10 / 11
シェロリ高原編
第9話 脱出
しおりを挟む
「…っ…は…っ…あ…で、できました! できました! 魔力の圧縮できましたよぉ!!!!」
「凄いね…! 本当に二ヶ月間でそのレベルまで会得するなんて…天賦の才があるね」
修行開始から六十日目にしてリアが魔力圧縮を会得した。
バリア解体が終わる日までに頑張って間に合わせたのだ。
根性でどうこうなる難しさではないはずなのだが。
ロスタノがリアに手を伸ばすと不可視の壁にぶつかる。
人差し指と中指の第二関節で軽く叩くと籠った音がする。
程よい密度である。
「よし…これなら外に出ても不安はあまり無いね。もうバリアは壊せるけど早速壊して良い? 一日くらい待とうか?」
リアは直ぐには返事をせず、壁に背を向ける。
眼前には大地一面に広がる薄紅色のスケートリンク。
氷の花は花弁が散るようにぽろぽろと崩れ始めている。
嗅ぎなれたひんやりとした冷気を肺いっぱいに溜め込む。
フォルタン地区。
最初は、絶望の果てに到達した死を確定する最悪の終着点、という印象であったが、今こうして振り返ってみるとリアにとって最大のターニングポイントだった。
名残惜しさすら感じながら、リアはロスタノの方へ向き直る。
「いえ、行きましょう」
「そうかい」
ロスタノの繊手がバリアに触れる。
「『門番の馘首 』」
小さく呟くとフォルタン地区全域を覆う半球のバリアが徐々に、霞の如く消失していく。
魔力を認識できるようになったリアの瞳にはバリアは、水にインクを垂らすように魔力が拡散していく様が映っていた。
魔力が大地に沈殿し始めた頃にはバリアは無く、壁が辺りを囲うのみだった。
「『大地との離別』」
ロスタノとリアの身体が重みを失う。
彼女らの足裏が地から離れる。
リアは少々驚きながら足元を見る。
食べ尽くしたドラゴンの骨と鱗が山積みになっている。
次第にその山が小さくなっていく。
彼女らの身体は壁面を越える。
そのとき、二人の瞳は新鮮な緑を浴びて視界がチカチカ光る。
しばらく白と黒、おまけに薄紅しか彩りを見ていなかった彼女らにはその草原は新鮮に感じられた。
ロスタノ達が薄茶色の草の生えた地面に降り立つ。
遠くの景色は新緑に輝いていたが、不毛のフォルタン地区のすぐそこはまだ土地に栄養がないようだ。
「これからどこ行くんです? ロスタノさん… ってあれ」
横にいたはずのロスタノがいない。
と思いきや、壁に設置された機械を興味深そうに見ていた。
「なるほどね…機械音声で詠唱してバリアを維持していたのか……でも六百年前はできなかったのに…訛りや細かなイントネーションの再現が難しかったはずなのだけどね…」
興味津々といった様子でブツブツと喋っている。
壁面に設置されている鈍色の小型機械はバリアの維持を担っていたものである。
形状が半球であり、色も相まって甲冑の兜を髣髴とさせた。
そんな機械が壁面に三列ほど並んでいる。
壁面は遠くまで同じ顔をして続いており、はるか遠くで緩やかにカーブして視界から隠れていった。
そこでリアは疑問に思った。
「フォルタン地区って警備とか門扉とかないんですかね?」
「んんー?」
辺りの魔力が蠢く。
魔力探知の動きである。
「七キロくらい先の方に門があるみたいだよ。守衛もいるね。少ないけどね」
「わぁ~、魔力探知の範囲本当に広いですね…」
景色がかすみ始める程度の距離までロスタノの魔力探知の「網」が展開されているのが何となく分かる。
リアの魔力探知など、起伏の無い大地に広がる見応えのない枯れ草と無機質な壁が探知できるだけである。
視覚で見るより範囲が狭い。
「……ん…?」
ロスタノの目の焦点が小型機械から外れる。
「あぁ…しまったね…。リア、近くに村落があるからそこへ急ごう」
ロスタノの目つきが険しくなる。
「私のせいで魔物が暴走しそうだね。村が襲撃されるかも」
「…! せ、戦闘になりますかね?」
リアの表情が強ばる。
「いや、間に合えばひとまずは防げるね」
「それなら急ぎましょう!」
ロスタノは若娘の身体で軽快に走り出し、リアが追随した。
