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intermission 7 神官少女の憂鬱
自警団にて
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side-ラスファ 1
アーシェになだめられてようやくラグが泣き止むと、ここからどうするかと言う話になった。
白銀亭に一度戻ろうとするラグを押しとどめると、私は回り道することを勧めた。
「なんで帰っちゃいけないの? さっさと落ち着いて過ごしたいのに!」
ラグのことがあって気が高ぶっているらしいアーシェの抗議にため息をついて答える。
「あのな…さっきの連中が雑踏に紛れて尾行してくる可能性があるだろ」
「っ…」
そう。金の力を過信している輩は、概ね見境がない。自らの身に危機が迫る前に、金をチラつかせて保身を図るお陰で『自分は何をしてもいい』と思い込んでいることが多い。故に、何をやらかすか分かったものではないのだ。
「最悪、宿屋に火をかけられる可能性も…」
途端にアーシェが血相を変えた。
「ちょ…そこまで大袈裟に考えなくてもいいじゃない?」
「それは…可能性があります」
静かな一言をラグが発した。
「ヘレナさんの時も、手段を選びませんでしたから…。わたくしが逃げ込んだ知識神の神殿にも、何度も怒鳴り込まれました」
俯き沈みきった、ラグの声。これは…平和な世の中のために、その男をどうにかしたほうがいい気がしてきた。実際のところ、後をつけられている気配もある。泳がせつつ、ラグには知られることなく済ませたいが…。
「とりあえず、自警団の詰所に行っておこう。知り合いがそこにいると知れたら、牽制にもなる」
この件については、ラインハルトかダンチョーの耳にも入れておいたほうが良さそうだ。果実入りの買い出し袋を抱えながら、詰所に足を向けた。
「珍しいな、当番でもないのにここに来るとは」
開口一番、詰所にいたラインハルトはそう言いながら目を丸くする。事実、あまりここに来ることはデュエルに比べて少ないのは確かだ。
「なに、果物の差し入れだ」
ラインハルトに買い出し袋を押し付けると、そのままアーシェとラグを伴って中に入った。
「…ということですの」
ラグから詳しい話を聞いたラインハルトは、烈火のごとく怒りを露わにした。
「許せん…その男! よく知らせてくれた、自警団の誇りにかけて早急に対応させてもらう!」
…だが、正直言ってここまでヒートアップするとは思わなかった。
「いや、もう少し落ち着かないか?」
今度はラインハルトをなだめることになるとは思わなかった。
「落ち着いていられる問題ならな! このままではなんらかの被害に遭う女性が出る可能性が高い!」
「まあそこは否定しないが」
ラグを見ると、こっちも黙ったまま涙ぐんでいる。アーシェが寄り添って慰めているが、このままではろくに帰る事も出来ない不安もあるのだろう。
「だがな…ここの自警団の立場からすれば、ヤツを捕まえる理由も何もない。今はまだ、単にエルダードに来ただけの観光客だ。我々の前回の仕事に横槍を入れられたところで、自警団が動く理由にならない」
自警団が動くのは、冒険者に対してではない。一般人に何もしていない者を捕まえることはできないのだ。ラグを狙っているとしても、日常の中で手出しされない限りはどうにも出来ない。
「だが何かあった後では遅いんじゃないのか?」
彼の答えに、私は声を低める。
「おそらく、その何かは今日中に起きるだろうな」
推測だが…ラグに粘着する例の御仁は、ラグ自身にではなくラグに逃げられたという事実が許せずに行動している可能性が高い。ラグがエルダードに来てしばらく平和に過ごして来たが、それは彼女の居場所をつかみきれなかったためと見ている。
静かになった室内に、シャリシャリと、場違いな音が流れ込んできた。
「?」
無言でラインハルトは扉を開けると、そこには彼の部下であるマックが差し入れのルプアの実を齧りながら室内を覗いていた。
「あ、どうも主任! 修羅場っすか? で、眼鏡っ娘とポニテッ子のどっちと付き合うんです?」
「マック! 余計な事を言うな!」
それを聞いて、閃いたことがある。
先刻の会話。ラグとの関係を聞かれた時に、
『(休憩に)付き合っている』
と私は答えた。それなら、早期解決は望めそうだ!
