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short mission 3 偽物・類似品にご注意!
『冒険者』たちの誤算
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side-デュエル 4
酒場の中は騒然としていた。
片隅にはラグに介抱されている、殴られたと思しき給仕の女性。よく見れば、服を破られた跡もある。
…戦う理由なんて、それだけで十分だ!
「表に出ろ、貴様ら!」
傍から殺気を帯びたラスファの声。そうだな、これを見て黙っていられるなら冒険者じゃない!
「何だと、テメェ…! 女みてぇに細っこいナリのクセに、上等だ!」
酒に足を取られながらの『冒険者』ども。どんなに腕が立つとしても、こんな状態では実力は発揮できない。プロ失格だな。
表に出るなり、近隣の村人も集まって来ていた。さっきアーシェが大声で喧伝していたおかげだろうか? それとも、村人の悩みの種を摘み取ることができる者が出て来たことへの期待だろうか?
「やっちまえー!!」
「兄ちゃんたち、頑張れー!」
にわかに起きる俺たちへの声援に『冒険者』たちが気色ばむ。
「なんだなんだテメーら、今まで村を守ってやった恩を忘れたのかよ?」
「覚えてろよ、こいつらを片付けた後にこの村丸ごと焼き尽くしてやる!」
「…穏やかじゃないな。酒浸りで判断力まで鈍ったか?」
「うん、あんたたちなんか片付けてやるんだから!」
威勢のいいアーシェの啖呵に『冒険者』の男たちは笑い出した。
「おいおい、威勢がいいなお嬢ちゃんよ。ママのとこに帰ってオヤツでも食べてな!」
「ぎゃあっははははは!」
千鳥足の酔っ払いが、腹を抱えて笑う。
「アーシェ、構うことはない。やれ!」
ラスファの物騒な指示が「殺れ」としか聞こえないのは、気のせいだろうか?
「まあ、いいならいいけどね? 一応手加減できるし」
そのままアーシェは詠唱に入る。
「『光の矢』よ!」
繰り出されたのは、初級の攻撃呪文。
魔力で作られた光の矢は馬鹿面で腹を抱えて笑い続けた手近な一人に直撃して、そのままの姿でこんがりときつね色になる。群衆から悲鳴と歓声が上がった。
「まっ…魔法!? ジェイ!」
叫ぶ仲間の男。驚く隙を与えずに、今度は俺が一足飛びに二人目の懐に入るとみぞおちに拳をめり込ませる。
「がああああ!」
同時にドランも飛び出して来ていた。逆側から走り込み、三人目の男に強烈なラリアートを食らわせる。
「ぎょおおお!」
それぞれ俺とドランに吹っ飛ばされた二人はもつれ合うようにして空中でぶつかると、泡を吹きながら動かなくなる。周囲から拍手が上がって、これで三人!
「バリー! ディック!」
残った二人は酒気が抜けたのか青くなると、背中を向けて一目散に逃げ出した。
「仲間を置き去りか?」
ラスファは冷静に矢を番えて放つ。そいつの頭上にあった木の枝と大ぶりの実を射落して、その下敷きにする。低いどよめきがおきる。観客たちは大盛り上がりになっていた。
あとは五人目…。そう思ったところで、アーシェが悲鳴をあげた。
「アーシェ!」
いつの間にか来ていた五人目の男に抱えられ、アーシェは喉元にナイフを当てられている。
俺の額から、血の気が失せた。
「やあああん、汚い臭い、酒臭い~! 何日お風呂入ってないの!? あと口臭い! 脇も臭い! ヒゲウザいー! 臭い移ったらどうしてくれるのよ!」
「やかましい、放っとけ!」
えらく言いたい放題な悲鳴…けっこう余裕だなアーシェ。だが事態は一気に深刻になってしまった。このままでは…!
