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mission 2 孤高の花嫁
塩対応の衛視詰所
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Side-デュエル 11
衛視の詰所は、エルダードのそれとは比べ物にならないほど優雅な世界だった。
貴族と思しき上役は、一段高い奥のフロアのテーブルでのんびりとティータイムを楽しみ、香でも焚かれているのか高級そうな香りが漂っている。あくせく働いている手前のテーブルの連中は、貴族にこき使われている平民出身のたたき上げだろうか?
「聞いているのか貴様! だからあの屋敷に残った犯人の手がかりは、全く残っていなかったのは間違いない! 証拠品一つとしてな! あれはこの道に手慣れたプロの手口に違いない。この辺りを荒らし回っていた『黒い風』という盗賊団が戻って来たのかもしれないと捜査中だ…殺しの手口がよく似ている。さあさあ、我々も忙しいのだ! さっさとお引き取り願おうか!」
やれやれ、ここの衛視は優雅なんだか短気なんだかわからない。アーチやラスファと別行動でここに聞き込みに来てみたものの、初っ端からこんな対応を取られるとは。
目の前にいるのは馬面で白髪を撫で付けた神経質そうな痩せ型の中年男だ。手前側の働き者に話を聞いてみたところ、こいつに遮られて現在に至る。ちなみに同行しているラグは、その剣幕に怯えて俺の後ろで小さくなっている。どうでもいいが、こんな勢いで怒鳴っていたら血管切れていつか倒れそうだ。その場合、俺のせいになるんだろうか?
エルダードの汗臭い自警団詰所が懐かしくなって来た。あそこは下っ端よりも上役の方が血の気が多く、事件となったらデスクワークも放ったらかしで真っ先に上役がすっ飛んでいくような所だ。彼らの爪の垢を持ってこなかったことを激しく後悔しながら、俺は一応の質問を重ねる。
「帰る前にもう一つ。動機は物取りと思われますか?」
「他に何があるというのだ! たかが盗賊団の浅はかな動機など、金品以外に何がある!」
あー…だめだこりゃ。これ以上ここで聞ける話なんかなさそうだ。
「すいませんね、『お忙しい』ティータイムの邪魔をして」
帰り際に丁寧な挨拶を返しながらラグを連れて来た道を帰ると、後ろで塩が盛大に撒かれていた。最近の衛視詰所は、奇特なことだ。玄関口に塩が常備されているとは。
この先、どこで情報を集めるべきか? 自警団における、まさかの『塩』対応に俺は途方にくれた。
「真面目に働いていらした方達に、お話を聞けたらよかったのですが…」
ため息混じりのラグに、俺もため息で答える。
「あの場で聞いたところで、またあの馬面に邪魔されて終わるだろうな…」
いっそのこと、外回りのやつを捕まえて尋ねるか? いや、無理か。逆に言えばあいつが黒幕本人だったなら、俺たちに襲撃の一つも仕掛けて来たところを返り討ちにして尋問もできそうなものだが。
そこまで考えて俺は苦笑した。いかんいかん、アーチやラスファのことを言えやしない。どうもあいつらの影響で、思考が黒くなりつつあるな。そう思ったのも理由がある。どうも、背後からつけられているのだ。馬面が目をつけたらしい…。むしろ好都合とばかりに、ラグをさりげなく路地に押しやって振り返る。
「!」
そこにいたのは、見回りに出ていたらしい小柄な若い男だった。こいつはさっき、怯えていたラグに同情的な視線を向けていた下っ端だ。
「あ、あの。すいません。これ…先ほど落としていかれたので、お届けに」
彼はさりげなく周囲に目を配りながら、汚らしいハンカチを俺に握らせた。落し物などした覚えはないが、意味ありげな目配せとカサリと立てた音に俺は悟った。
「ああ、すまん。さっきから探してたんだ。見つかってよかった、ありがとう」
力強く頷きながら受け取ると彼は含みのある笑みで「では私はこれで職務に戻ります」と敬礼を残して去って行った。あの堕落した貴族どもとはえらい違いだ。この指示に従えば、貴重な証言が得られるかもしれない。
思った通り、ハンカチには走り書きのメモが仕込んであった。書いてあった地図に従って訪れた路地裏には、廃屋に埋もれるようにしてうらさびれた酒場がポツンと建っていた。こういう場所にありがちな薄汚れた酒場ではないが、どこかひっそり感が拭えない。だがそこが人の心を捉えるのか、昼間であるにもかかわらずそこそこの人入りがあるようだった。
ここなら何かいい情報が入って来そうだ。メモにも『コーデュロイ家強盗殺人事件について、苦しんでいる者がいる。話を聞いてやってください』とあったのだ。
しかし…一人ならともかく、ラグを連れて入るのはためらわれた。だが意外にも…彼女はあっさりと俺の後をついて頷く。
まあいい、何か問題があるなら俺が対処しよう。
衛視の詰所は、エルダードのそれとは比べ物にならないほど優雅な世界だった。
貴族と思しき上役は、一段高い奥のフロアのテーブルでのんびりとティータイムを楽しみ、香でも焚かれているのか高級そうな香りが漂っている。あくせく働いている手前のテーブルの連中は、貴族にこき使われている平民出身のたたき上げだろうか?
