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intermission 7 神官少女の憂鬱
冒険者のきっかけ
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side-アーシェ 2
怪しい男を追い出した後。
「…余計なことをしたか?」
兄貴の問いに、ラグちゃんはものすごい勢いで首を振った。そのあとラグちゃんは、静かに語り始めた。
「あの方は、わたくしの…元婚約者です。実家にいた時に無理矢理縁談を持ってこられ、そのまま婚約までさせられました」
そうだ、確か聞いたことある! 大人しそうなラグちゃんが冒険者になったきっかけって話! それがさっき癇癪を起こした奴だったんだ!
「わたくしの実家は大きな商会を営んでおりました。ただ両親は商売のことしか頭になく、冷え切った家庭で育ちました。幼いわたくしは、それが当たり前と思っていたのです」
「…ラグちゃん…」
あたしは、それ以上何も言えなかった。
父さんは行方不明だけど、それなりに愛情を受けられたあたしとは全く違う過去だ。
「兄弟もたくさんいたのですが、最初から政略結婚をさせるためだと聞かされていました。一番上の跡取りのお兄様を残して、成人するごとに次々と…。唯一仲が良かった姉も、違う商会に嫁がされました。それも、縁談が来て一月も経たないうちに」
「信じらんない! じゃあ何、恋愛とか絶対ムリじゃん! しかも一ヶ月!? どうなってんのそれ!」
兄貴にたしなめられて、あたしはいったん黙った。でもまだ頭がぐるぐるしてる。そんなトンデモ商会が、この世にあったなんて! 自分の子供をそんな風に扱う親が存在するなんて! ものすごいカルチャーショックに、あたしは開いた口が塞がらなかった。
「姉のスピード婚には、理由があるんです。一時期倒産寸前のとある商会があったのですが、当主が代替わりした途端に頭角を現して一大商会を築いた方がおられました。両親はそこの新当主を姉に、と目論んでいたのですが…」
「何かあったのか?」
気になったのか、兄貴は先を促す。ラグちゃんは目を伏せながら答えた。
「それから間も無く、当主さんが消えてしまったんだそうです。お亡くなりになったか、家を出られたのかも分からずじまいでした。両親は焦って、次の嫁ぎ先を探してさっさと姉を嫁がせました。姉には監視がつけられ…逃げる暇もありませんでした」
…なんなのそれ…異常にも程がある…!
あたしは怒りで拳が震えた。同時に納得もする。以前の依頼でフランシスの実家に行った時に、無理矢理花嫁にされそうになったナディアさんに一番感情移入してた。あれは、無理矢理嫁がされたお姉さんの時と重ねてたんだって!
「その…姉の次に、ラグが…?」
言いづらそうに、兄貴は慎重に言葉を選んで問いかける。彼女は静かに頷いた。
「ええ。『お前も、役に立つ時がきた』と言われて…。姉のことがあったので軟禁されかけましたが、なんとか抜け出して学校にもなっていた知識神の神殿にかくまってもらいました。もし出られず匿ってもらわなかったら、今のわたくしはありません」
ラグちゃんはそこで、言葉を切った。迷ったように目を泳がせるけど、吹っ切るように口を開く。
「先ほどの方は、オプファー商会の次男の方です。そして、わたくしの元婚約者。街でも悪評が高く、よく女性関連の揉め事を起こしていました」
「…後は、金の力で揉み消して…か?」
ラグちゃんは、一筋の涙をこぼした。
「わたくしの幼馴染の一人が、自害に追い込まれました…」
…!
それは…何をやったかの察しはついた。
許せない、許せない!
「わたくしは、忘れていたのです…。ここに来て皆さんよくして下さって、毎日が楽しくて…。彼女の…ヘレナさんの事も思い出さずにいた…それが、オプファー商会の名前を聞いて、全て思い出しました。忘れちゃいけない事だったのに、大切な友人だったというのに! わたくしは、最低な人間です!」
「違うよ!」
あたしは泣きじゃくるラグちゃんを抱きしめた。
「ラグちゃんの、どこが悪いの? 悪いのは、さっきの奴でしょ?」
ラグちゃんがしばらく塞ぎ込んでいたのは、オプファー商会の名前をきっかけに友人を思い出して自己嫌悪に陥ってたせいだなんて…。
「アーシェさん…」
「あんな奴のために、これ以上傷つかなくていいよ!」
あたしに言えることは、そこまでだった。もう少し何か言えればよかったんだけど、震えるラグちゃんをなだめるのにいっぱいいっぱいで、それ以上の言葉が出てこなかった。
怪しい男を追い出した後。
「…余計なことをしたか?」
兄貴の問いに、ラグちゃんはものすごい勢いで首を振った。そのあとラグちゃんは、静かに語り始めた。
「あの方は、わたくしの…元婚約者です。実家にいた時に無理矢理縁談を持ってこられ、そのまま婚約までさせられました」
そうだ、確か聞いたことある! 大人しそうなラグちゃんが冒険者になったきっかけって話! それがさっき癇癪を起こした奴だったんだ!
