古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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mission 2 孤高の花嫁

超辛口撃退法

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Side-ラグ 5

 「ま…まあともかく、これでひとまず身は隠せそうだな…手段は横に置くとして」
 やや疲れた口調でラスファさんは額を抑えます。
「絶対に表には出ず、潜んでおけよ…って、結局あんたも着てるのか…」
 ナディアさんに向き直って釘を刺そうとして、わたくしたちと同じくメイド風衣装に身を包んだナディアさんに脱力するラスファさん。これが師匠がおっしゃっていた、ツッコミ疲れというものでしょうか?
「…お手伝いなども、ダメでしょうか?」
「その場合は、表に出ない裏方に徹してくれ…」
 ちょっと申し訳なさそうなナディアさんに、ラスファさんはため息で答えます。

 その彼が、急に身を翻してカウンターに駆け寄りました。
「これ、借りるぞ」
 そこにあった何かを手にしたとき、金属が触れあうような耳障りな音が近づいてきました。
「奥に入っていろ!」
 ラスファさんの合図で、アーシェさんがナディアさんを奥の部屋に押し込みます。さすが兄妹、素晴らしい連携ですわ。わたくしはさりげなくそのドアを背にして立ちました。何か物音が聞こえても、これならごまかせます。
 何かを察したのか、酒場の方々も入り口近くに威嚇するかのように並びました。
 これは、もしかして…?

 「今度は前のようにはいかんぞ! この店で犯罪が行われていると、匿名の通報があった! 同行してもらおうか!」
 なだれ込んで来たのは、この前いらした衛士隊の皆さんです。前と同じ、綺麗に磨き抜かれた鎧を着た貴族の方々です! デュエルさんに追い返されたのがよっぽど悔しかったのか、皆さん目が血走っていらっしゃいます! この酒場を、めちゃめちゃにするおつもりでしょうか?  前と違うのは、お相手をするのがデュエルさんからラスファさんに交代したということですが…。
  彼は戸口で左右を見回すと、デュエルさんがいないことを確認して胸を大きく張りました。
「ふん、今度はあの大男はいないようだな!」

 そう言いながら酒場に足を一歩踏み入れたところで、先頭の隊長さんの立派な口髭が片方消えてしまいました。一瞬何が起きたのかお分かりにならない様子で彼は口元に手をやり、カウンター側のラスファさんを振り返りました。
「きっ…貴様っ…! いきなり何をする!」
「何をと言われても。的の前にいきなり立たれて、こっちも迷惑してるんだが?」
 隊長さんが振り返ると、その先にはダーツの的ときれいに中心を射抜いたナイフが震えていました。
「ついでだ。死にたくなければ動くなよ?」
  同時に隊長さんの身体すれすれに、銀光が次々と吸い込まれました! 次の瞬間、突き立てられたナイフが隊長さんを的に縫い付けます。
「ひいいいいいっ?!」
 「声を立てるなよ? 手元が狂う」
 
  さすがに飛び道具の扱いはうまいです。絶妙なタイミングで後ろの隊員さんをちらりと見ながら牽制すると、さらに数本投げ放ちます。
 手元のナイフを投げ終わった時点で、隊員さんはラスファさんに詰め寄りました。
「貴様っ…!」
 襟首を掴まれても、ラスファさんはけろりとして答えました。
「なんだ? たかだか平民の一発芸に動揺するとは、貴族というのは案外だらしないものだな。その立派な鎧は飾りか?」
「な…何を?」
「ちょうどマスターと一杯賭けて勝負していてな。お陰で盛り上がった。で? 何の用でここに?」
 彼の言葉にリアクションに困っていた隊員さんは、当の隊長さんの言葉に我に帰りました。
 「は…離してやれ…」
「隊長?」
「おおおおお陰で妙技を間近で見られた。れれれ、礼を言うぞ…」
 他の隊員さんがたにナイフを抜いてもらってやっと解放された隊長さんは、貴族の威厳を意識しながらゆっくりと立ち上がりました。口調も足も、震えていらっしゃいますが。
  …怖かったんですね…わかります…。
「ままま、またその妙技を…みみみ、見せてもらいたいものだ…」
 そのまま衛士隊の皆さんは、隊長さんを担ぎ上げるように帰っていかれました。
 貴族の方というのも大変ですわ…隊員さんの手前、動揺することも逃げ帰ることもできないのですから。

 あっけにとられる皆さんは衛士隊の背中を見送られたあと、一拍おいてわっと歓声を上げました。
「おいおい、あんた最っ高だ!  自警団の連中の泣きっ面をこう立て続けに見られるなんて思わなかったぜ!」
「おいマスター!  こっちの兄さんにも一杯おごりだ!」
 打てば響くような呼吸で、お酒の入ったグラスが出されます。それを見てラスファさんは、ちょっと困ったように皆さんに振り返りました。
「あー…悪い。ああは言ったが酒は苦手なんで、茶か果実水で頼む…」
「兄貴…なんっでいつも肝心なところでカッコつかないわけ?」
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