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第4話 悩殺ぼでー
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「⋯どんな姿?」
「すっ⋯ごいぃ⋯⋯すっごい大っきなスイカが二つぶら下がっててぇ⋯⋯胸部は一糸纏わぬ姿でぇ⋯⋯⋯あ⋯顔は優しそうな垂れ目で可愛くってぇ⋯⋯⋯蠱惑的な笑みぃぃ⋯⋯⋯腹筋の縦筋だけがすすと走っていてぇ⋯⋯でもへそは『貝』といっしょにヴェールで隠されていてぇ⋯⋯⋯⋯不可視の美徳ぅ⋯⋯⋯」
照彦は夢現といったさまで、うわ言のように呟いている。
「⋯⋯⋯⋯ま⋯⋯じか」
春海の脳内で先程の戦闘が映像化される。
血気迫る表情で戦う私の顔の前で、丸出しのスイカを下品に振り回しながらにぃと笑う「姦姦蛇螺」。
あれほど不気味で鬼哭啾々たる雰囲気を纏っていたのに、もう奴の笑みはただの痴女の誘惑的な笑みでしかない。
(私は決死の覚悟で戦ってたのに⋯⋯⋯⋯⋯もう喜劇じゃん⋯⋯⋯⋯)
闘志や覚悟が加速度的に萎びて逝くのを、春海は感じた。
ずりずりずずり
春海が耳にした「姦姦蛇螺」の移動音。
春海はもうぜーんぜん怖くなかった。
「セ◯ズリズリズリ喧しいんだよォォォォ!!!!」
立ち上がって腕を振った。
春海の裏拳は「姦姦蛇螺」の頬にクリーンヒットした。
そして、春海はバレーボールを思い出した。
「え?」
春海の手の甲には、「姦姦蛇螺」の頭部が取れて吹っ飛んでいった感触が染みている。
春海は手関節の動きを確かめるみたいに腕を軽く振った。
春海は「姦姦蛇螺」のあまりの弱さに驚きを隠せない。
先程までなら頭部に渾身の一撃を与えても、せいぜいが頚椎骨折程度で、首の皮が千切れるには至らなかった。
丫—丫—丫◆丫―丫—丫
春海は知る由もないことであるが、「姦姦蛇螺」の急速な弱体化現象は彼女の神力が関係している。
怪異というものは、虫眼鏡で集光して黒紙の上に生む火と同じである。
「光」が人々の感情で、「虫眼鏡」という世の理によって束ねられ、「火」を生み出す。
ところが、春海の神力が単体で「虫眼鏡」の役割を果たし、春海の「姦姦蛇螺」に対する恐怖をふんだんに食した「姦姦蛇螺」が出来上がっていたのだ。
一人の人間の感情が怪異の力量を左右するというイレギュラーが、春海に苦戦を強いていた。
加えて悲しいことに、「姦姦蛇螺」の攻略のために盲目となった春海の選択は、見えない「姦姦蛇螺」の姿を勝手に恐ろしいものだと想像させてしまうだけの悪手だった。
丫—丫—丫◆丫―丫—丫
春海は追撃を加えるため、目の前にあるはずの「姦姦蛇螺」の胴体を殴打した。
そこに肉体は確かに在ったが、反応はない。
微妙に温い肉の塊という感想を抱かせるほどに。
嫌な予感がした。
春海は恐る恐る触って確かめる。
途中で現実的でないサイズの肉の双丘が彼女の掌を柔らかく呑んだ。
「品が無いッッッ!!!」
それを往復ビンタした。
ビンタした後、首を確認したが頭部は未だ繋がっておらず、寝癖みたいにぴょんぴょん飛び出た肉の筋とダコボコとした骨があった。
血は噴いておらず、冷めてきたお茶を入れた湯呑みを触った時の絶妙な温かさがあった。
春海は辺りを探し回って、サッカーボールに生まれ変わった生首を発見したことで確信した。
「姦姦蛇螺」討伐成功⋯⋯⋯⋯⋯!
