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天上の笑み
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「それも生き地獄だよね。せっかく守った命が口さがない連中によって傷つけられるなんて。自分が安心するために君を悪女に仕立て上げるくらいはするかもしれないね。そして、そっちの方が刺激的で面白いから皆それを信じる。イヴェット・オーダムは家族から恨まれる悪女! 清楚な容姿から想像もつかない実態は……なんてね」
「王子!」
「フランシス。これくらいじゃ済まない事が起きるかもしれないんだよ。お前がそんなんでどうする」
メイナードが語った事は決して誇張ではない。
むしろ実際の噂はもっとひどいものだろう。
しかし、だからといってイヴェットにはどうしたらいいのか見当もつかなかった。
「時間はないよ。どうしたい?」
細めた目をイヴェットに向けてメイナードは問う。
社交に疎いことを承知でイヴェットにどうしたいか聞いているのだ。
(つまり目的から逆算しろという事かしら)
イヴェットの目標は離婚して元の生活を取り戻す事だ。
その為にはダーリーン達に罰を受けさせ、自分は貴族社会から中傷を受けない事が条件になる。
(誰にも知られず密かに事を為す……のは無理ね。離婚したらどっちにしろ知られるし殺害未遂を隠した事がバレたらそれこそ私に非があるのではと勘繰られるわ)
貴族はそもそも離婚を滅多にしない。
したとしても妻が家から追い出されているのが普通だ。
神殿と王宮に報告するのだから誰にも知られないのは無理だ。
ふとオーダム商会が新商品を売るときはどうしているだろうかと考える。
(そうだわ)
「どうせ流れる噂なのでしたら、逆に利用したいと思います」
イヴェットの発言にフランシスが目を見開く。メイナードは笑みを深めてご満悦だ。
「いいね。どうやって利用するの?」
「それは……今はまだ誰にも知られていない状態なので、私から話を広げようと思います。事情を話して、先に事実を知ってしまえば人々の好奇心は抑えられるのではないでしょうか」
商売ではミステリアスな付加価値をつけて値を上げる事がある。
そうして購買意欲を刺激するのだが、逆に言えば手品の種の部分を明かしてしまえばいいのだ。
「社交は苦手と聞いていたがそうでもないようだね。でも少し甘いかな」
メイナードは紅茶を一口飲んでカップを置く。
「もう少し考えるべきだよ。なぜ僕がこの話を今、君としているか。話す内容は事実でいいのか」
どういう意味だろう、とイヴェットは混乱する。
まさかとは思うが、そのまさかなのだろうか。
「私ではなく、……王子を利用して社交界に話を広げるということでしょうか」
「正解。ついでに広める内容はもっとドラマチックにしたいよね。有象無象が『納得』するのじゃ足りない。イヴェット、君を応援したくなるような話をぶちまけてしまおう」
天上に住まう美の神のような顔で、腹黒いことを平然と口にする。
たじろいでしまったのはイヴェットの方だ。
「ですが……皆様に嘘をついてしまっていいのでしょうか」
「嘘じゃないよ? 君が広めたら嘘になるけれど他人が広めた噂は『誤解』になるんだから」
「王子!」
「フランシス。これくらいじゃ済まない事が起きるかもしれないんだよ。お前がそんなんでどうする」
メイナードが語った事は決して誇張ではない。
むしろ実際の噂はもっとひどいものだろう。
しかし、だからといってイヴェットにはどうしたらいいのか見当もつかなかった。
「時間はないよ。どうしたい?」
細めた目をイヴェットに向けてメイナードは問う。
社交に疎いことを承知でイヴェットにどうしたいか聞いているのだ。
(つまり目的から逆算しろという事かしら)
イヴェットの目標は離婚して元の生活を取り戻す事だ。
その為にはダーリーン達に罰を受けさせ、自分は貴族社会から中傷を受けない事が条件になる。
(誰にも知られず密かに事を為す……のは無理ね。離婚したらどっちにしろ知られるし殺害未遂を隠した事がバレたらそれこそ私に非があるのではと勘繰られるわ)
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したとしても妻が家から追い出されているのが普通だ。
神殿と王宮に報告するのだから誰にも知られないのは無理だ。
ふとオーダム商会が新商品を売るときはどうしているだろうかと考える。
(そうだわ)
「どうせ流れる噂なのでしたら、逆に利用したいと思います」
イヴェットの発言にフランシスが目を見開く。メイナードは笑みを深めてご満悦だ。
「いいね。どうやって利用するの?」
「それは……今はまだ誰にも知られていない状態なので、私から話を広げようと思います。事情を話して、先に事実を知ってしまえば人々の好奇心は抑えられるのではないでしょうか」
商売ではミステリアスな付加価値をつけて値を上げる事がある。
そうして購買意欲を刺激するのだが、逆に言えば手品の種の部分を明かしてしまえばいいのだ。
「社交は苦手と聞いていたがそうでもないようだね。でも少し甘いかな」
メイナードは紅茶を一口飲んでカップを置く。
「もう少し考えるべきだよ。なぜ僕がこの話を今、君としているか。話す内容は事実でいいのか」
どういう意味だろう、とイヴェットは混乱する。
まさかとは思うが、そのまさかなのだろうか。
「私ではなく、……王子を利用して社交界に話を広げるということでしょうか」
「正解。ついでに広める内容はもっとドラマチックにしたいよね。有象無象が『納得』するのじゃ足りない。イヴェット、君を応援したくなるような話をぶちまけてしまおう」
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たじろいでしまったのはイヴェットの方だ。
「ですが……皆様に嘘をついてしまっていいのでしょうか」
「嘘じゃないよ? 君が広めたら嘘になるけれど他人が広めた噂は『誤解』になるんだから」
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