底辺家族は世界を回る〜おじさんがくれた僕の値段〜

ROKUMUSK

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第三章

種を蒔く

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「じゃあっ!もっと教えてよアバルトお兄ちゃんっ!」

学び、思考し発露した物が褒められた。

それだけで、もっと知りたい、もっと話したいという気持ちが一気に膨らんだ。

これまでのユリアーナは、何を求め、何に飢えれば良いのか。その不明瞭な不安が大人に甘える事を躊躇わせていた。

「アバルトお兄ちゃん、僕、僕、沢山勉強してアルおじさんとずっと旅がしたいんだっ!もう僕の所為で損して欲しくないからっ!」

アバルトはアルベルトを見て思う。
情を捨てた人間、それがであり、ヴァジャハイエナと呼ばれる仕事。
だが、アルベルトは底から這い上がる決意をした——アバルトは目元を緩め、『良かったですね』と目配せした。

「ユリアーナ、お前は俺の弟子で……む…む…」

アルベルトは言いたかった。
育てるべき存在だと。守りたい存在で、愛情を注ぎたい存在なんだ、と。

だが──それがこの子にとって、祝福なのか呪いなのか……それが分からず口を濁らせた。

「「む?」」

ミーセス以外は困惑した顔をしていた。

「む…むす…いや、—— 弟子だ」

その言葉と逆の般若の様な顔に、ミーセスは笑いながら天を仰ぎ、ユリアーナは満面の笑みを浮かべた。

「だから……お前の為に損をしても、必ず戻ってくる。お前が自由に育ったなら、必ず、絶対に、俺は得をするんだ」

自由に生きられる女性になってくれ、思うままに生きてくれ。そう、育ててやるから。
だから俺の為では無く、お前が学びたい事を学びたいだけ学んでほしい。

アルベルトは優しい手付きでユリアーナの頭を撫でた。

「そうなのか?」

アルベルトは頷いた。

「あぁ、そうなっているんだ……それが、大人の商売だ」

その言葉は、いつの間にか立ち止まっていた周囲の者たちの心に、静かに染み渡った。
守りたい者がいる。夢を掴みたい理由がある。幸せにしたい顔がある──。

そんな“はじまり”を思い出した者たちは、どこか照れくさそうにアルベルトとユリアーナの肩を叩き、その場を後にした。

「「?」」

アバルトとミーセスは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。
そして、何事もなかったように──勉強は続く。



「アルおじさん、レーク金貨をルクのお金にしたら安くなるし、金貨の数も減るのに何で換金するんだ?」

「まずレーク金貨はここでは使えない。そして、ルシュケールでこの額は大金だ。それに、ここでする事があるからな」

「する事?」

「あぁ、仕事の依頼をする。それに、レーク金貨は信用度が低いからな、聖金貨に換金できる額を持っていても逆に損をする」

「分かった!」

何故損をするのか、そこまでは分からないユリアーナだったが、アルベルトがそう言うのならそうなのだろうと頷いた。

「ユリアーナ君、もしも大きくなってお金の仕事がしたくなったら僕の所においで?沢山学んで、沢山稼げるよ!」

指で円を作り、その穴からユリアーナを見るアバルト。そんなアバルトにユリアーナは笑って首を横に振る。

「僕はずっとアルおじさんと一緒にいるんだっ!それで一緒にお店するんだっ!」

その言葉に、アバルトは計算する。
もしもアルベルトが商売をするなら、穀物や家畜、物品管理代行の変動商品取引だろうと踏んだ。

「アルベルトさん、その時は利率3%を固定…これをお約束します。是非、我が中央総合商会の手を取って頂きたい」

各国への貸付は、銀行機能も有する総合商会にとって、最も利益率の高い商売の一つである。

確定国の変動制でさえ利率は6%、指定国に至っては8~12%が相場。

そんな中での「3%固定」は、破格の好条件であり──それはアルベルトへの信頼と期待の証だった。


「……俺が、どこかで市民権を得たなら連絡をしよう」

アバルトはその言葉に破顔し、指に嵌めていた指輪を外して木札に印を押した。

「遅くなりましたが、私 ——中央特区、物流総合商会会員であり、流通貨幣管理員のアバルト•ハヴェンと申します。今後とも、何卒宜しくお願いします」


差し出された手をアルベルト、ではなくユリアーナが取り頷いた。

「俺はアルベルトダッカート。そしてこの子はユリアーナ……ユリアーナ・ダッカートに──なる、かもしれない」

「僕?」

不思議そうなユリアーナと憮然とした顔のアルベルトを見て、アバルトは口元に手を当て笑いを噛み殺す。そして納得した様に頷いた。

「……なるほど、成程。これは──益々、期待に胸が膨らみますね」

ユリアーナの手を固く握り、アバルトは幸せそうに笑う。

世界には痛みと悲しみが満ちていて、
それはいつだって日陰に追いやられている。
なのに誰もそこに光を当ててはくれない。

それでも、どこかで誰かは救われているのかもしれない…だから目の前にその存在が現れた事に、アバルトはこの仕事を始めた理由を改めて思い出した。











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