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mission 2 孤高の花嫁
交渉とお仕置き
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Side-ラスファ 11
その後。
奥から飛び出してきたラグがアーチに飛びついたり、アーシェに文句言われたりしながらも後片付けに勤しむなか、アーチに縛られた女が目を覚ました。
「アンタ…どういうつもりよ、新入り!」
浅黒い肌に短い黒髪の女は、視界にアーチの姿を見つけるなり詰り始めた。
「よお、姐さん…悪ィな、オレもともとこっち側のモンでさ。いやあ、騙しちゃってすまねぇ。んでさ、ちょいとばかし証言してくれると嬉しいんだが…協力してくれるよな?」
奴の口調はもはや、交渉ではなく確認の体をとっていた。そのセリフに彼女は口を噤んでそっぽを向く。まあ、当然といえば当然の反応か。
「頼むよ~、姐さんの証言でこっちは助かるんだよな。『黒狼団』だって壊滅しちまったも同然だしよ。生き残るための身の振り方ってやつを提案したいわけよ、オレも」
「壊滅?」
そこで初めて彼女は周囲の惨状を見回す余裕が出てきたらしい。それまで自分が所属していた組織の連中が、一山いくらでまとめて伸されている…その現実は、少なからず彼女に衝撃を与えたようだ。
「ちょ…どういうことよ? ここで一体、何があったの?」
「まあその辺はその…少数精鋭の超実力派だったりするわけよ、オレら。んで、ここからが本筋なんだけどな…手ェ組むつもりはねぇか?」
その提案に驚いたのは、なにも彼女ばかりではない。私より先にデュエルがアーチを問い詰める。
「アーチ…何するつもりだ?」
「なに、話次第じゃエルダードの盗賊ギルドにご招待してもいいって提案♪ ちょうどうちの上役が情報部員向きの部下を欲しがっててさ? 定員にゃ、あと一人足りねぇわけよ。んで、どうする? こうなった以上、沈む船にいつまでもしがみつく必要はねぇんだぜ?」
後半は彼女に向かってのセリフだ。女は奥歯を鳴らしてアーチを睨み返す。何があったかは見当もつかないが、この女のことはアーチに任せて交渉を傍観することにした。尋問などではなく交渉なら、奴の右に出る者はそうそういない。同様に思っていたのか、アーシェやラグも黙ってこちらの意向に従うようだった。
「…嫌だって言ったら?」
「さあな? 少なくとも『黒狼団』と一緒くたに泥舟に乗ることになるんじゃね? 沈むことが確定した船に乗りっぱなしじゃ、どうなるか見当つくだろ? 衛視の残党に捕まっても自警団に捕まっても、明るい未来なんかねぇぜ? 世話になった姐さんに、そんな目にあって欲しくねえしさ…だから、な?」
「…飴と鞭の使い方が上手いわね」
「まあな。だけどよ…オレ、できりゃ飴だけ使いたいんだわ。女には優しいのよ、オレって」
…ああ、確かに女限定の助け舟だな…。
その『誠意』ある説得に屈したのか、彼女は小さく息を吐いた。
「負けたわ、アンタにゃ。ただ、アタシも条件を出したいの。聞いてくれる?」
「ほいほい、何んだい?」
「衛士隊には、まだ『切り札』がある。その『切り札』を出させないか、出したとしても叩き潰せる?」
…『切り札』?
微妙に不吉な響きに、全員が視線を交わし合う。
「…なあ、つかぬこと聞くけどよ? なんなんだ、その『切り札』って?」
「闇ギルドのルートで流されてる、『魔獣結晶』って聞いたことない? ウチもちょっとばかし手を出してたんだけどさ、衛士隊がいざって時用に欲しがってて上役が都合してたのよ」
聞き覚えのないアイテム名だ。ということは、最近になって開発されたものだろうと推測する。
「…具体的には、どんな効果が?」
私の質問に、彼女は答える。
「叩き割れば、なんらかの魔獣が呼び出されるの。当たり外れが激しいんだけど、使用者の手足となることが多いわ。前に聞いた話じゃワイバーンが出てきて、死傷者が多数出たそうなんだけどね」
……ナントカに刃物とはこういうことか……。
ワイバーンとは、劣化版ドラゴンといえば通じるだろうか? 前足の代わりに翼が存在し、火を吹く個体も存在する、凶悪な魔獣だ。救いといえばドラゴンよりも知能は低く、魔法を使うことはまずないというところのみか。
「少なくとも衛視隊とやり合えば、厄介なオマケがついてくるということか。だが、なぜその魔獣結晶を出させないことが条件なんだ?」
素朴な疑問をぶつけると、彼女は自嘲するように俯いた。
「ワイバーンが出た時、当時成人したばかりの弟が重傷を負ったの。アタシが『黒狼団』に入ったのも、その治療費のためよ。弟の怪我が治った後も、そのままずるずると引きとめられてたんだけどね」
「だったらいいじゃねーか、潮時だったんだよそりゃ! ウチに来いよウチに!」
彼女はしばし考えるそぶりを見せると、静かに頷いた。
「そうね。『黒狼団』への義理もとうに果たしてるし、これが区切りかもしれないわ」
契約成立とばかりにアーチが彼女の縄を解くと、女は蛇を思わせる動きでするりとアーチを抱きしめ唇を重ねた。
