ハラスメント男との婚約を破棄して幸せになるのはダメですか？

プロローグ

「私、ヨロナ・アルトケッツァは、イーデル・サンブライデ様との婚約を、破棄させていただきます」

　私は、声高々にそう宣言した。

「必要な手続きは、すべてこちらで行いました。後で正式な知らせがイーデル様の元へ届くでしょう」

　ここは、イーデル・サンブライデ様主催のパーティ会場。
　主役はもちろんイーデル様その人である。

　そんなパーティに、婚約者として参加していた。

　しかし私は、主催者である彼の顔に泥を塗ろうというのである。


「……お前、自分が何を言っているのか分かっているのか？」

「はい。心得ております。そして、この行動が、あまりにも非常識であることも理解しています」

「では、何故だ！」

　静まり返ったパーティ会場に、イーデル様の怒鳴り声が響く。

　何故も何も、そうやって女性を抑圧しようとするところが嫌いなのですが。

　言ったところで意味はない。


「私はイーデル様に不釣り合いな娘なので、イーデル様の為を思って婚約を解消しようというのです」

　全くの嘘だと分かりきったようなことを言った。イーデル様からすれば、煽っているようにしか思えなかっただろう。

「お前っ！……その様なことは私は思わない。だから、考え直せ」

　あくまでも、命令口調なんですね。

「いえ、私の考えが変わることはありません。それでは」

　これ以上ここにいても、この人に罵声を浴びせられることになるだけだろう。

　そう思って私は、パーティ会場を後にした。