古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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mission 1 俺たち、観光大使じゃない冒険者!

星明かりの鎮魂歌

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Side-デュエル 14

 「レオン!」

 アーシェの悲鳴が、遺跡にこだまする。一番手近にいた前衛の中で、最も生命力が薄そうな子供の姿。病魔のかけらはそこに狙いを絞って殺到する。
 今度はレオンの身体を乗っ取って悪あがきをするつもりか!
 とっさのことで俺もアーチも動けなかった。ラドフォード卿も短剣で斬りかかろうとしたが、煙の状態にに効果があるかどうか?
 そこに、最も効果的な一撃がもたらされた。

「えーーーーいっ!」

 ラグだ。どこかに持っていたのか、透明な小瓶を投げつける。これは…聖水?

小瓶は、中身を空中に撒き散らしながら飛んでゆく。その行く先は…黒い煙!

聖水の雫の直撃を受けて、病魔の煙は文字通り雲散霧消した。最後に、長く尾を引く怨嗟の悲鳴をあげながら。
 消え去った病魔のかけらから、無数の淡い光のかけらが次々浮かび上がると天に向かって登って行く光景が見えた。陰気な遺跡が束の間、満点の星空のような輝きを放つ。おそらくは、今まで病魔に取り込まれていた魂だろう。微かに聞こえる「ありがとう」の声。
 今までの戦いが嘘のように感じられる、幻想的な光景だった。



「終わった…のか?」
しばらく誰も動けなかったが、やっと絞り出した俺の呆然とした呟きに時が動き出したようだった。
『ああ…これで終わった。全てな』
 その力強い頷きに、俺たちは歓声をあげようとしてその場にへたりこんだ。あの長い死闘の後だ。誰一人,元気な者がいるはずもない。全員が汗と泥にまみれ、解けたとはいえ残った呪いの余波でぐったりと疲れきっている。そして喉がカラカラに乾ききっていた。呪いを受けなかった少女たちも、未熟ながら休みなく魔法を使い続けて魔力切れを起こして身動きが取れないようだった。それでもアーシェは気丈に言い放つが、無理しているのが見え見えだった。
「お風呂入りたーい! ドロドロになっちゃった!」
 

「最後の聖水、ナイスだったぜ! よくやった、弟子!」
 背中を叩きながらのアーチのねぎらいに、ラグはボロボロに涙を流してアーチにすがりつく。
「し、ししょうぅぅぅぅ! 怖かった、怖かったですぅぅぅぅぅ!」
「ああ、デケェ敵相手によくやったな。」
 「だ、誰か…誰かがいなくなるかと思うと怖くて…! みっみんな…みんなご無事で、良かったですうう!」
 「無事っちゃ無事だがよ…ボロボロだな、オレら」
 わずかに咳が和らいだアーチの一言で、何故か俺は笑いが出て来た。いかん、ハイになってる気がする。
「ああ、だが生きてる。誰一人欠けることなく、な」
上がった熱で身体の節々が痛み、気合いで吐き気を抑えている俺。病魔を倒したおかげで幾分咳も収まったが、まだ苦しそうなアーチ。身体中にできた赤い斑点と水ぶくれが擦れる痛みを思い出したか、顔をしかめるラドフォード卿。魔力を使い切って動けない少女たち。そして、彼女たちの分も呪いを引き受ける形となって、一番ぐったりしているラスファ。
 今頃、街は観光大使の華やかなイベントで大盛り上がりになっていることだろう。実際の冒険者の戦いが華やかさを持たない、泥臭いものと知る観光客もおそらくいない。そう、誰一人ここの事件を知らないままで。
 真の冒険者は本来、陰働き。そういうものだ、それでいい。
 
 開け放たれた大扉の向こうから、明かりが差し込んで来た。そして複数の慌ただしい足音も。
「大丈夫か? 応援を呼んできた!」
 今は懐かしささえ感じられる、ラインハルトの声。
「遅ェよ! もうこっちは終わったぜ!」
 咳をこらえながらのアーチの悪態に、ラインハルトは小さな身体をさらに縮める。
「すまない、上の者を説得して人員を集めるのに手間取ってしまったんだ。みんな、無事か?」
「無事は無事だが、大丈夫でもないな。全員がボロボロだ」
 苦笑まじりの俺のセリフに、彼は背後の自警団員に手際よく指示を飛ばす。差し出された三つの担架に誰を載せるか、彼の部下たちも迷っているようだった。
「とりあえず弟子とアーシェ、あとラドフォードの旦那も乗せてけよ。オレらはどうとでもならァな」
「そうだな。それ以前に俺は担架に余るうえに重くて運べないだろうし」
 俺のジョークまじりの一言に、自警団員の一人が吹き出しかけて同僚に肘で突かれている。正直な奴だ。
「でも…あたしたち、呪い受けてないのに。みんな、やせ我慢しないでよ!」
「そうですわ! わたくしも平気です!」
『そうだ。私も…』
 アーチから指名された三人からの抗議に、一番重症のはずのラスファがさっさと自警団員に指示してしまった。
「いいから乗せていけ。どうせ、魔力切れで脱力しているんだろうが? ラドフォード卿、あんたも借り物の身体を大事にしてやれ」
「ちょっと! 兄貴が一番やせ我慢してるくせに!」
「いいから行け…私は後からでいい」
 やれやれ、この中で余波が一番残っているだろうに。弱ったところを見せたくないからといって、意地を張るのもほどがある。結局、迷った挙句に指名された三人を乗せて担架は行ってしまった。
 この時は黙っていたが、後で聞いたら実際は完全に腰が抜けてしまっていたらしい。ラドフォード卿もレオンの身体のことを考えて、折れたようだった。
 それを見送ると、それまで必死で意地を張っていただろうラスファの身体から力が抜けた。岩肌にぐったりと身を預けた様子を見て俺も流石に慌てたが、気を失ってしまっただけのようで命に別状はないようだ。

「歩けるようなら、デュエル達も行くぞ。部下の一人が地上への近道を見つけたから、戻りは早く済む。とにかく休まないと…」
「ちょっと待ってくれ」
 出口へと急かすラインハルトの言葉を遮ると、俺は荷物の中から比較的新しい毛布を探し出した。訝しげな視線を向けてくるラインハルトを連れて、俺は辺りを見回すと歩き出す。
「デュエル? 何を…」
 追ってきたラインハルトが、俺の目的を見て息を飲んだ。
 古く朽ちた、騎士の遺体。祈りを捧げるように手を組んで横たわっている。そっと毛布をかけてやると、おれはふりかえらずにつぶやく。
「この後、ここを封印するんだろう? その前にせめて、簡単にでも弔ってやりたくてな。彼はかつて、病魔と刺し違えてこの街を救った英雄だ。俺たちも五十年前に彼がいなかったら全滅は避けられなかった。少しだけ付き合ってくれるか?」
「勿論だ。至高神の方式でよければ、聖句も唱えよう」
  
神官としてラインハルトが聖句を唱えるところを俺は初めて見た。
 ラドフォード卿の魂は現世にとどまっているが、ここにくる前から決めてはいたのだ。ささやかなる礼と感謝を込めての弔いをしてやりたかった。二人だけで見送る、静かな葬儀。盛大な式典などよりも、彼には似つかわしい気がする。

 輝く光輝石に見守られた、星明かりの地下墓所…そんな言葉が脳裏をよぎった。
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