いきなりのことに呆然とする全員。
「アタシを騙した、嫌な詐欺師にお仕置き」
見た目通りに、大胆な女だ…。
その後。
奥から飛び出してきたラグがアーチに飛びついたり、アーシェに文句言われたりしながらも後片付けに勤しむなか、アーチに縛られた女が目を覚ました。
「アンタ…どういうつもりよ、新入り!」
浅黒い肌に短い黒髪の女は、視界にアーチの姿を見つけるなり詰り始めた。
「よお、姐さん…悪ィな、オレもともとこっち側のモンでさ。いやあ、騙しちゃってすまねぇ。んでさ、ちょいとばかし証言してくれると嬉しいんだが…協力してくれるよな?」
奴の口調はもはや、交渉ではなく確認の体をとっていた。そのセリフに彼女は口を噤んでそっぽを向く。まあ、当然といえば当然の反応か。
「頼むよ~、姐さんの証言でこっちは助かるんだよな。『黒狼団』だって壊滅しちまったも同然だしよ。生き残るための身の振り方ってやつを提案したいわけよ、オレも」
「壊滅?」
そこで初めて彼女は周囲の惨状を見回す余裕が出てきたらしい。それまで自分が所属していた組織の連中が、一山いくらでまとめて伸されている…その現実は、少なからず彼女に衝撃を与えたようだ。
「ちょ…どういうことよ? ここで一体、何があったの?」
「まあその辺はその…少数精鋭の超実力派だったりするわけよ、オレら。んで、ここからが本筋なんだけどな…手ェ組むつもりはねぇか?」
その提案に驚いたのは、なにも彼女ばかりではない。私より先にデュエルがアーチを問い詰める。
「アーチ…何するつもりだ?」
「なに、話次第じゃエルダードの盗賊ギルドにご招待してもいいって提案♪ ちょうどうちの上役が情報部員向きの部下を欲しがっててさ? 定員にゃ、あと一人足りねぇわけよ。んで、どうする? こうなった以上、沈む船にいつまでもしがみつく必要はねぇんだぜ?」
後半は彼女に向かってのセリフだ。女は奥歯を鳴らしてアーチを睨み返す。何があったかは見当もつかないが、この女のことはアーチに任せて交渉を傍観することにした。尋問などではなく交渉なら、奴の右に出る者はそうそういない。同様に思っていたのか、アーシェやラグも黙ってこちらの意向に従うようだった。
「…嫌だって言ったら?」
「さあな? 少なくとも『黒狼団』と一緒くたに泥舟に乗ることになるんじゃね? 沈むことが確定した船に乗りっぱなしじゃ、どうなるか見当つくだろ? 衛視の残党に捕まっても自警団に捕まっても、明るい未来なんかねぇぜ? 世話になった姐さんに、そんな目にあって欲しくねえしさ…だから、な?」
「…飴と鞭の使い方が上手いわね」
「まあな。だけどよ…オレ、できりゃ飴だけ使いたいんだわ。女には優しいのよ、オレって」
…ああ、確かに女限定の助け舟だな…。
その『誠意』ある説得に屈したのか、彼女は小さく息を吐いた。
「負けたわ、アンタにゃ。ただ、アタシも条件を出したいの。聞いてくれる?」
「ほいほい、何んだい?」
「衛士隊には、まだ『切り札』がある。その『切り札』を出させないか、出したとしても叩き潰せる?」
…『切り札』?
微妙に不吉な響きに、全員が視線を交わし合う。
「…なあ、つかぬこと聞くけどよ? なんなんだ、その『切り札』って?」
「闇ギルドのルートで流されてる、『魔獣結晶』って聞いたことない? ウチもちょっとばかし手を出してたんだけどさ、衛士隊がいざって時用に欲しがってて上役が都合してたのよ」
聞き覚えのないアイテム名だ。ということは、最近になって開発されたものだろうと推測する。
「…具体的には、どんな効果が?」
私の質問に、彼女は答える。
「叩き割れば、なんらかの魔獣が呼び出されるの。当たり外れが激しいんだけど、使用者の手足となることが多いわ。前に聞いた話じゃワイバーンが出てきて、死傷者が多数出たそうなんだけどね」
……ナントカに刃物とはこういうことか……。
ワイバーンとは、劣化版ドラゴンといえば通じるだろうか? 前足の代わりに翼が存在し、火を吹く個体も存在する、凶悪な魔獣だ。救いといえばドラゴンよりも知能は低く、魔法を使うことはまずないというところのみか。
「少なくとも衛視隊とやり合えば、厄介なオマケがついてくるということか。だが、なぜその魔獣結晶を出させないことが条件なんだ?」
素朴な疑問をぶつけると、彼女は自嘲するように俯いた。
「ワイバーンが出た時、当時成人したばかりの弟が重傷を負ったの。アタシが『黒狼団』に入ったのも、その治療費のためよ。弟の怪我が治った後も、そのままずるずると引きとめられてたんだけどね」
「だったらいいじゃねーか、潮時だったんだよそりゃ! ウチに来いよウチに!」
彼女はしばし考えるそぶりを見せると、静かに頷いた。
「そうね。『黒狼団』への義理もとうに果たしてるし、これが区切りかもしれないわ」
契約成立とばかりにアーチが彼女の縄を解くと、女は蛇を思わせる動きでするりとアーチを抱きしめ唇を重ねた。
いきなりのことに呆然とする全員。
「アタシを騙した、嫌な詐欺師にお仕置き」
見た目通りに、大胆な女だ…。
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