カンは姦淫の姦

麻呂館廊

文字の大きさ
1 / 4

第1話 理不尽な義務

しおりを挟む
 月山は母の遺影の前に座していた。

 母の朗らかな笑みが目に浮かぶ。



「姉ちゃん、今日...行くの?」



「うん。今日で決着をつける」



 月山は遺影の縁を右手で一撫ですると、立ち上がり緋袴を軽く払った。

 仏間を出ようとする彼女を支えるように、右腕をそっと掴んだのは彼女の実弟。

 しかし、月山は彼の手を雑に振り払った。



「いらない」



「でも、姉ちゃん目が見えてないから…」



「盲目になって何年過ごしたと思ってるの? ひとりで歩ける」



 月山は三年前、みずから目を閉じた。

 その行為に及んだのは、ひとえに「姦姦蛇螺」を殺すためだ。





 丫—丫—丫◆丫―丫—丫





 20××年、関東地方某所の山奥にあった小さな村落に突如として新種の怪異が出現した。

 多様な呼び方が存在するが、政府が公開している日本警戒怪異リストに基づけば「姦姦蛇螺」が正式な名称である。



 巫女の胴体に大蛇の下半身と、その下半身を目視した人間を無差別に殺害する力を持つため、所詮、数百人に満たない村民は数名を除いて全滅した。

 皆、左右どちらかの腕がとれていたという。


 怪異は街談巷説から生まれ、それを餌として育つ。

「姦姦蛇螺」も例に漏れず、その怪異の発生源はネット掲示板の話であるとみられている。

 とある村落の堕落した神が大蛇の姿で顕現し、村人を殺したため、卓抜した力を持った巫女に討伐を依頼するが、巫女家と村民の謀略によって生贄にされ、結果、バケモノと化したのが「姦姦蛇螺」である。

 そして現実に「姦姦蛇螺」の惨劇が再現された。


「姦姦蛇螺」が実際に発生したことを受けて、怪異譚の二次創作に変化が生まれた。

「姦姦蛇螺」を打破する力を持った巫女が再び生まれて、その怪異を祓ってしまうというオチが加えられたのである。

 自分の村や町にも「姦姦蛇螺」が出現することを恐れて、「姦姦蛇螺」を倒してくれるヒーロー的存在の登場を願ったのだ。



 街談巷説が怪異を生むことはこの世界の常識。別にどこぞの組織・機関に秘匿されている事実ではない。

 しかし、人々は街談巷説が怪異を生むことを理解していながら、無責任にも風説をべらべら喋った。

 そのツケは、関係のない一家が払う羽目になった。

 その一家の名は月山家。

 理由は、件の村落に最も近い家であったからだと推測されている。



 月山 敦子。

 一家の母であった彼女に、「姦姦蛇螺」打破のための力が唐突に与えられた。

 二年後、「姦姦蛇螺」との二度目の戦闘で死亡した。



 一度目の一本を除いて、両腕がもがれ、傷のない臓器は無かった。

 下半身は無く、「姦姦蛇螺」に持ち去られたと思われる。



 次いで、敦子に押し付けられた力は長女に継承された。

 その名を月山 春海。



 今日、「姦姦蛇螺」に引導を渡す怪傑の名である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛

MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。

処理中です...