「なぁん⋯⋯⋯なんか⋯⋯違うよぉ⋯⋯⋯⋯」
「姦姦蛇螺」の討伐に関して理想なんてものは無く、泥臭く、地を舐めても血みどろになっても、相打ちになってでも殺せれば過程はどうだって良いと思っていた。
でも、この結末は⋯⋯⋯⋯違う。
弟の発言を聴いて毒気を抜かれていたときの、半ば反射的な裏拳による殺害ノックアウト。
「いや、過程問わないつもりだったんだから、これでいいはずなんだけどぉ⋯⋯⋯」
拳一発で殺れるとわかっていたなら、母と弟そして春海自身の恨みを掌中に握りしめて、「姦姦蛇螺」に叩き込んでやるカタルシスを得たかった。
釈然としない結末である。
だが、春海の頬は緩んでいた。
そんな贅沢な悩みが生まれるのは、悲願達成を実感したがゆえ。
春海の心中は俄に晴れゆくことは無いが、吸い込んだ空気は程よく冷たくてさっぱりしていた。
「姉ちゃん⋯⋯⋯⋯」
「なに?⋯⋯⋯」
「俺、官能小説家になるよ⋯⋯⋯。あのエロを⋯文字に起こす⋯⋯⋯⋯使命だ⋯⋯⋯」
「あ⋯⋯⋯そう。ってか、絵じゃなくていいの? 昔から絵上手かったじゃん」
「それじゃ姉ちゃん見えないからさ、文字にして俺が読み上げてあげるよ」
「か⋯⋯官能小説⋯を⋯⋯? 弟の口から⋯⋯? え⋯⋯遠慮しとこうかな⋯⋯。ま、でも⋯⋯ありがとう」
「すっ⋯ごいぃ⋯⋯すっごい大っきなスイカが二つぶら下がっててぇ⋯⋯胸部は一糸纏わぬ姿でぇ⋯⋯⋯あ⋯顔は優しそうな垂れ目で可愛くってぇ⋯⋯⋯蠱惑的な笑みぃぃ⋯⋯⋯腹筋の縦筋だけがすすと走っていてぇ⋯⋯でもへそは『貝』といっしょにヴェールで隠されていてぇ⋯⋯⋯⋯不可視の美徳ぅ⋯⋯⋯」
照彦は夢現といったさまで、うわ言のように呟いている。
「⋯⋯⋯⋯ま⋯⋯じか」
春海の脳内で先程の戦闘が映像化される。
血気迫る表情で戦う私の顔の前で、丸出しのスイカを下品に振り回しながらにぃと笑う「姦姦蛇螺」。
あれほど不気味で鬼哭啾々たる雰囲気を纏っていたのに、もう奴の笑みはただの痴女の誘惑的な笑みでしかない。
(私は決死の覚悟で戦ってたのに⋯⋯⋯⋯⋯もう喜劇じゃん⋯⋯⋯⋯)
闘志や覚悟が加速度的に萎びて逝くのを、春海は感じた。
ずりずりずずり
春海が耳にした「姦姦蛇螺」の移動音。
春海はもうぜーんぜん怖くなかった。
「セ◯ズリズリズリ喧しいんだよォォォォ!!!!」
立ち上がって腕を振った。
春海の裏拳は「姦姦蛇螺」の頬にクリーンヒットした。
そして、春海はバレーボールを思い出した。
「え?」
春海の手の甲には、「姦姦蛇螺」の頭部が取れて吹っ飛んでいった感触が染みている。
春海は手関節の動きを確かめるみたいに腕を軽く振った。
春海は「姦姦蛇螺」のあまりの弱さに驚きを隠せない。
先程までなら頭部に渾身の一撃を与えても、せいぜいが頚椎骨折程度で、首の皮が千切れるには至らなかった。
丫—丫—丫◆丫―丫—丫
春海は知る由もないことであるが、「姦姦蛇螺」の急速な弱体化現象は彼女の神力が関係している。
怪異というものは、虫眼鏡で集光して黒紙の上に生む火と同じである。
「光」が人々の感情で、「虫眼鏡」という世の理によって束ねられ、「火」を生み出す。
ところが、春海の神力が単体で「虫眼鏡」の役割を果たし、春海の「姦姦蛇螺」に対する恐怖をふんだんに食した「姦姦蛇螺」が出来上がっていたのだ。
一人の人間の感情が怪異の力量を左右するというイレギュラーが、春海に苦戦を強いていた。
加えて悲しいことに、「姦姦蛇螺」の攻略のために盲目となった春海の選択は、見えない「姦姦蛇螺」の姿を勝手に恐ろしいものだと想像させてしまうだけの悪手だった。
丫—丫—丫◆丫―丫—丫
春海は追撃を加えるため、目の前にあるはずの「姦姦蛇螺」の胴体を殴打した。
そこに肉体は確かに在ったが、反応はない。
微妙に温い肉の塊という感想を抱かせるほどに。
嫌な予感がした。
春海は恐る恐る触って確かめる。
途中で現実的でないサイズの肉の双丘が彼女の掌を柔らかく呑んだ。
「品が無いッッッ!!!」
それを往復ビンタした。
ビンタした後、首を確認したが頭部は未だ繋がっておらず、寝癖みたいにぴょんぴょん飛び出た肉の筋とダコボコとした骨があった。
血は噴いておらず、冷めてきたお茶を入れた湯呑みを触った時の絶妙な温かさがあった。
春海は辺りを探し回って、サッカーボールに生まれ変わった生首を発見したことで確信した。
「姦姦蛇螺」討伐成功⋯⋯⋯⋯⋯!
「なぁん⋯⋯⋯なんか⋯⋯違うよぉ⋯⋯⋯⋯」
「姦姦蛇螺」の討伐に関して理想なんてものは無く、泥臭く、地を舐めても血みどろになっても、相打ちになってでも殺せれば過程はどうだって良いと思っていた。
でも、この結末は⋯⋯⋯⋯違う。
弟の発言を聴いて毒気を抜かれていたときの、半ば反射的な裏拳による殺害ノックアウト。
「いや、過程問わないつもりだったんだから、これでいいはずなんだけどぉ⋯⋯⋯」
拳一発で殺れるとわかっていたなら、母と弟そして春海自身の恨みを掌中に握りしめて、「姦姦蛇螺」に叩き込んでやるカタルシスを得たかった。
釈然としない結末である。
だが、春海の頬は緩んでいた。
そんな贅沢な悩みが生まれるのは、悲願達成を実感したがゆえ。
春海の心中は俄に晴れゆくことは無いが、吸い込んだ空気は程よく冷たくてさっぱりしていた。
「姉ちゃん⋯⋯⋯⋯」
「なに?⋯⋯⋯」
「俺、官能小説家になるよ⋯⋯⋯。あのエロを⋯文字に起こす⋯⋯⋯⋯使命だ⋯⋯⋯」
「あ⋯⋯⋯そう。ってか、絵じゃなくていいの? 昔から絵上手かったじゃん」
「それじゃ姉ちゃん見えないからさ、文字にして俺が読み上げてあげるよ」
「か⋯⋯官能小説⋯を⋯⋯? 弟の口から⋯⋯? え⋯⋯遠慮しとこうかな⋯⋯。ま、でも⋯⋯ありがとう」
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