「聞いているのか貴様! だからあの屋敷に残った犯人の手がかりは、全く残っていなかったのは間違いない! 証拠品一つとしてな! あれはこの道に手慣れたプロの手口に違いない。この辺りを荒らし回っていた『黒い風』という盗賊団が戻って来たのかもしれないと捜査中だ…殺しの手口がよく似ている。さあさあ、我々も忙しいのだ! さっさとお引き取り願おうか!」
やれやれ、ここの衛視は優雅なんだか短気なんだかわからない。アーチやラスファと別行動でここに聞き込みに来てみたものの、初っ端からこんな対応を取られるとは。
目の前にいるのは馬面で白髪を撫で付けた神経質そうな痩せ型の中年男だ。手前側の働き者に話を聞いてみたところ、こいつに遮られて現在に至る。ちなみに同行しているラグは、その剣幕に怯えて俺の後ろで小さくなっている。どうでもいいが、こんな勢いで怒鳴っていたら血管切れていつか倒れそうだ。その場合、俺のせいになるんだろうか?
エルダードの汗臭い自警団詰所が懐かしくなって来た。あそこは下っ端よりも上役の方が血の気が多く、事件となったらデスクワークも放ったらかしで真っ先に上役がすっ飛んでいくような所だ。彼らの爪の垢を持ってこなかったことを激しく後悔しながら、俺は一応の質問を重ねる。
「帰る前にもう一つ。動機は物取りと思われますか?」
「他に何があるというのだ! たかが盗賊団の浅はかな動機など、金品以外に何がある!」
あー…だめだこりゃ。これ以上ここで聞ける話なんかなさそうだ。
「すいませんね、『お忙しい』ティータイムの邪魔をして」
帰り際に丁寧な挨拶を返しながらラグを連れて来た道を帰ると、後ろで塩が盛大に撒かれていた。最近の衛視詰所は、奇特なことだ。玄関口に塩が常備されているとは。
この先、どこで情報を集めるべきか? 自警団における、まさかの『塩』対応に俺は途方にくれた。
「真面目に働いていらした方達に、お話を聞けたらよかったのですが…」
ため息混じりのラグに、俺もため息で答える。
「あの場で聞いたところで、またあの馬面に邪魔されて終わるだろうな…」
いっそのこと、外回りのやつを捕まえて尋ねるか? いや、無理か。逆に言えばあいつが黒幕本人だったなら、俺たちに襲撃の一つも仕掛けて来たところを返り討ちにして尋問もできそうなものだが。
そこまで考えて俺は苦笑した。いかんいかん、アーチやラスファのことを言えやしない。どうもあいつらの影響で、思考が黒くなりつつあるな。そう思ったのも理由がある。どうも、背後からつけられているのだ。馬面が目をつけたらしい…。むしろ好都合とばかりに、ラグをさりげなく路地に押しやって振り返る。
「!」
そこにいたのは、見回りに出ていたらしい小柄な若い男だった。こいつはさっき、怯えていたラグに同情的な視線を向けていた下っ端だ。
「あ、あの。すいません。これ…先ほど落としていかれたので、お届けに」
彼はさりげなく周囲に目を配りながら、汚らしいハンカチを俺に握らせた。落し物などした覚えはないが、意味ありげな目配せとカサリと立てた音に俺は悟った。
「ああ、すまん。さっきから探してたんだ。見つかってよかった、ありがとう」
力強く頷きながら受け取ると彼は含みのある笑みで「では私はこれで職務に戻ります」と敬礼を残して去って行った。あの堕落した貴族どもとはえらい違いだ。この指示に従えば、貴重な証言が得られるかもしれない。
思った通り、ハンカチには走り書きのメモが仕込んであった。書いてあった地図に従って訪れた路地裏には、廃屋に埋もれるようにしてうらさびれた酒場がポツンと建っていた。こういう場所にありがちな薄汚れた酒場ではないが、どこかひっそり感が拭えない。だがそこが人の心を捉えるのか、昼間であるにもかかわらずそこそこの人入りがあるようだった。
ここなら何かいい情報が入って来そうだ。メモにも『コーデュロイ家強盗殺人事件について、苦しんでいる者がいる。話を聞いてやってください』とあったのだ。
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