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mission 4 ワンコ王国、建国のススメ!
女帝陛下の気まぐれ
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side-ラスファ 11
他国のことだと言うのに、歓声が鳴り止まない。つくづく思うが、エルダードの者はお人好しが多過ぎる。冒険者ギルドの扉の陰から様子を見守りながらの、正直な感想だ。
エルダード冒険者ギルドの前に集まっていた、抗議の群衆。彼らの前にわざわざ即席の調印台を設置すると、チャールズさんは高らかに宣言した。
「『犬獣人の新興国に対して、今ここに条約を結び友好を示しました!』」
マルグリッド姐さんは私と同じく物陰から『拡声』の精霊魔法を使って大々的に声を届けると、楽しそうに笑みを浮かべた。
成り行き上、犬獣人の代表として調印の場に引っ張り出されたフローネは目を白黒させながら羊皮紙を受け取る。極度の緊張のせいか、一緒に引っ張り出されたアーシェに支えられながらも足元がおぼつかない。大丈夫か?
ちょっとした出稼ぎ気分で出てきた彼女が、いきなり歴史的な証人になってしまうとは誰も思ってはいなかっただろう…私もまさかの展開に驚いた。
だが…意外にもチャールズさんの顔つきは晴々としたものだった。彼自身、犬獣人たちを利用して遺跡探索を進めようとしたことに罪悪感があったようだ。
「良かったわね坊や。ソレ使わずに済んで?」
マルグリッド姐さんは小声で私の懐を指差した。バレていたか。
「使いたくはなかったが、保険は必要だったからな」
そう。あの交渉の場で、私はこっそりと精霊魔法であのやりとりを記録していた。その声を封じ込めた青い魔結晶を取り出すと、陽に透かし眺める。
「そのオモチャ、渡してもらえるかしら?」
声とともに差し出された手の上に黙って青い輝きを載せると、彼女は面白そうに目を細めた。
「あら、いいの? ギルドの根幹を揺るがすかも知れない代物なのに?」
私は頷きながら、外の光景に目を戻す。
「こうなった以上は、無用の長物だ」
外では調印式に立ち会ったお調子者が、満面の笑みで羊皮紙を広げて群衆に見せびらかしている。全く、よくやるよ…。
「賢明ね。命拾いしたわよ?」
彼女の言葉に振り向くと、意味ありげな笑みがあった。ただし、目は笑っていない。
「…だろうな」
彼女はエルダードと、ギルドの存続に心血を注いでいる。そこにこの魔結晶は、この上なく危険な代物だ。
渡さなければ、この場で私を殺してでも奪う気だったろう。
その私の頭上に、ポンと手が置かれた。
「良い子ね。気に入ったわ」
「…それはどうも」
正直、この歳で頭を撫でられるとは思わなかった。
「ねえ坊や。引退したらギルド職員にならない?」
思ってもいない申し出に逸らしかけた視線を戻せば、先刻とは違う楽しそうな笑みがある。
「ご冗談を。女帝様のお眼鏡違いでは?」
私の返事に、彼女はクスクスと笑いを漏らす。
「まあ良いわ、お互いに時間はたっぷりとあるんだしね?」
「…気長な話だな」
「坊やの連れてる『彼女』にも、許可をもらわないと…ね?」
そう言うと、ギルドの女帝陛下は執務室に続く階段に足をかけた。振り返ることなく彼女は告げる。
「そうそう、捕虜の件。戻り次第連れてきて良いわよ? じっくりとお話を聞こうと思うし」
高らかな足音が階上に消えていく。
冷や汗を一筋背中に流すと、誰にともなくつぶやきが漏れた。
「捕虜が気の毒に思えてきた…」
さぞかし恐ろしい目にあわされることだろう。
他国のことだと言うのに、歓声が鳴り止まない。つくづく思うが、エルダードの者はお人好しが多過ぎる。冒険者ギルドの扉の陰から様子を見守りながらの、正直な感想だ。
エルダード冒険者ギルドの前に集まっていた、抗議の群衆。彼らの前にわざわざ即席の調印台を設置すると、チャールズさんは高らかに宣言した。
「『犬獣人の新興国に対して、今ここに条約を結び友好を示しました!』」
マルグリッド姐さんは私と同じく物陰から『拡声』の精霊魔法を使って大々的に声を届けると、楽しそうに笑みを浮かべた。
成り行き上、犬獣人の代表として調印の場に引っ張り出されたフローネは目を白黒させながら羊皮紙を受け取る。極度の緊張のせいか、一緒に引っ張り出されたアーシェに支えられながらも足元がおぼつかない。大丈夫か?
ちょっとした出稼ぎ気分で出てきた彼女が、いきなり歴史的な証人になってしまうとは誰も思ってはいなかっただろう…私もまさかの展開に驚いた。
だが…意外にもチャールズさんの顔つきは晴々としたものだった。彼自身、犬獣人たちを利用して遺跡探索を進めようとしたことに罪悪感があったようだ。
「良かったわね坊や。ソレ使わずに済んで?」
マルグリッド姐さんは小声で私の懐を指差した。バレていたか。
「使いたくはなかったが、保険は必要だったからな」
そう。あの交渉の場で、私はこっそりと精霊魔法であのやりとりを記録していた。その声を封じ込めた青い魔結晶を取り出すと、陽に透かし眺める。
「そのオモチャ、渡してもらえるかしら?」
声とともに差し出された手の上に黙って青い輝きを載せると、彼女は面白そうに目を細めた。
「あら、いいの? ギルドの根幹を揺るがすかも知れない代物なのに?」
私は頷きながら、外の光景に目を戻す。
「こうなった以上は、無用の長物だ」
外では調印式に立ち会ったお調子者が、満面の笑みで羊皮紙を広げて群衆に見せびらかしている。全く、よくやるよ…。
「賢明ね。命拾いしたわよ?」
彼女の言葉に振り向くと、意味ありげな笑みがあった。ただし、目は笑っていない。
「…だろうな」
彼女はエルダードと、ギルドの存続に心血を注いでいる。そこにこの魔結晶は、この上なく危険な代物だ。
渡さなければ、この場で私を殺してでも奪う気だったろう。
その私の頭上に、ポンと手が置かれた。
「良い子ね。気に入ったわ」
「…それはどうも」
正直、この歳で頭を撫でられるとは思わなかった。
「ねえ坊や。引退したらギルド職員にならない?」
思ってもいない申し出に逸らしかけた視線を戻せば、先刻とは違う楽しそうな笑みがある。
「ご冗談を。女帝様のお眼鏡違いでは?」
私の返事に、彼女はクスクスと笑いを漏らす。
「まあ良いわ、お互いに時間はたっぷりとあるんだしね?」
「…気長な話だな」
「坊やの連れてる『彼女』にも、許可をもらわないと…ね?」
そう言うと、ギルドの女帝陛下は執務室に続く階段に足をかけた。振り返ることなく彼女は告げる。
「そうそう、捕虜の件。戻り次第連れてきて良いわよ? じっくりとお話を聞こうと思うし」
高らかな足音が階上に消えていく。
冷や汗を一筋背中に流すと、誰にともなくつぶやきが漏れた。
「捕虜が気の毒に思えてきた…」
さぞかし恐ろしい目にあわされることだろう。
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