黄金竜のいるセカイ

にぎた

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結・黄金竜神物語

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 バイクを降りて一番に目に入ったのは、瓦礫の山で倒れていた女隊長リーと、彼女を心配そうに見つめるバルとウタの姿だった。

 瀕死のリーを見た途端、カリンダは負傷した自分の足も気にせず一目散に駆け寄り、治癒魔法の呪文を唱えた。

 敵なのに良いの? とヒカルが聞くと、「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」と大目玉を喰らってしまったのだ。

「大丈夫だよね? 助かるよね?」

 バルとウタの心配そうな声にも、カリンダは心地よく笑顔で答える。

「うん。きっと助けるわ」

 すべて終わった――。
 黄金竜の胎内――中枢部メインルームにて、浄化の光を「上書き」したのだ。
 竜の胎内で眠る魂たちや、肉体という器を奪われた者たちと共に、竜の全てを。

 瓦礫の山オルストンは、底無しの青空だった。

 振り替えると、地べたに倒れこむ黄金竜がいる。これで争いは終わるのかしら。少なくとも、鱗たちが人々を襲うことはもう無いのだ。

「ふぅ、もう大丈夫。あとはお医者様にみてもらいましょう」

 安心し、喜び合うバルとウタ。そして、処置を終えて、二人を優しく見守るカリンダ。敵兵のリーダーはと言うと、少年たちの声を聞いて笑みを浮かべているような眠り顔だ。

 心地のよい風が吹いた。
 そうか。これが平和か……。

 バルが得意気な顔をして隣にやってきた。丸っこい鼻の頭を一つ掻くと「ワニから隊長を救ったのはこの僕なのだ」と、ヒカルの腹をつついた。

 カリンダは自分の足の怪我を癒した後、キツい視線をヒカルに向ける。きっと、さっきの言葉をまだ怒っているんだろうなぁ……。

「ねぇ? 聞いてる?」

 ああ、聞いてるとも。このセカイに来ていろんなことを経験した。ワニに、蛇に、そして竜に襲われ、パピーに姿を変えられたこともあれば、綺麗な泉の試練も受けた。

 そう言えば、あのときのカリンダは泣いていた。嘘をつき、運命を隠して必死に笑顔をつくっていた。

 でも、大丈夫。もう終わったのだから。

「ヒカル!?」
「兄ちゃん!?」

 カリンダとバルの声が聞こえた気がした。

 二人を見ると、どうしてそんな険しい顔をしているのだろうか。

 それから、危機を脱した女隊長リーの手を握るアンデッド少年のウタが、ポツリと溢した。

「消えてる!」

 消えてる? 何が? カリンダもそんな怖い顔をしないでくれよ。

 心地のよい風がまた吹いた。そして、ヒカルはようやく気がついたのだ。消えていっているのは、自分だということに。

「どうして……?」

 カリンダの顔がさらに険しくなっていく。

 ヒカルは透けかかった自分の両手を見てから、後ろで倒れた黄金竜を見た。

 巨大で偉大な金色の竜。あれの心臓は、今はヒカルの持っていた懐中時計なのだ。

 そして、それは浄化された。

 竜に眠る魂たち、竜そのものを含め、ヒカルの「器」と一緒に――。

 カリンダに視線を戻す。ニコリと笑ってみるけれど、彼女は変わらず怖い顔のままだ。

「もう終わったんだ……よ」

 ヒカルはカリンダたちに教えてやった。

 ゆっくりではあるけれど、自分は過去の世界から来たこと。召喚された魂の存在だということ。器は懐中時計。そして、それは竜の心臓となり、もう自分が帰れる「器」ではないということ。

 バルとウタとは違い、さすがは召喚士を兄に持つカリンダは、事の真相にいち早く気がついた。

 そして、力無く首を横に振ってみせた。

――器が壊れたらどうなるのか?

「嘘つき」
「ごめんな」
「嫌よ」
「せっかく仲良くなれたのにね」
「自分は良いの?」

 相手を傷つけても? 嘘を言っても?

「言ったじゃない! みんなで笑って暮らせる平和なセカイにしようって」
「……ごめん」
「行って欲しくない」
「え?」

 カリンダははじめてヒカルから目を背けた。

 今まで人との関わりを避けてきた。彼女自身が竜の生贄となった時に、思いが雑念になってしまうからだ。なのに――。

「消えないでよ。こんなに人を好きになったのはじめてだもの」

 熱い何かがこみ上げてくるのが分かった。
 黄色い目をした銀髪の少女。きっと彼女の方が、必死にその胸の内の秘密を抑えていりのだろう。

 ヒカルは、代わりにニコリと笑って答えた。それが精一杯だった。

 時計の音が聞こえてきた。チクチクチクチク――。

 聞いたことある音。元の世界で、廃屋の廊下で聞いた秒針音だ。

 
 それを合図としてか、背後で黄金竜がゆっくりと起き上がったではないか。しかし、その目は今までと明らかに違っていた。

 優しく、かつて崇拝されていた真の黄金竜。ヒカルはすぐに気がついた。魂たちを浄化させた後の、空っぽになった方舟に乗る人物が誰なのか。

 柊ティアナ。きっと彼女だ。

 そして、黄金竜は――彼女はその両翼をめいいっぱいに広げ、ゆっくりと羽ばたきはじめる。

――私たちもついていますよ。
――これからは私たちが見守りますから。

 風を受け、カリンダたちはよろけた。

 しかし、ヒカルは動じない。風が体をすり抜けていくから。

 聞こえてくる時計の音はどんどん加速していく。かつて廊下で聞いた時と同じ。カウントダウンが始まった。

 風に抗うカリンダたちを尻目に、ヒカルはガソリンがもう少ない原付バイクに乗る。キーを回し、ブレーキを握ってスタートボタンを押す。

 ブルルルル……ストンストンストン……。

 チクチクチク……チチチチチ……。

「行かないで!」

 カリンダの叫びを背中で聞く。
 バックミラーは壊れていた。

 黄金竜が飛び立つ。

 バイクが走り出す。追いかけてくるカリンダから逃げるように。

「待ってよ! 待ってってば!」

 聞こえないふりをして走るヒカル。いつしか抑えていた胸の思いが、涙となって溢れていた。

 目の前の青空には、気高く金色に輝く竜が見える。ヒカルは涙を拭って、必死に笑顔をつくろうとした。

 バルに会えて良かった。ウインたちは無事かな? パッチも……。ヒカルの脳裏にこのセカイに来てからの思い出が甦る。たくさんの不思議なことを経験した。召喚士ウイン。プライドの高いパピーたち。巨大な鱗たちとの死闘。争いに支配されたこのセカイでも、皆が希望を持っていた。みんなと出会えて本当に良かった。

 でも。
 ごめんね、カリンダ。帰らなくちゃ。

「じゃあな! 黄金竜のいるセカイ!」

 淡い光が体を包む。

 ああ、消える。もうすぐ俺は居なくなってしまう。

「ありがとう!」

 目の前が、真っ白な光に覆われた。

 最後に聞こえてきたのは、追いかけてくる足音と、カリンダの叫び声だった。
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