41 / 47
第六夜
鮮血と苦痛と
しおりを挟む
宵
…気がつけば、俺は再び自室に一人立っていた。
十二時の鐘が鳴り、死神の足音が近づく。
闇に響くノックに、俺の背筋は総毛立った。
また、俺は殺されるのか!
それは、はっきりとした予測であった。扉を開けば、助かる術などない。分かっていても、身体は抗えず扉に手を伸ばす。
やめろ…やめろやめろやめろやめろやめろ!
さっきと全く同じ状況だというのに、どういうことだろうか?
なんだろう、このとてつもない恐怖感は…!
逃げたくてたまらない。なのに、足は縫いとめられたかのように動かない。
開いた扉の向こうには、見慣れた陰気な顔の執事さんが俯いている。そして…。
_____ドッ!
___もう、幾度目になるのだろうか?
胸に突き立てられた、冷たい刃。血を吐きながら崩れ落ち、弾みで抜けた短剣が乾いた音を立てる。
同時にとめどなく広がる赤。目の前が暗くなり、さらには抱き起こされながら心臓を貫かれる。どこか遠くからの、耳障りな笑い声を聞きながら。
___暗転。
次は、塞いだ扉の向こうから響くノック。会話の合間に襲われる、臓腑を絞り尽くされるかのような苦痛と吐血。
___ああ、知っている…。この後、俺は…。
募り来る恐怖とともに、近づく死神に抵抗するも叶わず…。
…最期は再び『慈悲の短剣』によっての幕引き。まだ聞こえる笑い声が、最後の記憶。
___暗転。
その次は、雨の中でシュゼット嬢に斬りかかられた。見えない刃が脇腹をえぐる。
中庭で霊廟にたどり着き逃げ込んで、そのまま点々と血を流しながら進む。無数に並ぶ棺の中、見知った名前を見つけて気が遠くなり…。
意識を取り戻せば、目の前に短剣を携えて執事さんが立っていた。
___ああ…ここまでか…。
この時点で、ピクリとも動くことはできなくなっていた。点々とこぼした挙句に、わずかな傾斜に沿ってできた赤い川がそれを証明している。
壁沿いにかけられた松明の光を反射する、冷たい短剣。押し殺したような幼い笑い声の中、短剣によるとどめで鼓動が途切れた。
___暗転。
今度は、暗闇の図書室だった。シュゼット嬢が狂気そのものの笑みを浮かべ、目の前に立っている。
オルゴールを庇って背を深く抉られ、体内から響くごきりという厭な音。
最後の力を振り絞ってネジを回し、自らの血の海に沈んで力尽き…。
___そうだ、この後…。やめろ、やめてくれ…!
虫の息の俺を抱きかかえ、正気に戻って嘆き悲しむシュゼット嬢。短剣を突き立てる執事さんを泣きながら止めて、悲鳴と心臓を貫く衝撃の交錯する中で息絶える…。
次々と訪れる死を経て、さっきとは違い俺の精神は確実にすり減っていた。苦痛はさらに生々しく、殺された時の記憶や思いに至るまでを鮮明に再現されている。夢の中で殺されるか、現実に惨殺されるかくらいの差をつけられたようなものだ。
こうなると今までの死は、一枚の薄紙を通して見せられた映画のように思える。そこからが、悪魔の目論む通りだったという事か。
『やっぱりさ、死に方は派手な方が見てて楽しいよね? どうせならたぁくさん血を流してさ、綺麗な赤色を見たいな。毒矢ってのは邪道だよね…』
それまでの自分の死に方を再現された後はおそらくオリバーの記憶らしい、毒矢に撃たれて倒れるという死に方を体験した。
さらに襲い来る、死の連鎖…。
死にたくない、死にたくない、死にたくない!
来るな、来るな、来るな、来るな、来るな!
俺の精神は磨耗し、もはや崩壊しかけていた。
度重なる死の連鎖。激痛に次ぐ激痛、とめどなく流れる鮮血。そして、苦しみに続く抗えぬ死。何度体験してもゾッとする、死の瞬間の意識の断絶。
もう…もう、たくさんだ…。
幼さを感じる笑い声が響き渡る。
『ね? こうすればオモチャも長持ちしてたんだけどね。キミはしぶとそうだし、何度目まで耐えられるかな? 前のやつは確か、六回くらい死んだら壊れたんだよね…次は、どれにしようかな…?』
その言葉で直感する。
オリバーの、ことか…?
そう思う間も無く、シュゼット嬢の見えない刃が次々と俺を切り裂き貫いた。奴の望む鮮血が大量に飛び散り流れる。すぐさま執事さんが現れて喉笛を引き裂き…。
弄ばれているのは、シュゼット嬢も同じだ。
…彼女も俺も、執事さんだって、悪事を働いた訳ではないのに。
イタイクルシイサムイツライタスケテタスケテイタイクルシイコワイコワイコワイコワイ…。
数限りなく繰り返される、ヤツ好みの惨殺の記憶。意識と苦痛、感情と恐怖が遠い笑い声と混じって脳裏を回り続ける。辛うじて冷静な部分が自覚し始めた。ああ…これはもう末期だ…。
次に目を開けると、見慣れない場所で数人の男たちに囲まれた場面に出くわした。
ああ、おそらくこれはさっき体験した…。
シュゼット嬢の旦那さんの最期の場面…。
…気がつけば、俺は再び自室に一人立っていた。
十二時の鐘が鳴り、死神の足音が近づく。
闇に響くノックに、俺の背筋は総毛立った。
また、俺は殺されるのか!
