古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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intermission 6 アイドルは辛いよ

悪魔の囁き

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side-デュエル 7

 ネズミ男をぶら下げながら、俺は促されるままにラスファの部屋の戸口をくぐった。
 同じ作りの俺の部屋もシンプルだと思ったが、ここも随分と殺風景な印象だ。最低限のベッドや机が並んでいる。違うところは書棚にレシピ本と図書館から借りたらしい本が並んでいるくらいだろうか。
 そのまま奴を放り出すと、逃げられないように扉を背中で押さえる。

「何を掴んだのかは知らないが、そのネタをどうするつもりだ?」
 ネズミ男…ビルというゲス記者を問い詰めるラスファの声は、いつになく硬い。奴も密室という状況でやっと自分の立場を思い出したのか、薄っすらと額に冷や汗をかき始めた。暑いどころかむしろ、部屋の気温は下がっていると思うのだが。

「まあそっちも仕事だろうが、こっちも仕事だ。重要な局面で、余計な妨害をされるわけにはいかないんでね。…わかるよな?」
 俺からも奴に向けてやんわりと警告をしておく。あー、なんか目一杯悪役やってる気分だ。

「な、なな何を…? 大きい声出しますぜ!?」
 じりじりと後退しつつビルは喚くが、ラスファは気に止める風もない。
「試すか? 何のために自室に連れ込んだと思っている? 仕事上の必要性があって、防音の結界は常に張ってあるさ」

 アーチがいればもっとスムーズに交渉なり何なりが進むのだろうが、いないもんは仕方ない。俺たちは慎重にをする事にした。
「…極力は穏便に済ませろよ?」
 クギを刺す俺の言葉に、銀髪の狐は頷く。

「ここは取引といこうか? こっちに協力してくれるなら、必要な情報ネタを可能な限り提供してもいい」
 ラスファが静かに告げる、悪魔の囁き。一見甘い申し出だが、実際甘いはずがない。
「本当ですかい!?」
「人の話は最後まで聞けよ?」
 食いつくビルを牽制しつつ、彼は続ける。

「ただし…こっちの動きを妨害するようなら、どうなると思う?」
 ビルの喉がゴクリと上下する。
「冒険者というのは、情報が全てを左右する事も多い業界だ。その領分に余計な横槍を入れて来るようなら、こちらもそれなりな実力行使に出ることもある。そこらの観光大使と同列に見るなよ?」

「あ、あっしをどうなさるおつもりで?」
「…」
 その問いに彼は答えない。それがかえってビルの恐怖心に火をつけたようだった。
 しばらく続く沈黙に耐えかねたのか、ネズミ獣人はへたり込み平伏する。
「す、すいません! 調子乗ってました!」
 とうとうネズミ獣人記者ビルは屈服したようだった。
 これは相手が悪すぎたんだ、諦めろ。


「頼みたい事があるんだが」
 「へえ、もう何なりと!」
  俺がただのドアを抑える置物になっている間に、残る両者の力関係は決定してしまった。
 とは言っても、ラスファも大したことは言っていない。ただ冒険者として当然な事と、少々思わせぶりなことを言っては黙っていただけだ。
  要するにこっちの気迫と、相手の想像力による自滅だ。
 まあ俺も少々、誘導したと思わなくもないが。


「アイドルイベントの投票日に、とっておきの特ダネが取れる場所に心当たりがある。そこで網を張っていてほしい。もちろん、最大級のバックアップはするつもりだ」
「ほ、ホントですかい!?」
 ラスファの出した破格の好条件に、ビルが身を乗り出す。

「ああ。そこで取れた情報はどう扱おうと、好きにしてくれて構わない。その代わり、当日までは行動を謹んで大人しくしていろ。特ダネの場所も当日までは伏せておく」
「そ、そんなぁ…あっしにとっちゃ特ダネは命ですぜ?」
「嫌なら特ダネの場所もバックアップも、別の記者に頼むことにする。別にあんたじゃなくても、こっちは構わないんだ」
「へ…へーい…」

 このやり取りは、何となく釣りを連想する。目の前に餌を吊り下げて、食いつく様子を見るというところが特に。

 しばらく忙しくて、数少ない趣味の釣りに行ってないことを思い出した。この仕事が終わったら行ってこようか…。
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