古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

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mission 2 孤高の花嫁

襲撃者は返り討ち

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Side-ラスファ 8

 「大変だー!」
 蹴破らんばかりの勢いで、酒場の扉は開かれた。
 息を切らした元自警団員は、外を指差して騒ぐ。
「妙な連中がここを目指して押し寄せてくるぞ!」
 その一声で、酒場の空気が一気に変わった。全員が思い思いに武器を取り、誰の号令もなく扉に向き直ると構える。たとえ飲んだくれていても、やはり元は自警団員だと思い出される光景だった。
「待ってくれ」
 それを止めると、私は奥につながる扉を指した。
「貴族お抱えの衛視だとしたら、あんたらが出るのはまずい。下手に逆らって逮捕されれば相手の思うツボだ。今は裏口を警戒していてくれ!」
 その言葉に、元自警団員は気色ばむ。
「なんでだ? やっと戦うべき時がきたんだぞ!」
「戦うべき時は、何も今ばかりじゃない。あんたらがまとめて逮捕されたら、誰がその後のこの町の治安を守るんだ?」
 彼らは言葉に詰まった。
「武器を持っているだけで十分、逮捕の理由づけになる。今は抑えてくれ」
 手にした武器を固く固く握り締めて、彼らは悔しそうに唸る。
「だが、戦うべき時は近い。それまで待っていてくれ。どの道、狙われているのは俺とラスファだ。今は裏口からの奇襲を警戒しておいてくれ」

 落ち着き払ったデュエルに感化されるようにして、彼らは落ち着きを取り戻した。大したものだ、いざという時のこの統率力は、いっぱしの指揮官を彷彿とさせる。ちなみにアーシェとラグは、奥の小部屋で待機させている。今出てきてしまうと後々に影響が出るため、不満たらたらだったが仕方ない。

 手持ち無沙汰に耐えかねて自主的な見回りに行っているものも含めて現在、ここに居る自警団員は十人ほど。とりあえずフットワークの軽そうな三人ほどをこちらに残して連絡係を頼むと、あとは全て裏口に配置してもらった。息子を誘拐されているブルスも、同じく裏口だ。
「おいおい、あんたらは大丈夫なのか? 奴ら多分、大量の戦力を送り込んできてるぞ?」
 若い連絡係の声は震えている。その様子に私もデュエルも肩をすくめた。
「そりゃ、肩慣らしにはちょうどいいかもな」
 静かに指を鳴らして、不敵にデュエルは答える。
「ああ。街道荒らしの魔物とどちらが持ちこたえるだろうな?」
  続いて私も答える。連絡係の不安はまだ拭い去れないようだが、それはこれから見ていればわかる。
「なに、俺らも少々鈍っていたところさ。鍛錬の相手をしてくれるなら、望むところだ」
 アーチのやつがいたら『一番多く倒した奴に、一杯奢りってことでどうだ?』と軽口が入るであろう。

 そんなやりとりをやっている間に、扉は蹴破られた。威勢だけはいい三下の肉食獣人が躍り出る。
「おうおうおう! 衛視隊の到着だ! この俺様が直々に…げふぁ!」
 無骨な棍棒を振り上げながらの口上は、瞬間的に距離を詰めて腹をえぐったデュエルの拳により途切れた。時間にして数秒の、あっけなさすぎる退場者だ。続く蹴りで獣人は無様に宙を舞う。
「悪いな、先手必勝だ」
 そのまま壁と床に叩きつけられて獣人は白目をむいて沈黙した。
 しかし、後に続く見慣れた金髪と目が合うとポカンと目を丸くする。
「こいつは私が相手する!」
 互いに余計なことを言う前に、私は手持ちの銀の短剣を抜いてそっちに躍り掛かる。少々焦ったようにその斬撃を両手の短剣で受け止めるアーチ。
 そのまま斬り結ぶふりをしながら、小声で問い詰めた。接近戦は苦手だが、最低限の護身術ぐらいはどうにかなる。ことに、相手はあのアーチだ…事情くらいは聞かせてもらわなくては!
「今の今まで、どこで何をしていた?」
「いや、話せば長くなるんだけどよ…ちょっとだけ敵地っつーか『黒狼団』に潜入してた」
「貴様と言う奴は…」
 呆れる私の横薙ぎの一線を仰け反って躱すと、アーチはごまかすようにへラリと笑った。
「いやしかし、オメーがいて助かったわ。うっかりデュエルがポロっと話しかけてきそうだったからよ。ちょいとこのまま、話聞いてくれや」

 小さく頷くと、少しだけ背後を振り返る。二人目、三人目と拳一つで気絶者を積み上げる様に注目が集まってこちらを気にする者はいそうにない。一瞬視線を投げてくるデュエルに『続けてくれ』とアイコンタクトを送ると、再びアーチに向き直る。すぐに、数回の打撃音が背後で聞こえてきた。連絡係の三人から、まばらながら拍手が起こっていた。

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