と言って良いのか?ユリアーナは頭を傾げた。

「続けてもいいかい?」

「う、うん」

「指定国は、“元々国じゃないけど、世界の為に国として扱ってるとこ”。イシャバームや公国なんかがそうだね」

「……イシャバームは国だけど国じゃない…」

「予備国は、“今はまだ小さいけど、将来ちゃんとした国になれるかもしれない”って国。頑張ってる最中だね…ルシュケールもそうだね」

「ルシュケールも頑張ってる…」

頑張ってる、その言葉にユリアーナは胸元で小さく拳を作って頷く。そしてアバルトは持っていたペンを剣に見立てて掲げる真似をした。

「独自国はね、“勝手にうちは国だ!”って名乗ってるだけのとこ。村とか集落とか、小さな自治団体が多いかな」

「……う、うん」

「だからこの世界では、“国”って呼ばれてても全部が同じとは限らないってことなんだよ」

何故そんなに国と言えない国が多いのだろう?
ユリアーナはアバルトに質問するべきか悩んで唸った。

「分からない事でもあった?」

「何でそんなに国って言えない国がある?大きな国と一緒になったらいいのに」

その質問に、アバルトがパチパチと手を叩いた。

「良い質問だね!じゃあ、ユリアーナ君に質問だ」

「うん!」

「ユリアーナ君がもしも叩いたり、蹴ったり…悪口も沢山言うような大人に会ったとしよう。その大人が、明日からお前はウチの子だって言われたら…どうする?」

アバルトは当然、嫌悪感を露わにするだろうと思っていた。

「アルおじさんみたいに助けてくれる人いなかったら…我慢する。そうじゃ無いなら何でって聞くよ?」

「……そ、そうか」

奴隷。ユリアーナは奴隷だった。
アルベルトによって助けられ、利発さによって生き延びている…そうアバルトは理解した。

「じゃあ、それが大人じゃなくて君と同じ歳位の子だったら?」

「んー…嫌だったら喧嘩しても嫌って言うよ?」

「そう。それが戦争なんだ…そしてこの世界は戦争が常に起きてる。だから負けた国は無くなり、そこが統合される事もあれば、再起して新しい国が興たりもする…」

「だから沢山国があるの?」

「そうだね。無くなった国の人が頑張って国を作って土地を取り戻し、また別の国と戦争して勝って国を広げたり、結局無くなったり…そうやって破壊と再生が繰り返される」

「そっかぁ…それに耐えた強い国が確定国?」

「そうだよ。負けてないけど、強くもなくて、他の国との連携で生き残っている国が予備国だ」

「だったらみんな同じお金使った方が強い国から守り合えるんじゃ無いの?あー…でもそこでどっかが強い国になったら、今までとおんなじ様に仲良くは出来ないかもなぁ…戦争しないけど、手下になれって言われちゃうかも」

その言葉に、アバルトは目を見開きアルベルト達の方を向いた。国の形を知ったばかりの子供がそれを理解している事にも驚いたが、自国通貨の存在理由を本能的に察した事に驚いた。

「どうした」

アバルトの視線に気付いたアルベルトとミーセスがやって来て、ユリアーナの背後で不思議そうな顔をしている。

「アルベルト…さん…」

「何だ」

「この子に…どんな教育をしたんですか…」

「教育?そんな物はしていない…生きる上で都度都度必要な事を教えた位だ」

「自国通貨については?」

「使う金が違う。聖貨幣にしたら幾ら…その程度だ」

「この子、今から教え込んだらイグラドシアででも、ウチの本店でもやっていけますよ!」

興奮するアバルトにアルベルトとミーセスはニヤリと笑う。

「「当たり前だ…こいつは実地で学ぶ——底辺野良猫だぞ」」




 両替商の一角、アバルトがユリアーナに自国貨幣、領地貨幣、最小単位貨幣である豆板貨幣について説明していて、それを見守る様にアルベルト達が立っていた。

「自国貨幣がある理由は、他の国から自国を守る為であり、仲の良い国と助け合うためなんだ」

貨幣の価値が激しく変われば、それは経済戦争に発展する。けれど、価値を安定させようと通貨を統一すれば、今度は強い国と弱い国の格差が大きくなってしまう──アバルトは、そんな難しさを丁寧に教えてくれた。

「だから聖貨幣があるんだ」

「とっても強いお金で、“国同士のケンカはダメ”ってしてて、自分の国のお金は、“国の外では苦しいけど、中では生活しやすいよ”ってなってる……で、あってる?」

「「「合ってる」」」

自分の中にある思考が、大人達世界と一致した事に、ユリアーナは少しずつ『受け入れられている』と感じた。

「じゃあっ!もっと教えてよアバルトお兄ちゃんっ!」



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