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ハウンドのこと
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パーティーの後のバーンズ邸。
ステラ、セシリア、マリオンの三人は女子会を開催して一息ついていた。
ハウンドも一緒に来たのだが追い返されている。
ものすごく不服そうな顔をしていたが、ステラに説明するのに邪魔と言われてしかられた犬のように肩を落として渋々帰っていった。
「マリオンはアロガンスハート領でハウンドと知り合っていたの?」
「ええ。私がハウンド様と出会った頃は現侯爵が実権も持っていらして、アロガンスハート家は今のような隆盛を誇ってはいませんでしたが……」
「今はまだ父親が侯爵ではあるけれど、実際にはもう引退しているようなものなの。ハウンドは……そう、ちょうど昔我が家で開いたパーティーの後領地に戻って急にかつての栄光を取り戻したみたいになったのよね。内情は正直中央にはなんの情報もないけれど、噂話や物資や人の流れを見ているとハウンドが采配を振るっていたみたいね」
「でもあのパーティーの後ってことはまだ子供じゃあ……」
ハウンドの見た目からして逆算しても、子供ということになる。
しかし、そんなことが可能なのだろうか。
訝しむステラを見て、マリオンはふふっと笑った。
「私がハウンド様を見かけた時、まだほんの子供でいらっしゃいました」
マリオンは元々首都で針子をしていた。
昔から才能があると自負していたが、その才能が仲間内や雇い主にもやっかまれた。
さらに生来気の強い性格が災いして、ついには雇い主と大げんかしてしまったのだった。
「お針子って注文通りに作る能力、同じ作業を繰り返す能力、お客様の気をよくさせる能力のどれかは必要なのよね。私はあんまり人の言うとおりにするのが得意じゃなくって。自分の思う通りに作ってみたいって主張していたら生意気だってお店を追い出されたの。その後は噂が広まっちゃったみたいで、どこも雇ってくれなかったのよ」
開き直って開業しようにもお金がない。
衣服修理を請け負いながら流れ着いたのがアロガンスハート領だった。
マリオンはそのころ、仕事で余った端切れでショールや小物を作っては自分で使っていた。
人々は奇異の目で見ていたが、たまたま散策していたハウンドが目を付けたらしい。
「十になるかならないかの子供からアロガンスハート家で働かないかと言われたのに、一も二もなく飛びつきましたわ。だって、そのころは困窮極まっていてとにかくお腹が空いていたものですから。あの頃はハウンド様もかなり質素な衣服をお召しで、少し痩せていました」
ハウンドの元ではマリオンは当初名前を出さずにコートやドレスを作っていた。
客からの評価を引き出すために、必要なことだったらしい。
「悲劇の天才デザイナー、という触れ込みでしたわね。とにかくドラマチックな物語を付与して、人目を引いて衣服を発表しました。ああ、着たのはハウンド様です。子供服は小さいので生地が少なくて済むと仰っていたのですが、実のところ子供服というのはほぼ存在していなかったのです。今でも子供は簡素な服か、大人の服を手直したものを着ていますよね」
「そうね。マリオンの子供服には驚いたわ。子供が社交の場に出ることはあったのに、子供に合わせたドレスは無かったのだもの。年の離れた私の妹も今はマリオンの子供服を着ているわよ」
セシリアが補足してくれたがステラには初耳だった。
「子供服から広がって今では国の代表的なデザイナーになったのは知ってたけど、まさかあのハウンドが裏にいたなんて思わなかったわ」
「モデルをしていただくにあたり、ハウンド様に協力して頂いたのです。少し磨いたらあの美貌でしたのでアロガンスハート領ではとても評判になったのですよ。そして『子供服』という概念を作ったハウンド様と『マリオン』は多くの利益を得ました。あのままアロガンスハート家で飼い殺しにしてひたすら利益を追求することも出来たのでしょうが、普通に独り立ちの支援もして下さって今に至ります」
そのころと言えばステラは何をしていただろうか。
嵐のような姉に耐えながらひたすら本を読んでいたような気がする。
「ハウンドは人を見る目があったみたいなのよね。困窮していた領地を見て回って、能力があるとみれば投資していたらしいわよ。結果は今のアロガンスハート家を見れば分かるとおり。投資した人たちはそれぞれの分野で活躍してるから色んな所に顔がきくみたい」
「だからマリオンに初めて伺った時あんな無理を通したんですね……」
(あの時はハウンドのことを詐欺師だと思っていたからあんまり考えていなかったけど、私のせいで迷惑をかけてしまったのよね)
そんなステラの悩みを吹き飛ばすようにマリオンは高らかに笑う。