「やめろ、すぐ離せ! お前、マジで死ぬぞ!」
俺の制止をハッタリと受け取ったか、アーシェを捕まえた男はニヤリと笑う。
「へへ、そんなにこの小娘が大事か? 返して欲しければ、武器を…」
その言葉は最後まで続かなかった。
「へいへい、そこまでだ臭っせぇ兄ちゃん!」
アーシェを抱えた男の背後から、お調子者が声を上げる。
「お、おま…商人の!」
「…期間限定だけどな?」
振り返った男の顔面に、鋭い回し蹴りが炸裂する。慌ててその腕から抜け出すアーシェ。
「あーん、ちょっと臭い移っちゃったじゃないの! あとでお風呂貸してもらわなきゃ!」
…なあ、命よりニオイなのか? それでいいのかアーシェ?
だが俺たちにはまだ、深刻な問題が残っていた。
「お、おい! 落ち着けラスファ!」
あくまで一見冷静な彼の上には、人の背丈ほどもある巨大な白い光球が浮かんでいる。目標はもちろん、折り重なって倒れる五人の男たち。異様な雰囲気に呑まれたのか、気絶から一気に全員覚めて固まっていた。
「…うちの妹が世話になったな…。これは礼だ、受け取れ」
低いつぶやきに『冒険者』たちは互いに抱き合いながら震えている。周囲を固めていた観客も、一気に蜘蛛の子を散らした。
「ストップストップ! それ引っこめろ! 地形を変える気かお前!」
「ほれ見ろ、オメーらのせいだぞ! なんでよりによってアーシェを狙うんだよ? このシスコン魔王の逆鱗に触れちまったじゃねぇか!」
必死でなだめるアーチと俺。彼の使う精霊魔法は術者の感情に左右されることが多いと聞く。にしたって、こんな馬鹿でかい光弾こさえるとは…どんだけブチギレてるんだ! しかも一見わかりにくいところが余計に恐ろしい。
「おおおおおい、オメーらも謝れ! 誠心誠意込めて! チリも残さず消しとばされるぞ!」
アーチの声に我に返った『冒険者』たち五人は、その場に一列になって巡礼者のごとく土下座しまくった。
「「「「「すんませんっしたー!!!」」」」」
酒場の中は騒然としていた。
片隅にはラグに介抱されている、殴られたと思しき給仕の女性。よく見れば、服を破られた跡もある。
…戦う理由なんて、それだけで十分だ!
「表に出ろ、貴様ら!」
傍から殺気を帯びたラスファの声。そうだな、これを見て黙っていられるなら冒険者じゃない!
「何だと、テメェ…! 女みてぇに細っこいナリのクセに、上等だ!」
酒に足を取られながらの『冒険者』ども。どんなに腕が立つとしても、こんな状態では実力は発揮できない。プロ失格だな。
表に出るなり、近隣の村人も集まって来ていた。さっきアーシェが大声で喧伝していたおかげだろうか? それとも、村人の悩みの種を摘み取ることができる者が出て来たことへの期待だろうか?
「やっちまえー!!」
「兄ちゃんたち、頑張れー!」
にわかに起きる俺たちへの声援に『冒険者』たちが気色ばむ。
「なんだなんだテメーら、今まで村を守ってやった恩を忘れたのかよ?」
「覚えてろよ、こいつらを片付けた後にこの村丸ごと焼き尽くしてやる!」
「…穏やかじゃないな。酒浸りで判断力まで鈍ったか?」
「うん、あんたたちなんか片付けてやるんだから!」
威勢のいいアーシェの啖呵に『冒険者』の男たちは笑い出した。
「おいおい、威勢がいいなお嬢ちゃんよ。ママのとこに帰ってオヤツでも食べてな!」
「ぎゃあっははははは!」
千鳥足の酔っ払いが、腹を抱えて笑う。
「アーシェ、構うことはない。やれ!」
ラスファの物騒な指示が「殺れ」としか聞こえないのは、気のせいだろうか?