その時、入り口から聞き慣れた声が聞こえて来た。
「ちょっといいかラインハルト?」
アーシェになだめられてようやくラグが泣き止むと、ここからどうするかと言う話になった。
白銀亭に一度戻ろうとするラグを押しとどめると、私は回り道することを勧めた。
「なんで帰っちゃいけないの? さっさと落ち着いて過ごしたいのに!」
ラグのことがあって気が高ぶっているらしいアーシェの抗議にため息をついて答える。
「あのな…さっきの連中が雑踏に紛れて尾行してくる可能性があるだろ」
「っ…」
そう。金の力を過信している輩は、概ね見境がない。自らの身に危機が迫る前に、金をチラつかせて保身を図るお陰で『自分は何をしてもいい』と思い込んでいることが多い。故に、何をやらかすか分かったものではないのだ。
「最悪、宿屋に火をかけられる可能性も…」
途端にアーシェが血相を変えた。
「ちょ…そこまで大袈裟に考えなくてもいいじゃない?」
「それは…可能性があります」
静かな一言をラグが発した。
「ヘレナさんの時も、手段を選びませんでしたから…。わたくしが逃げ込んだ知識神の神殿にも、何度も怒鳴り込まれました」
俯き沈みきった、ラグの声。これは…平和な世の中のために、その男をどうにかしたほうがいい気がしてきた。実際のところ、後をつけられている気配もある。泳がせつつ、ラグには知られることなく済ませたいが…。
「とりあえず、自警団の詰所に行っておこう。知り合いがそこにいると知れたら、牽制にもなる」
この件については、ラインハルトかダンチョーの耳にも入れておいたほうが良さそうだ。果実入りの買い出し袋を抱えながら、詰所に足を向けた。
「珍しいな、当番でもないのにここに来るとは」
開口一番、詰所にいたラインハルトはそう言いながら目を丸くする。事実、あまりここに来ることはデュエルに比べて少ないのは確かだ。
「なに、果物の差し入れだ」
ラインハルトに買い出し袋を押し付けると、そのままアーシェとラグを伴って中に入った。
「…ということですの」
ラグから詳しい話を聞いたラインハルトは、烈火のごとく怒りを露わにした。
「許せん…その男! よく知らせてくれた、自警団の誇りにかけて早急に対応させてもらう!」
…だが、正直言ってここまでヒートアップするとは思わなかった。
「いや、もう少し落ち着かないか?」
今度はラインハルトをなだめることになるとは思わなかった。
「落ち着いていられる問題ならな! このままではなんらかの被害に遭う女性が出る可能性が高い!」
「まあそこは否定しないが」
ラグを見ると、こっちも黙ったまま涙ぐんでいる。アーシェが寄り添って慰めているが、このままではろくに帰る事も出来ない不安もあるのだろう。
「だがな…ここの自警団の立場からすれば、ヤツを捕まえる理由も何もない。今はまだ、単にエルダードに来ただけの観光客だ。我々の前回の仕事に横槍を入れられたところで、自警団が動く理由にならない」
自警団が動くのは、冒険者に対してではない。一般人に何もしていない者を捕まえることはできないのだ。ラグを狙っているとしても、日常の中で手出しされない限りはどうにも出来ない。
「だが何かあった後では遅いんじゃないのか?」
彼の答えに、私は声を低める。
「おそらく、その何かは今日中に起きるだろうな」
推測だが…ラグに粘着する例の御仁は、ラグ自身にではなくラグに逃げられたという事実が許せずに行動している可能性が高い。ラグがエルダードに来てしばらく平和に過ごして来たが、それは彼女の居場所をつかみきれなかったためと見ている。
静かになった室内に、シャリシャリと、場違いな音が流れ込んできた。
「?」
無言でラインハルトは扉を開けると、そこには彼の部下であるマックが差し入れのルプアの実を齧りながら室内を覗いていた。
「あ、どうも主任! 修羅場っすか? で、眼鏡っ娘とポニテッ子のどっちと付き合うんです?」
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それを聞いて、閃いたことがある。
先刻の会話。ラグとの関係を聞かれた時に、
『(休憩に)付き合っている』
と私は答えた。それなら、早期解決は望めそうだ!
その時、入り口から聞き慣れた声が聞こえて来た。
「ちょっといいかラインハルト?」
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