古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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mission 2 孤高の花嫁

荒くれ紳士ども

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Side-デュエル 13

「あんたになら、これを託せる。受け取ってくれ」

さっきのやり取りの後、呑んだくれていた彼は安酒の注文を取りやめて冷水を浴びるように数杯呑んだ。手っ取り早く酔いを覚ましたかったのだろう。ひとしきり冷水を飲むと両手で頰を叩き、気合いを入れるとエドガーと名乗り、固く握手を交わした。さっきまで虚ろだった目には、やるべきことを思い出したかのように力が蘇っている。そして彼は、そばのカバンから厳重に布を巻いた細長い包みを差し出した。
「これは?」
「あの強盗事件の現場に落ちていた。犯人の物らしい凶器だ。どうせ上司に渡したところで、適当に処分されるのが落ちだからな。こっそり隠していたんだ」

 布を解くと、生々しく血がこびりついたままの刀身が現れた。ただし…刃の部分は激しく刃こぼれしている上に、切っ先が折れて無くなってしまっている。よほど乱暴に扱わないと、こんなことにはならないだろう。しかし、この凶器は重要な証拠になりそうだった。
 
 俺はふと思いつくと、錆びかけた留め金を外して柄から刃を引き抜いて見た。こういう武器はだいたいこの部分に、刀匠なり工房の銘が入っているものだ。意外と実用的な拵えが気になってのことだ。
「これは…!」
 見覚えのある、工房のロゴ。エルダードの工房街に軒を連ねる店のものだ。
「ヴィット工房の短剣だと…?」
「何かわかったんですか?」
 神妙に見上げて尋ねるラグに、俺は小さく頷いた。
「ああ。この短剣は、エルダードの工房街にある店のものだ。比較的安価で良質な品が揃うので、人気がある。そして…メインの顧客は冒険者だ」
「ということは…」
「ああ、これを使った犯人は、十中八九冒険者だ」

 その時、酒場の扉が荒々しく蹴破られた。
「貴様ら! 大人しく我々と来てもらおうか!」
 声の主は、ガチガチに武装した数人の衛視らしき男たちだった。ただし、その鎧は徹底的に磨き込まれて実用性のかけらもない。メデューサ退治には向いているだろうな…と、とりとめのないことを考えながら俺は証拠の短剣を布で巻き直してラグに預ける。
 見たところ、貴族出身の上役連中だ。俺たちをしょっ引くつもりのようだが、どんな罪状をつけるつもりなのだろうか?

 恨み骨髄で色めき立つ酒場の連中をやんわりと押しのけると、俺は最前列に立った。彼らにここでことを構えさせるのは、後々のことを考えると得策ではない。ここはよそ者の俺がなんとかするしかないだろう。現地集合の目印以外に、この体格を役立てる時がきたようだ。
「俺たちに何の用があるのか、聞いても差し支えないかな?」
 厳密なルールに沿ったお綺麗な剣術しか知らない貴族連中は、俺の体格に圧倒されたように一歩下がる。数さえ揃えばなんとかなると思われていたようだ…舐められたものだ。
 俺は駄目押しとばかりに、さらにひとこと付け加えた。
「ああ、聞く前にちょっと喉が乾いたな。親父、このルプアの実一つもらうぞ」
 俺はカウンターの上に無造作にカゴ盛りされた真っ赤な果実を手に取った。手のひらに余る大きさとそれなりの硬さがあるものを選び、さっき拾い上げたグラスの上で勢いよく握り潰した。飛び散る果汁に、貴族たちは、一人残らず逃げ腰になる。
 俺は悠然とグラスに滴った果汁を飲み干すと、続きを促すようにちらりと彼らを見た。いかん、ラスファやアーチのことを言えなくなってきたぞ…。俺も無意識のうちに奴らに感化されてきたらしい。

「い、いや…用事などというほどのことは…。すまん、失礼したな」
 さっきとは打って変わってひとまわり小さくなった彼らはそのまま、貴族としての威厳を守るかのようにジリジリと後退していき…酒場から出た順でダッシュで逃げ帰る。
 その様子に鬱憤を溜めきっていた酒場の連中は、快哉を叫んだ。

「だーっはっはっはっは! 兄ちゃん、あんたサイコーだ!」
「おう、決めた! 俺たちゃあんたらに全面協力するぜ!」
「そういや、お仲間がいるって? ぜひ紹介してくれ! あんたのお仲間なら、いつでも歓迎だ! なんならここの酒場を拠点にすればいい…いいよな、マスター?」
  酒場の男たちは俺の背中をバシバシ叩きながら、溜まった鬱憤を一気に吐き出すように笑い続けた。ここの酒場を拠点に…? 貴族のお屋敷で聞きづらい話も、ここなら多く聞けるだろう。悪い話じゃないな。だが…。俺は陰気な鷲鼻店主に目を向ける。彼は断るどころか渋い笑みを浮かべ、サムズアップで黙って頷く。案外ノリのいい店主だ。
「大丈夫、お嬢ちゃんにも優しいぜ? 俺たちゃ紳士だからよ!」
「おうよ、元は自警団員だからな!」

「それなら、今度連中も連れてこよう。よろしく頼む」
 酒場の歓声が、さらに大きくなった。
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