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mission 2 孤高の花嫁

新郎と黒幕

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side-ラスファ 12

「か弱い女性に乱暴を働く輩は、ここか!?」

 芝居掛かったセリフとともに、蹴り飛ばす勢いで開かれた扉。
 「勇者フランシス、ただいま参上!」
 ご丁寧に決めのポーズまでつけて戸口に現れたのは、見慣れた派手な衣装に身を包んだフランシスだった。
「ボクが来たからにはもう安心だ! さあ、我が手を取りたまえ!」

 唖然とする一同の前でも奴の暴走は止まらない。目の前に立ち尽くす婚礼衣装のナディアに手を差し伸べて、その手に恭しく口付ける。久しぶりすぎて懐かしくさえ思える、キザな仕草だ。

「あ…あがが…」

 ちなみにナディアを人質にとって脅していた執事は、フランシスが蹴破った扉にキレイに吹っ飛ばされていた。動けないようなので、とりあえず手に持っていた刃物を遠くに蹴り飛ばす。淡々とデュエルが拘束してアーチが縛り上げた。

 冒険者をやっていれば、こういう場面は比較的よく遭遇するものだ。いちいち驚いていては身がもたない。
「しかし、久々のテンションだなオメー」
「ふふふ、久しぶりにこの衣装に袖を通したからね…。なんだかこのままなんでもできそうな気分だよ!」

 …なんとなく納得した。こいつは衣装でテンションが上がるタイプだと。実家に戻って妙におとなしいと思ったら、いつもの派手な衣装を着ていなかったからなのか…。実家での様子はそれなりに見てきたが、あの環境で叔父に抑圧されていたら反動でそうなるのも道理という気がしてきた。案外、気の毒な奴だったんだな…。

 私の密かな同情をよそに、フランシスは元気いっぱいだ。ドレス姿のナディアが、あまりの変わりように引くぐらいに。
「あ、あの…すいません、大丈夫ですかこの人?」
「ああ、放っておいて問題ない。これが通常運転だ」

 そこに、新たな人影が現れた。同じく婚礼衣装をまとったナディアの『結婚相手』、アドルフの息子だ。波打つ短い金髪に、酷薄そうな黒い瞳。整ってはいるが性格の悪さがにじみ出ているらしく、いちいち表情が陰険そうに歪んでいる。
「迎えにきたよ、俺の花嫁。さあ、結婚式の続きだ…」
 フランシスとは意味が違う芝居掛かった動きで前髪を書き上げる新郎。だが、縛り上げられて目を回している執事を見つけて瞠目した。
「はあ!? 何をしていたオマエ! この俺の結婚式なんだぞ? 役立たずが!」

 尊大な口調で気絶した執事を罵倒すると、ナディアに向き直る。すかさずそこで私やデュエルが間に入って、アーチはお得意の挑発に出た。

「よお、結婚前に振られた色男さんよ? 悪ィがよ、彼女にゃ嫌われちまってるぜ? 潔く身を引いちゃどうだ?」
「ふ、ふざけるな! 他でもない俺と結婚できるのだぞ? これ以上の幸せがどこにあるっていうんだ? 貴様ら全員、衛視に命じて逮捕だ!」
 その嫌味に、奴はたやすく激昂する。甘やかされてきたのか、導火線も短そうだ。この様子では、たとえ実際に結婚したところで幸せにはなれまい。

「ほう…? やってみるか?」
 底冷えする声で、私は答える。そこにもう一人がさらに加わった。
「下がるがいい、デビッド」

 現れたのは当の黒幕、アドルフ卿その人だった。
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