「凄いね…! 本当に二ヶ月間でそのレベルまで会得するなんて…天賦の才があるね」
修行開始から六十日目にしてリアが魔力圧縮を会得した。
バリア解体が終わる日までに頑張って間に合わせたのだ。
根性でどうこうなる難しさではないはずなのだが。
ロスタノがリアに手を伸ばすと不可視の壁にぶつかる。
人差し指と中指の第二関節で軽く叩くと籠った音がする。
程よい密度である。
「よし…これなら外に出ても不安はあまり無いね。もうバリアは壊せるけど早速壊して良い? 一日くらい待とうか?」
リアは直ぐには返事をせず、壁に背を向ける。
眼前には大地一面に広がる薄紅色のスケートリンク。
氷の花は花弁が散るようにぽろぽろと崩れ始めている。
嗅ぎなれたひんやりとした冷気を肺いっぱいに溜め込む。
フォルタン地区。
最初は、絶望の果てに到達した死を確定する最悪の終着点、という印象であったが、今こうして振り返ってみるとリアにとって最大のターニングポイントだった。
名残惜しさすら感じながら、リアはロスタノの方へ向き直る。
「いえ、行きましょう」
「そうかい」
ロスタノの繊手がバリアに触れる。
「『門番の馘首 』」
小さく呟くとフォルタン地区全域を覆う半球のバリアが徐々に、霞の如く消失していく。
魔力を認識できるようになったリアの瞳にはバリアは、水にインクを垂らすように魔力が拡散していく様が映っていた。
魔力が大地に沈殿し始めた頃にはバリアは無く、壁が辺りを囲うのみだった。
「『大地との離別』」
ロスタノとリアの身体が重みを失う。
彼女らの足裏が地から離れる。
リアは少々驚きながら足元を見る。
食べ尽くしたドラゴンの骨と鱗が山積みになっている。
次第にその山が小さくなっていく。
彼女らの身体は壁面を越える。
そのとき、二人の瞳は新鮮な緑を浴びて視界がチカチカ光る。
しばらく白と黒、おまけに薄紅しか彩りを見ていなかった彼女らにはその草原は新鮮に感じられた。
ロスタノ達が薄茶色の草の生えた地面に降り立つ。
遠くの景色は新緑に輝いていたが、不毛のフォルタン地区のすぐそこはまだ土地に栄養がないようだ。
「これからどこ行くんです? ロスタノさん… ってあれ」
横にいたはずのロスタノがいない。
と思いきや、壁に設置された機械を興味深そうに見ていた。
「なるほどね…機械音声で詠唱してバリアを維持していたのか……でも六百年前はできなかったのに…訛りや細かなイントネーションの再現が難しかったはずなのだけどね…」
興味津々といった様子でブツブツと喋っている。
壁面に設置されている鈍色の小型機械はバリアの維持を担っていたものである。
形状が半球であり、色も相まって甲冑の兜を髣髴とさせた。
そんな機械が壁面に三列ほど並んでいる。
壁面は遠くまで同じ顔をして続いており、はるか遠くで緩やかにカーブして視界から隠れていった。
そこでリアは疑問に思った。
「フォルタン地区って警備とか門扉とかないんですかね?」
「んんー?」
辺りの魔力が蠢く。
魔力探知の動きである。
「七キロくらい先の方に門があるみたいだよ。守衛もいるね。少ないけどね」
「わぁ~、魔力探知の範囲本当に広いですね…」
景色がかすみ始める程度の距離までロスタノの魔力探知の「網」が展開されているのが何となく分かる。
リアの魔力探知など、起伏の無い大地に広がる見応えのない枯れ草と無機質な壁が探知できるだけである。
視覚で見るより範囲が狭い。
「……ん…?」
ロスタノの目の焦点が小型機械から外れる。
「あぁ…しまったね…。リア、近くに村落があるからそこへ急ごう」
ロスタノの目つきが険しくなる。
「私のせいで魔物が暴走しそうだね。村が襲撃されるかも」
「…! せ、戦闘になりますかね?」
リアの表情が強ばる。
「いや、間に合えばひとまずは防げるね」
「それなら急ぎましょう!」
ロスタノは若娘の身体で軽快に走り出し、リアが追随した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる