古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は(俺・オレ・私・あたし・わたくし)のターン〜

杏仁霜

文字の大きさ
131 / 405
mission 2 孤高の花嫁

再びの姉妹

しおりを挟む
Side-アーチ 19

「父上、じつは私は…」
  そろそろ帰り支度するかと荷物をまとめようとしたところで、オレはある扉の前でそんな話し声を聞いちまった。この声はフランシスか? 改まってなんだ、どうした?

「じつは、私は冒険者は冒険者でも…観光大使をしておりました!」
 その一言で、オレは悟った。なんだ、観光大使やってることをとうとうカミングアウトしちまったのか。それに対して領主の答えは落ち着いたもんだった。
「…知っておる」
「は!? い、いえその…観光大使ですよ?正規の冒険者ではなくて、半分役者の観光大使ですよ?」
「だから、知っておる。三月ほど前にメイドのダイアナがエルダードに観光に行ってきたときに、報告として聞いた。舞台の上で生き生きと物語の勇者を演じておったと」
 あー…まあ、そうだわな。格好からしてこんな派手だしな。
「まあ、良いではないか。正規の冒険者とは違う大変さもあろう? それに、ダイアナから報告された時には誇らしかったぞ。ただ…半端な覚悟で行っておる訳ではあるまいな? やるからには、とことん極めるが良い!」
「ち、父上…!」
 なんでえ、オヤジさん全部知ってたんじゃねぇの。ってことは、フランシスが自分からカミングアウトするのを待ってやがったな? 喰えねぇオヤジだ。ま、オレにゃ関係ねぇけどな。


 その場を離れ、部屋に帰ろうとしたところで目の前を血相変えた厨房エルフがすっ飛んで行った。
「おい? 何だよ、何があった?」
 珍しいこともあるもんだ、こいつがこんな慌てるとは?
「すぐ隠れろ、アーチ! 例の姉妹が押しかけてきた!」
「なに!?」
 「しかも、ドレスに婚約指輪持参だ!」
 オレは血の気がどっと引くのをはっきりと感じた。何つー恐ろしいことを! ンなもん、捕まったら一巻の終わりじゃねーか!

「何処におられますの、愛しいお方?」
「貴方のかわいい小鳥が、迎えにきましてよ?」
 とうとう、声が届く距離まで来やがった! どうすんだよおい!
「仕方ない…『光精よ、我らが姿包み隠せ』!」
 おお♪ 姿を消す精霊魔法か! ナイスだ! 叫びかけてオレは奴に睨まれた。そういやこれ、声を出したら姿が見えるようになるんだっけ? アブね!

 姿を消したオレらの前を、白いドレス姿の姉妹とうんざり顔の従者がが通り過ぎる。
 おいおいおい、姿現したらソッコーで教会に連行されちまうやつだコレ! 
「お嬢様…もうお戻りになりませんか?」
 疲れ切った従者の声。それに対するは姉のイーディス。
「お黙り! 運命のお方をやっと見つけたのですよ? さっさと探すのです!」
 その時、姉妹たちの前に洗濯カゴを抱えたメイドが通り過ぎた。
「ちょっと聞くけど、この前の結婚式でアタクシをエスコートしていたあのお方たちはどこに?」
「ああ、あのお方でしたら…」
 ヤベェ! 頼む、答えねぇでくれ!
 だがメイドさんの声はそこから出なかった。パクパクと口は動いているが、喋る声は出てこねぇ。何だ、奇跡か?
 すぐ横で、ラスファが冷や汗を流してやがった。あ、こいつまた精霊魔法で声を封じたんか…。どんだけ本気だ、こいつ! だが本気ではオレも負けちゃいねぇぜ。
「ねえ、何よ? 答えなさいよ!」
「?? ?…?」
 見栄っ張り姉妹にゃ彼女が声を詰まらせたとしか見えてねぇらしい。セーフ!
 
 だが、こんなん一時しのぎにしかならねぇわな。…やべ、オレも冷や汗が出て来やがった。
 その時、近くをリネットが通りかかった! ラッキー!

「おい、おい! リネット! ちょっと来てくれ!」
 彼女は訝しげにしながらも扉の影から読んだ俺たちのそばにきてくれた。
「…何、どうしたの?」

…………。


「大変悲しいお話でございますが、聞いていただけますか?」
 目頭をハンカチで抑えながら、進み出てきた一人のメイド。彼女に姉妹は詰め寄った。
「何かあったの?」
「ええ。あのお方たち…アーチ様とラスファ様でございますが…あの時の災害で招待客の皆様を避難誘導されていたのですが…」
 リネットはそう言いながら声を詰まらせてわっと泣き伏す。見栄っ張り姉妹は、目と口を最大限に丸くして続きを聞く。
「あの後で起きた災害で招待客を誘導した後で、裏庭に住まう古木の精霊に連れ去られておしまいに…」
「な、なんですって!?」
「私たちの運命のお方が、精霊ごときに!?」
「ええ…」


 流石に元は盗賊なだけある。想像以上の演技力で、見栄っ張り姉妹を黙らせちまった。
「ああ…あのお方たちは、いつまでも私たちの心の中に…」
「美しい思い出として覚えておいて差し上げましょう…!」
「さあさ、お嬢様がた。次のお見合いの日取りでございますが…」

 つむじ風が去った後のように、見栄っ張り姉妹は返って行った。
「リネット…助かった、恩にきるわ…」
 安堵にへたり込むオレたちに、彼女はにっこりと笑う。
 いいけど、エルダードに行ったらしばらくおごりなさいよ? あたし、お金ないんだから! アドルフ卿って、結構ケチだったのよねー。せめて一月はお願いね?
「「…え…?」」
 
 …ちくしょう! オレとしたことが、頼るべき相手を間違えちまったか!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

『王都の神童』と呼ばれた俺、職業選定でまさかの【遊び人】三連発で追放される。……が、実は「全職業のスキル」を合算して重ねがけできる唯一のバグ

よっしぃ
ファンタジー
王都で「神童」の名をほしいままにしていた少年、ディラン・アークライト(17歳)。   剣を握れば騎士団長を唸らせ、魔法を学べば賢者を凌駕する。誰もが彼を「次代の勇者」と信じて疑わなかった。  しかし、運命の職業選定で彼が得たのは――【遊び人】。   それも、三つの職業スロットすべてが【遊び人】で埋まるという、前代未聞の怪現象だった。 「期待外れだ」 「国の恥晒しめ」   掌を返した周囲によって、ディランは着の身着のままで街を追放される。  だが、かつて神童と呼ばれた彼の「分析力」は死んでいなかった。 『……Lv1なのに、ステータスが異常に高い? それに経験値が分散せず、すべて加算されている……?』  彼だけが気づいた真実。  それは【遊び人】という名に偽装された、この世界の管理者権限(Free-Hander)であり、全職業のスキルを制限なく使用・強化できるバグ技(デバッグモード)への入り口だったのだ。  これは、理不尽に捨てられた元・神童が、その頭脳とバグ能力で世界を「攻略」し、同じく不遇な扱いを受けていた美少女騎士(中身は脳筋)と共に、誰よりも自由に成り上がる物語。 【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...