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第六夜
死の奔流
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昼
最初の夜を模して執事さんに殺された。そして俺は、気づけば再び自室に立っている。
扉には、動かせるだけのあらゆる家具を使ってバリケードを築いてあった。
やはり、これは二度目の夜の…!
隠し扉から現れた執事さんと対峙して、やはり抗うことは叶わぬまま臓腑を握りつぶされるような苦痛とともに身を折り血を吐きながら倒れる。それまでの死の中で、最も苦痛に満ちた死に方だった。
「…ぐっ…あ…!」
せめてもの抵抗で椅子を引き寄せるが、振り下ろすことすらできなかった。抵抗も虚しく幾度も苦痛に襲われ血を吐いた挙句、再び短剣に貫かれ、悪魔の笑い声を聞きながら意識が途切れた。
次は気づけば、闇の中シュゼット嬢が目の前に立っていた。辺りは嵐の風雨の中、亡霊の姿となったシュゼット嬢に脇腹を切り裂かれて…!
そのまま嵐の中庭を壁伝いに逃げる。階段から落ち、その下の霊廟に逃げ込んで…。
そうだ、オリバーの棺を見つけて一時的に気が遠くなって…。
次に目を開けたら、短剣を携えた執事さんが来ていた。三度目に訪れたのは、最も緩慢な死。少しずつ…だが確実に失血が進み、最後はやはり執事さんの手にかかって息絶えた。
次は四番目の死。
図書室にて…シュゼット嬢からオルゴールをかばって、深く背を斬り裂かれた。
噎せ返る程の血臭の中、オルゴールの音色を彼女に聞かせて力尽き目を閉じ…。
オルゴールの音色で正気に返った彼女に抱き上げられて、泣き叫ぶ声をかすかに残った意識の中で聞きながら、執事さんに『楽にされた』死に方。
…最も多くの血を流し、そして最も後悔に満ちた死だった。
五番目は、同じく図書室。秘密の部屋で罠の矢に撃たれ、徐々に回る毒により死に至った。毒に侵されながらも秘密の部屋を抜け出し、やっとの事でオリバーの幻のそばにたどり着き…そしてそのまま倒れ伏した。
…もっとも、静かな死に方だった。
暗闇の中、執事さんの姿をした悪魔が俺を覗き込む。
『如何かな? 君の記憶の中にある、全ての死を再現してみたよ! さあさあ、お次は他の死に方も体験してみようか? 大丈夫、いくら死んでも時間を戻せば元どおり。安心して? 君の魂や精神が擦り切れることも、ちゃんと防いであげるね? さあ、次はどんなのがいいかな?』
楽しげに笑う声。 そして視界は暗転する。
「くくく、助けを待っても無駄だ。今頃、お前の夫は…。だが安心しろ、同じところにお前も送ってやる。ワシに逆らったことをたっぷり後悔しながらな? これで、お前の財産もワシのものだ…!」
「ワタシも、そのおこぼれに預かれるのでしょうな?」
「ああ、そうだな。手伝ってくれればそれなりに保証しよう…」
「ええ、喜んで…!」
陰惨な会話に目をあげると、そこには二人の男が俺を追い詰めていた。こいつらは…黒の領主と、奴が抱き込んだ司祭! いやらしい笑みでろくに動けない俺に手を伸ばすと、それぞれ腕を掴んで後ろに押し倒した。その先には、石造りの水場がある。
そのまま俺は、水場に二人がかりで沈められた。
背中側から沈められ、ろくに抵抗もできない! 必死でもがく激しい水音の中で大量の水を飲み、空気を求める肺がキリキリとした痛みを訴える。視界に映る泡が、徐々にその数を減じていき…そして、手足から力が抜ける。これは…この死に方は…シュゼット嬢の…? なんて酷い…。
次に気づけば、そこは見知らぬ場所だった。暗い雨の夜、数人の男たちに囲まれている。
…これは…一体、誰の死の記憶なんだ?
「悪いがここで死んでもらう」
黒づくめの男たちに囲まれて、俺は壁際に追い詰められた。
「領主の…手の者か?!」
男たちは答えない。それぞれ手にした獲物を振りかぶる男たち。一撃目は避けた。二撃目は掠った。そして、三人目。短い刃先をきらめかせ、真っ直ぐに腹に突き込まれる様は、やけにゆっくりと思えた。
「…がっ…!」
続いて背中から熱い衝撃に貫かれる。
男たちは互いに頷き合うと、闇の中に消えていった。吐き気を催すほどの激痛に膝をつくと、俺は血まみれの手で身につけていたものを外してオルゴールに仕込んだ。音が鳴る間しか開かない、特殊な機構のオルゴール。いつかの時と同様に、俺はその音色の中で倒れて動けなくなる。
そういえば、あのオルゴール…。
まだ、開けたことはなかった…。
そして、また気が遠くなってゆく…。
最初の夜を模して執事さんに殺された。そして俺は、気づけば再び自室に立っている。
扉には、動かせるだけのあらゆる家具を使ってバリケードを築いてあった。
やはり、これは二度目の夜の…!