それは、はっきりとした予測であった。扉を開けば、助かる術などない。分かっていても、身体は抗えず扉に手を伸ばす。
やめろ…やめろやめろやめろやめろやめろ!
さっきと全く同じ状況だというのに、どういうことだろうか?
なんだろう、このとてつもない恐怖感は…!
逃げたくてたまらない。なのに、足は縫いとめられたかのように動かない。
開いた扉の向こうには、見慣れた陰気な顔の執事さんが俯いている。そして…。
_____ドッ!
___もう、幾度目になるのだろうか?
胸に突き立てられた、冷たい刃。血を吐きながら崩れ落ち、弾みで抜けた短剣が乾いた音を立てる。
同時にとめどなく広がる赤。目の前が暗くなり、さらには抱き起こされながら心臓を貫かれる。どこか遠くからの、耳障りな笑い声を聞きながら。
___暗転。
次は、塞いだ扉の向こうから響くノック。会話の合間に襲われる、臓腑を絞り尽くされるかのような苦痛と吐血。
___ああ、知っている…。この後、俺は…。
募り来る恐怖とともに、近づく死神に抵抗するも叶わず…。
…最期は再び『慈悲の短剣』によっての幕引き。まだ聞こえる笑い声が、最後の記憶。
___暗転。
その次は、雨の中でシュゼット嬢に斬りかかられた。見えない刃が脇腹をえぐる。
中庭で霊廟にたどり着き逃げ込んで、そのまま点々と血を流しながら進む。無数に並ぶ棺の中、見知った名前を見つけて気が遠くなり…。
意識を取り戻せば、目の前に短剣を携えて執事さんが立っていた。
___ああ…ここまでか…。
この時点で、ピクリとも動くことはできなくなっていた。点々とこぼした挙句に、わずかな傾斜に沿ってできた赤い川がそれを証明している。
壁沿いにかけられた松明の光を反射する、冷たい短剣。押し殺したような幼い笑い声の中、短剣によるとどめで鼓動が途切れた。
___暗転。
今度は、暗闇の図書室だった。シュゼット嬢が狂気そのものの笑みを浮かべ、目の前に立っている。
オルゴールを庇って背を深く抉られ、体内から響くごきりという厭な音。
最後の力を振り絞ってネジを回し、自らの血の海に沈んで力尽き…。
___そうだ、この後…。やめろ、やめてくれ…!
虫の息の俺を抱きかかえ、正気に戻って嘆き悲しむシュゼット嬢。短剣を突き立てる執事さんを泣きながら止めて、悲鳴と心臓を貫く衝撃の交錯する中で息絶える…。
次々と訪れる死を経て、さっきとは違い俺の精神は確実にすり減っていた。苦痛はさらに生々しく、殺された時の記憶や思いに至るまでを鮮明に再現されている。夢の中で殺されるか、現実に惨殺されるかくらいの差をつけられたようなものだ。
こうなると今までの死は、一枚の薄紙を通して見せられた映画のように思える。そこからが、悪魔の目論む通りだったという事か。
『やっぱりさ、死に方は派手な方が見てて楽しいよね? どうせならたぁくさん血を流してさ、綺麗な赤色を見たいな。毒矢ってのは邪道だよね…』
それまでの自分の死に方を再現された後はおそらくオリバーの記憶らしい、毒矢に撃たれて倒れるという死に方を体験した。
さらに襲い来る、死の連鎖…。
死にたくない、死にたくない、死にたくない!
来るな、来るな、来るな、来るな、来るな!
俺の精神は磨耗し、もはや崩壊しかけていた。
度重なる死の連鎖。激痛に次ぐ激痛、とめどなく流れる鮮血。そして、苦しみに続く抗えぬ死。何度体験してもゾッとする、死の瞬間の意識の断絶。
もう…もう、たくさんだ…。
幼さを感じる笑い声が響き渡る。
『ね? こうすればオモチャも長持ちしてたんだけどね。キミはしぶとそうだし、何度目まで耐えられるかな? 前のやつは確か、六回くらい死んだら壊れたんだよね…次は、どれにしようかな…?』
その言葉で直感する。
オリバーの、ことか…?
そう思う間も無く、シュゼット嬢の見えない刃が次々と俺を切り裂き貫いた。奴の望む鮮血が大量に飛び散り流れる。すぐさま執事さんが現れて喉笛を引き裂き…。
弄ばれているのは、シュゼット嬢も同じだ。
…彼女も俺も、執事さんだって、悪事を働いた訳ではないのに。
イタイクルシイサムイツライタスケテタスケテイタイクルシイコワイコワイコワイコワイ…。
数限りなく繰り返される、ヤツ好みの惨殺の記憶。意識と苦痛、感情と恐怖が遠い笑い声と混じって脳裏を回り続ける。辛うじて冷静な部分が自覚し始めた。ああ…これはもう末期だ…。
次に目を開けると、見慣れない場所で数人の男たちに囲まれた場面に出くわした。
ああ、おそらくこれはさっき体験した…。
シュゼット嬢の旦那さんの最期の場面…。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/7:『かわぞいのみち』の章を追加。2026/1/14の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
【完結】百怪
アンミン
ホラー
【PV数100万突破】
第9回ネット小説大賞、一次選考通過、
第11回ネット小説大賞、一次選考通過、
マンガBANG×エイベックス・ピクチャーズ
第一回WEB小説大賞一次選考通過作品です。
百物語系のお話。
怖くない話の短編がメインです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる