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見せしめ舞踏会8
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帰ってきたブリジットは烈火のごとく怒っていた。
彼らは貴族の衆目の中、いつものように私という安全な玩具で遊ぼうとしただけなのだ。
それなのに邪魔が入った挙句、逆に恥をかかされたのだ。
ブリジットにとっては怒りも当然なのだろう。
両親も事態を把握していないなりにブリジットを宥めるのに必死だ。
少なくともデリックは怪我でしばらく社交界に出られないだろう。
「最悪! ステラのくせに……っ! あんな男、どこで引っかけてきたの!」
ブリジット怒っていた。
しかしどこかあの不審者の情報を引き出そうとしているようだった。
「あの人のことは知らないの。私が一番驚いているのよ」
「嘘おっしゃい! 知らない女を助けて送り届けたというの? ありえないわよ」
(それは私もそう思うわ)
あの男は誰で、目的はなんなのだろう。ステラが一番知りたかった。
「いいからあの方の素性を教えなさい。私はあの男を……そう、賠償してもらわないといけないんだから!」
「ステラ、いい加減意地を張るのはやめて教えてあげなさい」
「そうよ、姉を困らせないであげて」
両親は娘たちが何をしていたのかを知らない。
賠償についても本気にはしていないはずだ。
あの男を見ていないから、ブリジットがここまで執着する理由も分からないのだろう。
一緒になってステラを責めるが、そこには早く終わらせろという態度が表れていた。
なぜ愛娘がこんなに怒っているのか、あの男を見ていないから分からないのだ。
しかしステラには何も言えることはない。
名前も知らないのだ。
「あの方を独り占めしようっての? 婚約者を失ったばかりだというのに卑しい女ね。今すぐ地下室に行きなさいよ」
「……ッ! お姉さま!」
「はあ、ステラ、しばらく地下室で反省していなさい」
父親もステラが意地になって何も言わないと思ったようだ。
地下室。
そこはかつてワインセラーだった場所だ。今は別の場所に移って、倉庫のようになっている。
昔からブリジットが気に入らないことがあればステラは暗くて湿気ていて虫ばかりの地下室に閉じ込められていた。
当然食事も抜きで、ステラは地下室が嫌だった。
だからブリジットに逆らわないようにしていたのだが、どうしようもない。
暗い地下室に足を踏み入れると、背後で鍵がかかった音が響いた。
普段であれば二、三日は閉じ込められているところ、なぜか翌日に出ることになった。
(窓からの朝日が眩しい……)
こんなに早い解放は珍しいのだが、理由はすぐに判明した。
「ステラ宛てに手紙が沢山来ているわ。あなた、何をしたの?」
朝いちばんの便で大量の手紙が届いていたのだ。
それも貴族からの美しい便せん、サロンやパーティーの招待状付きだ。
なんとなく予想はついたものの、一応確認してみるとどれもこれも「あの方とご一緒に」の文言がある。
あの方、つまりあのやけにキラキラした不審者だ。
(お父様とお母さま、すごく戸惑っているわ。今までこういった手紙はお姉さま宛てだったものね)
ブリジット宛にもいきなりこの量が届いたことはない。
「お前みたいな女がどうやって誑かしたのかしら?」
射殺さんばかりにステラを睨みつけているブリジットが、使用人に抑えらえている。
よくよく見れば、いくつかの手紙が破られていた。
「お姉さま、いくらなんでもそれは……! 私に対してだけではなく、グレアム家の評判が落ちてしまいます」
「お前に貴族のなんたるかを指図されたくないわ! 出来損ないのくせに!」
ブリジットは叫ぶと、踵を返して去っていった。
両親は慌ててブリジットを追いかける。一瞬だけ振り返って、ため息をついた。
「ステラ、姉より目立つような真似は慎みなさい。それと婚約解消についてはお前の責任だから、地下室から出たとはいえよく反省しなさい」
