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家にて
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家に帰るとダイニングから笑い声が響いていた。
ブリジットの機嫌が直ったようだ。
ずっと欲しかったドレスが予約できたらしい。
「マリオンのドレスとは高くついたな」
「ブリジットの笑顔に比べればどうってことないでしょ、あなた。これでも少ないくらいよ?」
「そうよ。淑女は何着もドレスを持つものなの。ねえパパ、もうすぐ新作が発表されるらしいの。誕生日にはそれがほしいわ」
「まったく、おねだりが上手な娘だ」
自室へ荷物を置き食事のためにステラがダイニングに入ると、笑い声はしんと静まった。
「あら、お帰りなさい。今日は食べるの?」
テーブルの上には三人分のお皿しかなかった。当然料理も三人分だ。
使用人が慌てて「今日は三人分しか作っておりません。どうしましょうか」と母に耳打ちした。
父はため息をつき、使用人は迷惑そうにしている。
ステラの存在を忘れていた、というのを隠そうともしていない。
ブリジットだけはにやにやと笑っていた。
「かわいそうなステラ。私の残飯で良ければ食べて良いわよ。だって、あなたには席に着くためのドレスもないんだものね」
「食欲がないから結構よ」
貴族であれば晩餐は正装で食べる。
イブニングドレスを持っていないステラは、そもそも食事を共にする資格を与えれていなかった。
わざとらしい呼びかけもいつもの嫌がらせだ。
ブリジットの癇癪を恐れて誰も止める者がいない。
ステラが背を向けると張りつめた空気が緩んだのが分かる。
しかしその空気も少しの間しかもたなかった。
「待ちなさいステラ。……そのドレスどうしたの」
ステラの心臓が跳ねた。
(もしかしてバレたのかしら)
マリオンで仕立てたドレスは自室に置いてあるが、目ざといブリジットには分かってしまったのだろうか。
「そのドレス、そんな感じじゃなかったわよね」
「え、ええ。裁縫が得意な方が少しアレンジしてくださったの」
嘘は言っていない。ブリジットふうん、とじろじろドレスを観察して不満そうに鼻を鳴らした。
「昨日あんなことがあったのに、ドレスを直す余裕があるの?」
「あれは、私にはどうすることもできなかったもの。知っているでしょうブリジット」
あの場を用意したブリジットは、ステラに準備など出来なかったことを誰より知っているはずだ。
それより彼女は、おそらくハウンドのことを聞きたいのだろう。じろりとステラを睨めつけた。
「そうやってみみっちく仕立て直して満足してるのなら、まだしばらくあんたにドレスは必要なさそうね」
ドレスなんか、ずっと買ってもらっていない。
きっと両親はそれすら覚えていないだろうが。
ステラは奥歯を噛みしめて二階の自室へ戻った。
ハウンドが買ってくれたパンが迎えてくれて、知らずほっとする。
今日は空腹にならなくてすみそうだ。
ブリジットの機嫌が直ったようだ。
ずっと欲しかったドレスが予約できたらしい。
「マリオンのドレスとは高くついたな」
「ブリジットの笑顔に比べればどうってことないでしょ、あなた。これでも少ないくらいよ?」
「そうよ。淑女は何着もドレスを持つものなの。ねえパパ、もうすぐ新作が発表されるらしいの。誕生日にはそれがほしいわ」
「まったく、おねだりが上手な娘だ」
自室へ荷物を置き食事のためにステラがダイニングに入ると、笑い声はしんと静まった。
「あら、お帰りなさい。今日は食べるの?」
テーブルの上には三人分のお皿しかなかった。当然料理も三人分だ。
使用人が慌てて「今日は三人分しか作っておりません。どうしましょうか」と母に耳打ちした。
父はため息をつき、使用人は迷惑そうにしている。
ステラの存在を忘れていた、というのを隠そうともしていない。
ブリジットだけはにやにやと笑っていた。
「かわいそうなステラ。私の残飯で良ければ食べて良いわよ。だって、あなたには席に着くためのドレスもないんだものね」
「食欲がないから結構よ」
貴族であれば晩餐は正装で食べる。
イブニングドレスを持っていないステラは、そもそも食事を共にする資格を与えれていなかった。
わざとらしい呼びかけもいつもの嫌がらせだ。
ブリジットの癇癪を恐れて誰も止める者がいない。
ステラが背を向けると張りつめた空気が緩んだのが分かる。
しかしその空気も少しの間しかもたなかった。
「待ちなさいステラ。……そのドレスどうしたの」
ステラの心臓が跳ねた。
(もしかしてバレたのかしら)
マリオンで仕立てたドレスは自室に置いてあるが、目ざといブリジットには分かってしまったのだろうか。
「そのドレス、そんな感じじゃなかったわよね」
「え、ええ。裁縫が得意な方が少しアレンジしてくださったの」
嘘は言っていない。ブリジットふうん、とじろじろドレスを観察して不満そうに鼻を鳴らした。
「昨日あんなことがあったのに、ドレスを直す余裕があるの?」
「あれは、私にはどうすることもできなかったもの。知っているでしょうブリジット」
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それより彼女は、おそらくハウンドのことを聞きたいのだろう。じろりとステラを睨めつけた。
「そうやってみみっちく仕立て直して満足してるのなら、まだしばらくあんたにドレスは必要なさそうね」
ドレスなんか、ずっと買ってもらっていない。
きっと両親はそれすら覚えていないだろうが。
ステラは奥歯を噛みしめて二階の自室へ戻った。
ハウンドが買ってくれたパンが迎えてくれて、知らずほっとする。
今日は空腹にならなくてすみそうだ。
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