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第一章 黄色い目をした少女
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その日の依頼は一件だけであった。
いつもの様にして、大槻ヒカルは、高校生の時に中古で買った原付バイクにまたがる。
ひかり時計工房。
駅前から少しだけ奥へと進んだ閑静な場所。およそ、六畳も無いひっそりとしたその工房で、ヒカルは時計職人として働いていたのだ。
高校生の時だ。時計の魔力に魅入られて以来、ずっと憧れていた職につけたのだ。家族の反対を押し切り、大学ではなく専門学校に通った。たった一年間だけ時計修理センターで働いたこともあった。
その後、若干二〇歳にして独立し、今では自分一人だけの工房をこの町に構えたのであった。目指すは、日差一秒以内の自動巻き時計を造ること。それがいかに難しいことなのか。いかに夢物語であるのか。何度も笑われた。人より少しだけ手先が器用なだけではだめだ、と何度も言われてきた。生来の頑固者だからだろうか。まだ二〇という若さの罪なのか。ヒカルは決して自分の夢をあきらめはしない。
遙か彼方にある夢が、まるで、ちょっとだけ手を伸ばせば届いてしまいそうだと思っているのだ。
夢は立派でも、現実は蟻よりも小さかった。
時計の方の仕事は、週に一度電池交換かオーバーホールがあるくらい。もちろんそれだけではご飯は食べられない。だから、もう一つの仕事を始めたのだ。
「配送受付」
下町の雰囲気が残るこの町には、幸か不幸か老人ばかりであった。
はじめは駅前のスーパーに売り込みにいった。「遠くの方への配送ならできますよ」と。
御駄賃は相談。あくまで本業は時計職人だ。煙草ひと箱分の時もあれば、お菓子やお惣菜、お野菜やお米を頂くこともあった。だから食いぶちには困らない。ヒカルの世界は器用に回っていた。
はじめはスーパーからの配送だったけれども、ヒカルのことがちょっと噂になりはじめ、買い物とは関係のない便利屋の仕事も増えてきた。最近は蛍光灯を変えたり、肩や腰をもんだり、そういったことも受けていた。ヒカルは手先が器用だから、老人たちのかゆいところにすんなり手が届いた。
そして今日。とある男性から依頼を受けていた。
「この荷物をある場所へ届けて欲しい」片手で持てるほど小さな段ボール箱であった。
小さい割にはずっしりとした重量感がある。ヒカルは、きっと金属できた何かが入っているのだと考えた。
深くかぶった帽子のせいでその男性の顔は見えなかった。どこかで聞き覚えのある声だと違和感はあったけれど、おじいちゃんおばあちゃんの顔と声は全部同じに思えてしまう。
その男性の指定した場所は、ひかり時計工房から原付バイクで三〇分くらいのところであった。電車で行っても良かったのだけれど、どうしてもバイクで行って欲しい、とご指名があったのだ。
はてな? いったいどうしてだろう。そんなモヤモヤもあったけれど、どのみち電車代よりもガソリン代を選んでいたのだ。
かくして、ヒカルは荷物を届けるため、原付バイクを走らせる。
川を二つ渡り、小さな峠を一つ越えた先。高いビルが徐々に無くなって、代わりに田んぼが広がってきたところにその場所はあった。
廃墟。
田舎の民家と田んぼが広がる中に、ぽつりと佇む一軒家。屋根はブルーシートに覆われていて、錆びた鉄の玄関には「売り物件」のプレートがさがっている。
ヒカルは段々怖くなってきた。
深く被った帽子。小さいのに重たい荷物。電車ではなく、原付バイクで移動しろという命令。原付バイクなら、電車よりも人目につかない。
だとしたら、この中身は何だろう?