「わたくしの実家は大きな商会を営んでおりました。ただ両親は商売のことしか頭になく、冷え切った家庭で育ちました。幼いわたくしは、それが当たり前と思っていたのです」
「…ラグちゃん…」
あたしは、それ以上何も言えなかった。
父さんは行方不明だけど、それなりに愛情を受けられたあたしとは全く違う過去だ。
「兄弟もたくさんいたのですが、最初から政略結婚をさせるためだと聞かされていました。一番上の跡取りのお兄様を残して、成人するごとに次々と…。唯一仲が良かった姉も、違う商会に嫁がされました。それも、縁談が来て一月も経たないうちに」
「信じらんない! じゃあ何、恋愛とか絶対ムリじゃん! しかも一ヶ月!? どうなってんのそれ!」
兄貴にたしなめられて、あたしはいったん黙った。でもまだ頭がぐるぐるしてる。そんなトンデモ商会が、この世にあったなんて! 自分の子供をそんな風に扱う親が存在するなんて! ものすごいカルチャーショックに、あたしは開いた口が塞がらなかった。
「姉のスピード婚には、理由があるんです。一時期倒産寸前のとある商会があったのですが、当主が代替わりした途端に頭角を現して一大商会を築いた方がおられました。両親はそこの新当主を姉に、と目論んでいたのですが…」
「何かあったのか?」
気になったのか、兄貴は先を促す。ラグちゃんは目を伏せながら答えた。
「それから間も無く、当主さんが消えてしまったんだそうです。お亡くなりになったか、家を出られたのかも分からずじまいでした。両親は焦って、次の嫁ぎ先を探してさっさと姉を嫁がせました。姉には監視がつけられ…逃げる暇もありませんでした」
…なんなのそれ…異常にも程がある…!
あたしは怒りで拳が震えた。同時に納得もする。以前の依頼でフランシスの実家に行った時に、無理矢理花嫁にされそうになったナディアさんに一番感情移入してた。あれは、無理矢理嫁がされたお姉さんの時と重ねてたんだって!
「その…姉の次に、ラグが…?」
言いづらそうに、兄貴は慎重に言葉を選んで問いかける。彼女は静かに頷いた。
「ええ。『お前も、役に立つ時がきた』と言われて…。姉のことがあったので軟禁されかけましたが、なんとか抜け出して学校にもなっていた知識神の神殿にかくまってもらいました。もし出られず匿ってもらわなかったら、今のわたくしはありません」
ラグちゃんはそこで、言葉を切った。迷ったように目を泳がせるけど、吹っ切るように口を開く。
「先ほどの方は、オプファー商会の次男の方です。そして、わたくしの元婚約者。街でも悪評が高く、よく女性関連の揉め事を起こしていました」
「…後は、金の力で揉み消して…か?」
ラグちゃんは、一筋の涙をこぼした。
「わたくしの幼馴染の一人が、自害に追い込まれました…」
…!
それは…何をやったかの察しはついた。
許せない、許せない!
「わたくしは、忘れていたのです…。ここに来て皆さんよくして下さって、毎日が楽しくて…。彼女の…ヘレナさんの事も思い出さずにいた…それが、オプファー商会の名前を聞いて、全て思い出しました。忘れちゃいけない事だったのに、大切な友人だったというのに! わたくしは、最低な人間です!」
「違うよ!」
あたしは泣きじゃくるラグちゃんを抱きしめた。
「ラグちゃんの、どこが悪いの? 悪いのは、さっきの奴でしょ?」
ラグちゃんがしばらく塞ぎ込んでいたのは、オプファー商会の名前をきっかけに友人を思い出して自己嫌悪に陥ってたせいだなんて…。
「アーシェさん…」
「あんな奴のために、これ以上傷つかなくていいよ!」
あたしに言えることは、そこまでだった。もう少し何か言えればよかったんだけど、震えるラグちゃんをなだめるのにいっぱいいっぱいで、それ以上の言葉が出てこなかった。
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