ハラスメント男との婚約を破棄して幸せになるのはダメですか？

第一話 ハラスメントの記憶①

我がアルトケッツァ家は、歴史のある家系であるが、現在では社交界にそこまでの影響力はない。

しかし、婚約者のイーデル様のサンブライデ家は、歴史の長さで言えばアルトケッツァ家と変わらない上に、社交界への影響力は凄いものだった。

そんなサンブライデ家の三男、イーデル様との婚約が成立したとあって、イーデル様が我が家を訪れるとなったその日、我が家は浮かれムードだった。



「イーデル様がいらっしゃいました！」

馬車の音が聞こえて、私も玄関まで出迎えに出て来た。

ほどなくして、馬車の中からイーデル様が姿を現した。


「ようこそ、我がアルトケッツァ家の屋敷においで下さいました」

「……」

私がそう頭を下げても、返事はなかった。
不審に思って顔を上げると、イーデル様はキョロキョロと周りを見回していた。

「ふむ、中々古くて小さい建物だな。サンブライデ家の屋敷とは比べものにならん」

と言い放った。


「……も、申し訳ありません。イーデル様ほどのお方を迎えるのにも関わらず、このような大きさの屋敷で……」

そう、どうしてイーデル様が今日ここに来たのかと言えば、婚約をした後はこの家をイーデル様のものとするとしていたため、その下見をしに来たのだ。

どうやらサンブライデ家にとっては、三男は屋敷に置いておきたくはないらしい。


「まあ良い。ヨロナ、私は喉が渇いた。座れる場所へ案内してくれ」

「は、はい。ただ今」

……確かにこれは、もしかしたらサンブライデ家の方々の気持ちがわかってしまうかもしれません。