もしかして拳銃? ヒカルの頭の中には、それでいっぱいだった。漫画や映画で良くある裏社会へ足を入れてしまったのではないか、と不安になる。
引き返そう。今ならまだ間に合う。何しろ、指定された場所には誰もいないのだから。
そう決断するのに時間はかからなかった。しかし、ヒカルが再び原付バイクのエンジンを掛けたその時、「売り物件」のプレートに、一枚のメモ用紙を見つけてしまった。
いつもの様にして、大槻ヒカルは、高校生の時に中古で買った原付バイクにまたがる。
ひかり時計工房。
駅前から少しだけ奥へと進んだ閑静な場所。およそ、六畳も無いひっそりとしたその工房で、ヒカルは時計職人として働いていたのだ。
高校生の時だ。時計の魔力に魅入られて以来、ずっと憧れていた職につけたのだ。家族の反対を押し切り、大学ではなく専門学校に通った。たった一年間だけ時計修理センターで働いたこともあった。
その後、若干二〇歳にして独立し、今では自分一人だけの工房をこの町に構えたのであった。目指すは、日差一秒以内の自動巻き時計を造ること。それがいかに難しいことなのか。いかに夢物語であるのか。何度も笑われた。人より少しだけ手先が器用なだけではだめだ、と何度も言われてきた。生来の頑固者だからだろうか。まだ二〇という若さの罪なのか。ヒカルは決して自分の夢をあきらめはしない。
遙か彼方にある夢が、まるで、ちょっとだけ手を伸ばせば届いてしまいそうだと思っているのだ。
夢は立派でも、現実は蟻よりも小さかった。
時計の方の仕事は、週に一度電池交換かオーバーホールがあるくらい。もちろんそれだけではご飯は食べられない。だから、もう一つの仕事を始めたのだ。
「配送受付」
下町の雰囲気が残るこの町には、幸か不幸か老人ばかりであった。
はじめは駅前のスーパーに売り込みにいった。「遠くの方への配送ならできますよ」と。
御駄賃は相談。あくまで本業は時計職人だ。煙草ひと箱分の時もあれば、お菓子やお惣菜、お野菜やお米を頂くこともあった。だから食いぶちには困らない。ヒカルの世界は器用に回っていた。
はじめはスーパーからの配送だったけれども、ヒカルのことがちょっと噂になりはじめ、買い物とは関係のない便利屋の仕事も増えてきた。最近は蛍光灯を変えたり、肩や腰をもんだり、そういったことも受けていた。ヒカルは手先が器用だから、老人たちのかゆいところにすんなり手が届いた。
そして今日。とある男性から依頼を受けていた。
「この荷物をある場所へ届けて欲しい」片手で持てるほど小さな段ボール箱であった。
小さい割にはずっしりとした重量感がある。ヒカルは、きっと金属できた何かが入っているのだと考えた。
深くかぶった帽子のせいでその男性の顔は見えなかった。どこかで聞き覚えのある声だと違和感はあったけれど、おじいちゃんおばあちゃんの顔と声は全部同じに思えてしまう。
その男性の指定した場所は、ひかり時計工房から原付バイクで三〇分くらいのところであった。電車で行っても良かったのだけれど、どうしてもバイクで行って欲しい、とご指名があったのだ。
はてな? いったいどうしてだろう。そんなモヤモヤもあったけれど、どのみち電車代よりもガソリン代を選んでいたのだ。
かくして、ヒカルは荷物を届けるため、原付バイクを走らせる。
川を二つ渡り、小さな峠を一つ越えた先。高いビルが徐々に無くなって、代わりに田んぼが広がってきたところにその場所はあった。
廃墟。
田舎の民家と田んぼが広がる中に、ぽつりと佇む一軒家。屋根はブルーシートに覆われていて、錆びた鉄の玄関には「売り物件」のプレートがさがっている。
ヒカルは段々怖くなってきた。
深く被った帽子。小さいのに重たい荷物。電車ではなく、原付バイクで移動しろという命令。原付バイクなら、電車よりも人目につかない。
だとしたら、この中身は何だろう?
もしかして拳銃? ヒカルの頭の中には、それでいっぱいだった。漫画や映画で良くある裏社会へ足を入れてしまったのではないか、と不安になる。
引き返そう。今ならまだ間に合う。何しろ、指定された場所には誰もいないのだから。
そう決断するのに時間はかからなかった。しかし、ヒカルが再び原付バイクのエンジンを掛けたその時、「売り物件」のプレートに、一枚のメモ用紙を見つけてしまった。
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