それだけ言って、姉の為のプレゼントを手配しはじめた。
彼らは貴族の衆目の中、いつものように私という安全な玩具で遊ぼうとしただけなのだ。
それなのに邪魔が入った挙句、逆に恥をかかされたのだ。
ブリジットにとっては怒りも当然なのだろう。
両親も事態を把握していないなりにブリジットを宥めるのに必死だ。
少なくともデリックは怪我でしばらく社交界に出られないだろう。
「最悪! ステラのくせに……っ! あんな男、どこで引っかけてきたの!」
ブリジット怒っていた。
しかしどこかあの不審者の情報を引き出そうとしているようだった。
「あの人のことは知らないの。私が一番驚いているのよ」
「嘘おっしゃい! 知らない女を助けて送り届けたというの? ありえないわよ」
(それは私もそう思うわ)
あの男は誰で、目的はなんなのだろう。ステラが一番知りたかった。
「いいからあの方の素性を教えなさい。私はあの男を……そう、賠償してもらわないといけないんだから!」
「ステラ、いい加減意地を張るのはやめて教えてあげなさい」
「そうよ、姉を困らせないであげて」
両親は娘たちが何をしていたのかを知らない。
賠償についても本気にはしていないはずだ。
あの男を見ていないから、ブリジットがここまで執着する理由も分からないのだろう。
一緒になってステラを責めるが、そこには早く終わらせろという態度が表れていた。
なぜ愛娘がこんなに怒っているのか、あの男を見ていないから分からないのだ。
しかしステラには何も言えることはない。
名前も知らないのだ。
「あの方を独り占めしようっての? 婚約者を失ったばかりだというのに卑しい女ね。今すぐ地下室に行きなさいよ」
「……ッ! お姉さま!」
「はあ、ステラ、しばらく地下室で反省していなさい」
父親もステラが意地になって何も言わないと思ったようだ。
地下室。
そこはかつてワインセラーだった場所だ。今は別の場所に移って、倉庫のようになっている。
昔からブリジットが気に入らないことがあればステラは暗くて湿気ていて虫ばかりの地下室に閉じ込められていた。
当然食事も抜きで、ステラは地下室が嫌だった。
だからブリジットに逆らわないようにしていたのだが、どうしようもない。
暗い地下室に足を踏み入れると、背後で鍵がかかった音が響いた。
普段であれば二、三日は閉じ込められているところ、なぜか翌日に出ることになった。
(窓からの朝日が眩しい……)
こんなに早い解放は珍しいのだが、理由はすぐに判明した。
「ステラ宛てに手紙が沢山来ているわ。あなた、何をしたの?」
朝いちばんの便で大量の手紙が届いていたのだ。
それも貴族からの美しい便せん、サロンやパーティーの招待状付きだ。
なんとなく予想はついたものの、一応確認してみるとどれもこれも「あの方とご一緒に」の文言がある。
あの方、つまりあのやけにキラキラした不審者だ。
(お父様とお母さま、すごく戸惑っているわ。今までこういった手紙はお姉さま宛てだったものね)
ブリジット宛にもいきなりこの量が届いたことはない。
「お前みたいな女がどうやって誑かしたのかしら?」
射殺さんばかりにステラを睨みつけているブリジットが、使用人に抑えらえている。
よくよく見れば、いくつかの手紙が破られていた。
「お姉さま、いくらなんでもそれは……! 私に対してだけではなく、グレアム家の評判が落ちてしまいます」
「お前に貴族のなんたるかを指図されたくないわ! 出来損ないのくせに!」
ブリジットは叫ぶと、踵を返して去っていった。
両親は慌ててブリジットを追いかける。一瞬だけ振り返って、ため息をついた。
「ステラ、姉より目立つような真似は慎みなさい。それと婚約解消についてはお前の責任だから、地下室から出たとはいえよく反省しなさい」
それだけ言って、姉の為のプレゼントを手配しはじめた。
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