ようこそお嫁様

えみ

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銀行員×20代OL

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「…まゆみ?」

「おかえりなさぁい」

ぽわぽわとする頭で、帰宅したジンを迎えた。



お酒の力を借りようと、最悪な手段を取ることを決めた私は、冷蔵庫から保管してたお酒を取り出した。
ジンが帰ってきてから一緒に飲もうと思ったけど、ジンを目の前にしたら止められるだろうと思ったので、一杯だけ先に飲んでおいたのだ。

お酒はそれほど弱くないはずなので、少し酔っ払うくらいだと思っていた。
…思っていたんだ。


最近お酒を飲んでいなかったことと、空腹の中でお酒を飲んだことによって、たった1杯でも酔っ払ってしまうことを計算していなかった。


いつものように帰宅したジンを、玄関でお出迎えする。
ふわふわする頭でも、日常のルーティーンと化した”お出迎え”をしっかりとこなす身体だけど、
ジンはすぐさま私の異変に気がついた。

「どうした?…お酒を飲んだのか?」

さっと私のおでこに掌をつけて、その際に私からお酒の匂いがしたためか、すぐに原因を突き止めた。
それに対して、感情のブレーキが効きにくくなっている私は、すぐに気持ちが下がった。

「ごめんなさい。ジンはおしごとで疲れて帰ってきてるのに、お酒なんて飲んで…」

日頃仕事をせず家で過ごしてるヒモ状態な生活に、劣等感を抱いているからか、気持ちはマイナスに向く。
ジンは慌てて、「好きなだけ飲めば良い、俺は気にしない。他のことも、気にせず好きなように過ごしてくれ」と言って、私の肩に軽く手を置いて、私を伴ってリビングに向かった。

ジンは酒に酔った私をほっとくと、こけたり頭をぶつけたりしそうだと思ったようで、介護を目的にして私に触れているのだろうが…
ジンに肩を掴まれてリビングまで歩くので、私の左半身がジンの胸に当たって、頭が余計にぽかぽかする。


「今日もご飯作ってくれたんだな。ありがとう」

リビングに着いて、私を席に座らせてから、ジンも荷物と上着を置いて席に座る。
ジンが帰ってくる時間に合わせて作ったご飯達は、まだ暖かい。

「冷めないうちに、食べよう」

それに、こくりと頷いて、私は水を1杯飲んだ。

訂正、水だと思い、酒を1杯飲んだ。


「まゆみ、それは…!」

ジンが止めてももう遅い、正常な判断ができない私の身体は、1杯で酔ったところに追加でもう1杯酒を飲み込んだ。

「あれ?これ、苦いなぁ…」

阿呆な感想を話す私に、ジンは慌てて私の横に来て、お酒と水を交換した。

「まゆみ、一気に酒を煽ったらアルコール中毒になりかねない。お水をゆっくり飲むんだ」

完全に介護である。いや、看護か。
ジンに渡された水を見つめて、ジンに視線を移す。

「酔ってるわたし、いや?」

かなりめんどくさい絡み方をしている。それに対して、ジンは少し目を見開いて、頭を左右に振った。

「心配なだけだ。酔っているまゆみも、…可愛いらしいと思う」

少し照れながら、ジンは酔っ払いの戯言に付き合ってくれる。
ジンは気付いてないのだろう。
ジンの言葉は、いつも私を喜ばせる。
期待もさせる。
でも、元彼のせいで、臆病からは逃れられないのだ。

「やだ、好きって言って」

「…!?」

ジンは、かなり動揺したのか、一歩後ずさった。

それも、酔った私の気持ちを揺さぶる。
私から離れて行った元彼のことで、頭が占められた。

「あの人みたいに、付き合ったら、飽きられたりするの嫌。私のこと、飽きたら嫌。捨てたら嫌。また捨てられたら、私…」

「あの人?」

ジンは、私の言葉を途中で止めた。
そして、目の前にいるジンから、鋭い気配を感じた。
それでも、酔っ払ってる私では、状況判断が出来ない。

「元彼のことだよ。結婚する直前だったのに…!」

言葉を最後まで言わせてもらえなかった。
がぶりと噛み付くように、私の開いたままの口に、ジンが自らのものを重ねたからだ。


「ん…!?」

甘い雰囲気ではなく、官能的でもない。
私の口を物理的に塞ぐためのもののように、ただ互いの呼吸を分け合うようなキスだった。

そのまま口が繋がったまま、私が両手に持つコップをジンは奪い取って、テーブルの上に置いた。
そして、わたしの舌を、ジンの舌が2回ほど撫でてから、唇を離す。


「これ以上、他の男の話をするなら、抱き潰すけど…、それでもするか?」

しゅるり、とネクタイを緩めながら、ジンは私の座っている明日の両サイドに両手を置いて、私を閉じ込めた。

「ジ、ジン…」

流石に正気に戻って、ジンを見上げると…


今まで見たことがないくらい、怒っている表情のジンが目の前にいた。
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