「まあ、いいならいいけどね? 一応手加減できるし」
そのままアーシェは詠唱に入る。
「『光の矢』よ!」
繰り出されたのは、初級の攻撃呪文。
魔力で作られた光の矢は馬鹿面で腹を抱えて笑い続けた手近な一人に直撃して、そのままの姿でこんがりときつね色になる。群衆から悲鳴と歓声が上がった。
「まっ…魔法!? ジェイ!」
叫ぶ仲間の男。驚く隙を与えずに、今度は俺が一足飛びに二人目の懐に入るとみぞおちに拳をめり込ませる。
「がああああ!」
同時にドランも飛び出して来ていた。逆側から走り込み、三人目の男に強烈なラリアートを食らわせる。
「ぎょおおお!」
それぞれ俺とドランに吹っ飛ばされた二人はもつれ合うようにして空中でぶつかると、泡を吹きながら動かなくなる。周囲から拍手が上がって、これで三人!
「バリー! ディック!」
残った二人は酒気が抜けたのか青くなると、背中を向けて一目散に逃げ出した。
「仲間を置き去りか?」
ラスファは冷静に矢を番えて放つ。そいつの頭上にあった木の枝と大ぶりの実を射落して、その下敷きにする。低いどよめきがおきる。観客たちは大盛り上がりになっていた。
あとは五人目…。そう思ったところで、アーシェが悲鳴をあげた。
「アーシェ!」
いつの間にか来ていた五人目の男に抱えられ、アーシェは喉元にナイフを当てられている。
俺の額から、血の気が失せた。
「やあああん、汚い臭い、酒臭い~! 何日お風呂入ってないの!? あと口臭い! 脇も臭い! ヒゲウザいー! 臭い移ったらどうしてくれるのよ!」
「やかましい、放っとけ!」
えらく言いたい放題な悲鳴…けっこう余裕だなアーシェ。だが事態は一気に深刻になってしまった。このままでは…!
「やめろ、すぐ離せ! お前、マジで死ぬぞ!」
俺の制止をハッタリと受け取ったか、アーシェを捕まえた男はニヤリと笑う。
「へへ、そんなにこの小娘が大事か? 返して欲しければ、武器を…」
その言葉は最後まで続かなかった。
「へいへい、そこまでだ臭っせぇ兄ちゃん!」
アーシェを抱えた男の背後から、お調子者が声を上げる。
「お、おま…商人の!」
「…期間限定だけどな?」
振り返った男の顔面に、鋭い回し蹴りが炸裂する。慌ててその腕から抜け出すアーシェ。
「あーん、ちょっと臭い移っちゃったじゃないの! あとでお風呂貸してもらわなきゃ!」
…なあ、命よりニオイなのか? それでいいのかアーシェ?
だが俺たちにはまだ、深刻な問題が残っていた。
「お、おい! 落ち着けラスファ!」
あくまで一見冷静な彼の上には、人の背丈ほどもある巨大な白い光球が浮かんでいる。目標はもちろん、折り重なって倒れる五人の男たち。異様な雰囲気に呑まれたのか、気絶から一気に全員覚めて固まっていた。
「…うちの妹が世話になったな…。これは礼だ、受け取れ」
低いつぶやきに『冒険者』たちは互いに抱き合いながら震えている。周囲を固めていた観客も、一気に蜘蛛の子を散らした。
「ストップストップ! それ引っこめろ! 地形を変える気かお前!」
「ほれ見ろ、オメーらのせいだぞ! なんでよりによってアーシェを狙うんだよ? このシスコン魔王の逆鱗に触れちまったじゃねぇか!」
必死でなだめるアーチと俺。彼の使う精霊魔法は術者の感情に左右されることが多いと聞く。にしたって、こんな馬鹿でかい光弾こさえるとは…どんだけブチギレてるんだ! しかも一見わかりにくいところが余計に恐ろしい。
「おおおおおい、オメーらも謝れ! 誠心誠意込めて! チリも残さず消しとばされるぞ!」
アーチの声に我に返った『冒険者』たち五人は、その場に一列になって巡礼者のごとく土下座しまくった。
「「「「「すんませんっしたー!!!」」」」」
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