隠し扉から現れた執事さんと対峙して、やはり抗うことは叶わぬまま臓腑を握りつぶされるような苦痛とともに身を折り血を吐きながら倒れる。それまでの死の中で、最も苦痛に満ちた死に方だった。
「…ぐっ…あ…!」
せめてもの抵抗で椅子を引き寄せるが、振り下ろすことすらできなかった。抵抗も虚しく幾度も苦痛に襲われ血を吐いた挙句、再び短剣に貫かれ、悪魔の笑い声を聞きながら意識が途切れた。
次は気づけば、闇の中シュゼット嬢が目の前に立っていた。辺りは嵐の風雨の中、亡霊の姿となったシュゼット嬢に脇腹を切り裂かれて…!
そのまま嵐の中庭を壁伝いに逃げる。階段から落ち、その下の霊廟に逃げ込んで…。
そうだ、オリバーの棺を見つけて一時的に気が遠くなって…。
次に目を開けたら、短剣を携えた執事さんが来ていた。三度目に訪れたのは、最も緩慢な死。少しずつ…だが確実に失血が進み、最後はやはり執事さんの手にかかって息絶えた。
次は四番目の死。
図書室にて…シュゼット嬢からオルゴールをかばって、深く背を斬り裂かれた。
噎せ返る程の血臭の中、オルゴールの音色を彼女に聞かせて力尽き目を閉じ…。
オルゴールの音色で正気に返った彼女に抱き上げられて、泣き叫ぶ声をかすかに残った意識の中で聞きながら、執事さんに『楽にされた』死に方。
…最も多くの血を流し、そして最も後悔に満ちた死だった。
五番目は、同じく図書室。秘密の部屋で罠の矢に撃たれ、徐々に回る毒により死に至った。毒に侵されながらも秘密の部屋を抜け出し、やっとの事でオリバーの幻のそばにたどり着き…そしてそのまま倒れ伏した。
…もっとも、静かな死に方だった。
暗闇の中、執事さんの姿をした悪魔が俺を覗き込む。
『如何かな? 君の記憶の中にある、全ての死を再現してみたよ! さあさあ、お次は他の死に方も体験してみようか? 大丈夫、いくら死んでも時間を戻せば元どおり。安心して? 君の魂や精神が擦り切れることも、ちゃんと防いであげるね? さあ、次はどんなのがいいかな?』
楽しげに笑う声。 そして視界は暗転する。
「くくく、助けを待っても無駄だ。今頃、お前の夫は…。だが安心しろ、同じところにお前も送ってやる。ワシに逆らったことをたっぷり後悔しながらな? これで、お前の財産もワシのものだ…!」
「ワタシも、そのおこぼれに預かれるのでしょうな?」
「ああ、そうだな。手伝ってくれればそれなりに保証しよう…」
「ええ、喜んで…!」
陰惨な会話に目をあげると、そこには二人の男が俺を追い詰めていた。こいつらは…黒の領主と、奴が抱き込んだ司祭! いやらしい笑みでろくに動けない俺に手を伸ばすと、それぞれ腕を掴んで後ろに押し倒した。その先には、石造りの水場がある。
そのまま俺は、水場に二人がかりで沈められた。
背中側から沈められ、ろくに抵抗もできない! 必死でもがく激しい水音の中で大量の水を飲み、空気を求める肺がキリキリとした痛みを訴える。視界に映る泡が、徐々にその数を減じていき…そして、手足から力が抜ける。これは…この死に方は…シュゼット嬢の…? なんて酷い…。
次に気づけば、そこは見知らぬ場所だった。暗い雨の夜、数人の男たちに囲まれている。
…これは…一体、誰の死の記憶なんだ?
「悪いがここで死んでもらう」
黒づくめの男たちに囲まれて、俺は壁際に追い詰められた。
「領主の…手の者か?!」
男たちは答えない。それぞれ手にした獲物を振りかぶる男たち。一撃目は避けた。二撃目は掠った。そして、三人目。短い刃先をきらめかせ、真っ直ぐに腹に突き込まれる様は、やけにゆっくりと思えた。
「…がっ…!」
続いて背中から熱い衝撃に貫かれる。
男たちは互いに頷き合うと、闇の中に消えていった。吐き気を催すほどの激痛に膝をつくと、俺は血まみれの手で身につけていたものを外してオルゴールに仕込んだ。音が鳴る間しか開かない、特殊な機構のオルゴール。いつかの時と同様に、俺はその音色の中で倒れて動けなくなる。
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