古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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intermission 6 アイドルは辛いよ

八部衆、見参!

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side-デュエル 6
 
 翌日。
 ジェインもヴィヴィもアイドル活動を続けることにしたらしいのはいいことだ。
 だがまあ例によって『白銀亭』の半分は舞台と踊り狂う面々に支配されている状況が続いている。
 …どうなんだコレ…?

 女将さんはもはや諦めているのか、ちょっぴり虚ろな目で給仕を務めている。まあ確かに落ち着きというものは、完全に失われたかな…。

 ジェインに続いて大人しそうなヴィヴィまでがアイドル活動を再開するというのは、正直意外だった。昨日こっちにきたばかりの頃は、精神的に擦り切れているかと思われていたのだが。
 やはりアイドルは、精神的にある程度のタフさが必須なのだろうか?

 ファン層はどうなのかと思ってみれば、案外と派閥に別れることなく折り合いをつけているようだ。コレでいがみ合いとかされた日には、目も当てられないところだったと正直にありがたいと思う。

 とりあえずの俺の役割は、護衛の一言に尽きる。つまり、やっていることはいつもとなんら変わり映えしないわけだ。  
 立ってるだけで威圧感を与える俺の体格は、今日も遺憾無くその効果を発揮している。

 踊り狂うファン集団も少しずつ俺と馴染んだようで、ちょいちょい挨拶されるようになった。
 だが、ひとつ突っ込みたいが…なんでみんな揃ってアニキ呼ばわりしてくるのだろうか?

「お疲れ様です、アニキ!」
「アニキ、お世話になってます!」
「ジェインたんをよろしくお願いします、アニキ!」
「カシラにもよろしく言ってください!」
 顔面に青あざ作った男たちが直角に腰を曲げてお辞儀する。…なんなんだろうか、この一体感?


 

 俺は昨夜のことをふと思い出す。
 作戦を練ってアーチが『青薔薇亭』に戻った後、ジェインの親衛隊たちが乗り込んできたのだ。
 見るからに細身のラスファが護衛を務めるということに納得がいかなかった連中のようで、早速絡んできたらしい。ということは、俺は見た目の時点で彼らに合格点をもらったということだろうか? 
 うん、あまり嬉しくない。

「おい、お前! ジェインたんとどんな関係だ!」
「貴様などにジェインたんを守れるものか!」
「我ら親衛隊八部衆、推して参る!」
「お前の強さ、見極めてやる!」
 
 連中の言い草を聞いて、ラスファは嫌そうにため息をついた。
「要するに、相手しろってことか…?」
「どうする?」
 俺の問いかけに彼は一歩踏み出した。
「ここで断れば、後が面倒になるだろう?」
「やっぱりな…。やり過ぎるなよ?」

 八人のジェイン親衛隊に囲まれながら入った路地裏で、彼が何をやらかしたのかはわからない。だが数人分の悲鳴が聞こえた後で静かになった。
 本当に何やらかしたんだ?
 わかったのは、その後八部衆とやらが半ば強引に俺やラスファの部下になったらしいことだけだった。




「兄さん、ちょいと兄さん!」
 我に返って甲高い声に傍を見ると、ネズミの獣人らしき小柄な男が俺を見上げて小狡そうな笑みを向けている。
「あっしはビル。ケチな記者でやんすよ」
 言いながら彼は小さなカードを押し付けてきた。

「こりゃ名刺ってやつでしてね? 身分や名前や連絡先なんかを書いてあるカードですわ」
 カードを見ると、最近悪名高いエルダード・ゴシップという雑誌名が書かれている。
「…何か用か?」
 明らかに警戒する俺を面白そうに見上げると、彼…ビルはニタリと卑しげな笑みを向けてきた。

「なに、お手間は取らせやせん。ただ、最近頭角を表してるアイドル・ジェインちゃんとの関係をお答えいただきたいんでやんすよ」
「ただの護衛だ」
「いやいやいやいや! 他にもっと何かあるでしょう? ほら、デートしたりする間柄とか!」
「ただの護衛だ」

 ピシャリとそれだけ言うと、ネズミは悔しそうに顔をしかめた。冗談じゃない、火のないところに煙を焚かれても困るしジェインにとっても迷惑にしかならない。

「そうですかい。まあ、今日はこの辺りで。またきますよ」
「もう来るな」

 ピシャリとそれだけ言うと、どこからともなく八部衆が現れた。
「お話は終わりですか、アニキ!」
「じゃ、オレたちはコレ捨ててきますんで!」
 口々にそう言いながら、一糸乱れぬ動きで彼らはビルを担ぎ上げると勇ましい掛け声とともに走り去った。喚き散らすビルの声が遠ざかる。

 なんか俺たち、えらいの味方につけちまったのかもな…。
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