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謎の男の奇妙な執着2
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いつの間にか昼近くになっていたらしい。
飲食店も活気づいて、ちらほらと人が入っている。
男は慣れた様子でカフェに入る。半個室が多く、平民向けというより富裕層向けの店だ。
メニューを広げると美味しそうな文字列がステラの目に飛び込んでくる。
(マカロン、バニラアイスクリーム、フォンダンショコラ、きのこのガレット……。選んでいいなんて夢みたいだわ)
昔はそれなりに家族で外食をすることもあったが、ステラが使えないとなると両親の興味はステラから消えた。
時間とお金は全てブリジットに注ぎこみ、少しでも良縁を見つける事に腐心したのだ。
自然とステラは外食やパーティーとなると留守番になった。
過去の思い出も過ぎりながらさんざん悩んだ結果、いちごのパンケーキを選んだ。
男はにこっと笑うと店員に注文する。
(まあ、店員さんが見惚れているわ。散歩していた時もすさまじい視線を一身に集めていたものね)
隣を歩く居心地の悪さも初めて体験するものだった。
しばらくしていちごのパンケーキと紅茶が運ばれる。
パンケーキには思っていた以上にたっぷりのいちごが乗っていた。
バターソースがかかり、生クリームも添えられている。
小さく切って口に運ぶと、小麦の香りが広がった。
バターの芳醇な香りに包まれた後にいちごを食べると甘酸っぱさが際立つ。
口内がリセットされるとまたパンケーキが食べたくなる寸法だ。
今度は生クリームも一緒に。
(おいしいっ……!)
「気に入りました?」
男に微笑まれ我に帰る。
「……高級志向のお店みたいね。品質に妥協がなくて、誰でも気に入るのではなくて?」
「そうですね」
男もステラと同じものを注文していた。
紅茶は勝手に追加したようだが、すっきりとした香りが悔しいことに合っていた。
「ではこの店は買い取ります。いつでもお好きな時にいらしてください」
「げほっ! な、なに?」
耳を疑う発言に、ステラは紅茶で咽る。
「聞き間違いに違いないでしょうけど、いったい何と聞き間違えたのかしら。もう一度言ってくれる?」
「ですから、この店を気に入ったのでしたら差し上げます。ここだけではなく私に差し上げられるものならなんだって」
男は誰もが見惚れる笑顔で微笑む。
しかしステラは見惚れるどころか、逃げ出したくなっていた。背筋に冷たいものが流れる。
(異常だわ)
冗談だとしてもおかしい。
どうしてこんな男に付きまとわれているのか、全く思い当たる節がない。
パーティーの日にお礼は言ったが、それは狩れが助けてくれたからだ。理由にならない。
先に手を差し伸べたのは、彼だ。
ステラは警戒心を最大限に引き上げた。
「……あなた、名前は? どこの家門なの?」
平民とはお話にならない、といった態度で貴族らしく尊大に聞く。
男が少しでも不愉快そうな態度を見せたならしめたものだからだ。
しかし腹を立てる様子どころか、嬉しそうにはにかんでいる。
「なにが嬉しいのよ」
「あなたが、私に興味を持ってくださったからです。まるで夢のようです」
意味不明瞭なことを言いながらほう、と恍惚に浸り男はあまりにも耽美で目に毒だ。
――――――――――――
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飲食店も活気づいて、ちらほらと人が入っている。
男は慣れた様子でカフェに入る。半個室が多く、平民向けというより富裕層向けの店だ。
メニューを広げると美味しそうな文字列がステラの目に飛び込んでくる。
(マカロン、バニラアイスクリーム、フォンダンショコラ、きのこのガレット……。選んでいいなんて夢みたいだわ)
昔はそれなりに家族で外食をすることもあったが、ステラが使えないとなると両親の興味はステラから消えた。
時間とお金は全てブリジットに注ぎこみ、少しでも良縁を見つける事に腐心したのだ。
自然とステラは外食やパーティーとなると留守番になった。
過去の思い出も過ぎりながらさんざん悩んだ結果、いちごのパンケーキを選んだ。
男はにこっと笑うと店員に注文する。
(まあ、店員さんが見惚れているわ。散歩していた時もすさまじい視線を一身に集めていたものね)
隣を歩く居心地の悪さも初めて体験するものだった。
しばらくしていちごのパンケーキと紅茶が運ばれる。
パンケーキには思っていた以上にたっぷりのいちごが乗っていた。
バターソースがかかり、生クリームも添えられている。
小さく切って口に運ぶと、小麦の香りが広がった。
バターの芳醇な香りに包まれた後にいちごを食べると甘酸っぱさが際立つ。
口内がリセットされるとまたパンケーキが食べたくなる寸法だ。
今度は生クリームも一緒に。
(おいしいっ……!)
「気に入りました?」
男に微笑まれ我に帰る。
「……高級志向のお店みたいね。品質に妥協がなくて、誰でも気に入るのではなくて?」
「そうですね」
男もステラと同じものを注文していた。
紅茶は勝手に追加したようだが、すっきりとした香りが悔しいことに合っていた。
「ではこの店は買い取ります。いつでもお好きな時にいらしてください」
「げほっ! な、なに?」
耳を疑う発言に、ステラは紅茶で咽る。
「聞き間違いに違いないでしょうけど、いったい何と聞き間違えたのかしら。もう一度言ってくれる?」
「ですから、この店を気に入ったのでしたら差し上げます。ここだけではなく私に差し上げられるものならなんだって」
男は誰もが見惚れる笑顔で微笑む。
しかしステラは見惚れるどころか、逃げ出したくなっていた。背筋に冷たいものが流れる。
(異常だわ)
冗談だとしてもおかしい。
どうしてこんな男に付きまとわれているのか、全く思い当たる節がない。
パーティーの日にお礼は言ったが、それは狩れが助けてくれたからだ。理由にならない。
先に手を差し伸べたのは、彼だ。
ステラは警戒心を最大限に引き上げた。
「……あなた、名前は? どこの家門なの?」
平民とはお話にならない、といった態度で貴族らしく尊大に聞く。
男が少しでも不愉快そうな態度を見せたならしめたものだからだ。
しかし腹を立てる様子どころか、嬉しそうにはにかんでいる。
「なにが嬉しいのよ」
「あなたが、私に興味を持ってくださったからです。まるで夢のようです」
意味不明瞭なことを言いながらほう、と恍惚に浸り男はあまりにも耽美で目に毒だ。
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