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short mission 4 宅配戦線、異常あり!

少女たちの暗躍

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Side-アーシェ 2

 うーん…いきなりあしたの早朝に出ることになっちゃった。急なんだから、もう!

 でも…兄貴たちはルートの確認ばっかりしてるけど、あたしにできることって何かないかな? だって、あたしだって冒険者なのにさ?

 そんなことを思いながら宿屋のロビーを見回せば、ふと隅に置かれた木箱が目についた。木箱の片側には背負い紐がついていて、瓶が数本入りそうな大きさになっている。
 運ぶ瓶って何本だっけ? あんまり少ないと、コケただけですぐ割れちゃいそうだよ? 

 …そういえば荷物の中に、持ってたよね…?

 同じことを考えてたのか、その時ラグちゃんと目が合った。どちらからともなくいたずらな笑みが漏れる。
「ラグちゃんの考えてる事、当ててみよっか?」
「ふふ、アーシェさんも思いました?」

 二人でこっそりと囁きあって…全く同じ事を考えていたと確信すると、くすくすと小さく笑い声が弾けた。
 でっかいテーブルに地図を広げた兄貴たちが不審そうに振り返るけど、すぐに向こうの作戦会議に戻る。いけない、いけない。

 こういうのは、あとでドッキリさせるのが良いのよね?

 
「あれ、君たちまだ寝ないのかい?」
 兄貴たちが解散したあとのロビーで。
 村長の息子さんの…確かネルソンさんが、酒場から戻ってくるなり声をかけてきた。
「ええ。明日に備えて、少しでも出来ることをしておきたいんです」
 当たり障りなく答えるラグちゃん、ナイス!

 ネルソンさんは「早く寝るんだよ」と言って引っ込んで行った。入れ替わるようにアーちんがふらふらと入ってくる。
「うわ、お酒くさ!」
「出会い頭にご挨拶だな。情報収集がてらの役得くらいいいじゃねぇの?」

 アーちんは無造作に持ってきてた葡萄酒ワインの瓶を一本置き去りにして、おぼつかない足取りで部屋に引っ込んで行く。
「出立は明日早くになりましたよ!」
「二日酔いにはならないでよね!」
 聞いているのかいないのか。あたしたちはその背中に声をかける。

 了解とばかりに背中越しで手を振ると、扉を閉める音がした。寝過ごさなきゃいいけど。

「あーあ…忘れてるし」
 置いてかれた瓶にため息。しかもこれ、未開封じゃん! 全くもう…。

 でもこの未開封の葡萄酒が、あとで役に立つなんて思わなかった。
 酔っ払いの忘れ物、恐るべし!
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