「まあ! あんなのハウンド様の今までの無理に比べたらなんでもないですわ。それに、ステラ様と出会わせてくれたことに感謝しておりますの。ステラ様がお召しになるドレスを考えるともうアイデアが湧きに湧いて……!」
こころなしかマリオンの背後に炎が見える。
ちらりとセシリアを見るとただ頷いていた。
「最近のマリオンのドレスはまた一皮むけたというか新時代の象徴って感じよね。今日のステラのドレスだってすごいもの」
美しい薔薇色のドレスをじっと見つめるステラの、その頬も薔薇色に染まっていた。
「……本当にありがとう二人とも。あなた達のおかげで命が助かったし、みんなのびっくりする顔を見れてスカっとしたわ」
「あらあら。助けるよう指示したのはハウンドよ? お礼ならそっちにね」
ステラ、セシリア、マリオンの三人は女子会を開催して一息ついていた。
ハウンドも一緒に来たのだが追い返されている。
ものすごく不服そうな顔をしていたが、ステラに説明するのに邪魔と言われてしかられた犬のように肩を落として渋々帰っていった。
「マリオンはアロガンスハート領でハウンドと知り合っていたの?」
「ええ。私がハウンド様と出会った頃は現侯爵が実権も持っていらして、アロガンスハート家は今のような隆盛を誇ってはいませんでしたが……」
「今はまだ父親が侯爵ではあるけれど、実際にはもう引退しているようなものなの。ハウンドは……そう、ちょうど昔我が家で開いたパーティーの後領地に戻って急にかつての栄光を取り戻したみたいになったのよね。内情は正直中央にはなんの情報もないけれど、噂話や物資や人の流れを見ているとハウンドが采配を振るっていたみたいね」
「でもあのパーティーの後ってことはまだ子供じゃあ……」
ハウンドの見た目からして逆算しても、子供ということになる。
しかし、そんなことが可能なのだろうか。
訝しむステラを見て、マリオンはふふっと笑った。
「私がハウンド様を見かけた時、まだほんの子供でいらっしゃいました」
マリオンは元々首都で針子をしていた。
昔から才能があると自負していたが、その才能が仲間内や雇い主にもやっかまれた。
さらに生来気の強い性格が災いして、ついには雇い主と大げんかしてしまったのだった。
「お針子って注文通りに作る能力、同じ作業を繰り返す能力、お客様の気をよくさせる能力のどれかは必要なのよね。私はあんまり人の言うとおりにするのが得意じゃなくって。自分の思う通りに作ってみたいって主張していたら生意気だってお店を追い出されたの。その後は噂が広まっちゃったみたいで、どこも雇ってくれなかったのよ」
開き直って開業しようにもお金がない。
衣服修理を請け負いながら流れ着いたのがアロガンスハート領だった。
マリオンはそのころ、仕事で余った端切れでショールや小物を作っては自分で使っていた。
人々は奇異の目で見ていたが、たまたま散策していたハウンドが目を付けたらしい。
「十になるかならないかの子供からアロガンスハート家で働かないかと言われたのに、一も二もなく飛びつきましたわ。だって、そのころは困窮極まっていてとにかくお腹が空いていたものですから。あの頃はハウンド様もかなり質素な衣服をお召しで、少し痩せていました」
ハウンドの元ではマリオンは当初名前を出さずにコートやドレスを作っていた。
客からの評価を引き出すために、必要なことだったらしい。
「悲劇の天才デザイナー、という触れ込みでしたわね。とにかくドラマチックな物語を付与して、人目を引いて衣服を発表しました。ああ、着たのはハウンド様です。子供服は小さいので生地が少なくて済むと仰っていたのですが、実のところ子供服というのはほぼ存在していなかったのです。今でも子供は簡素な服か、大人の服を手直したものを着ていますよね」
「そうね。マリオンの子供服には驚いたわ。子供が社交の場に出ることはあったのに、子供に合わせたドレスは無かったのだもの。年の離れた私の妹も今はマリオンの子供服を着ているわよ」
セシリアが補足してくれたがステラには初耳だった。
「子供服から広がって今では国の代表的なデザイナーになったのは知ってたけど、まさかあのハウンドが裏にいたなんて思わなかったわ」
「モデルをしていただくにあたり、ハウンド様に協力して頂いたのです。少し磨いたらあの美貌でしたのでアロガンスハート領ではとても評判になったのですよ。そして『子供服』という概念を作ったハウンド様と『マリオン』は多くの利益を得ました。あのままアロガンスハート家で飼い殺しにしてひたすら利益を追求することも出来たのでしょうが、普通に独り立ちの支援もして下さって今に至ります」
そのころと言えばステラは何をしていただろうか。
嵐のような姉に耐えながらひたすら本を読んでいたような気がする。
「ハウンドは人を見る目があったみたいなのよね。困窮していた領地を見て回って、能力があるとみれば投資していたらしいわよ。結果は今のアロガンスハート家を見れば分かるとおり。投資した人たちはそれぞれの分野で活躍してるから色んな所に顔がきくみたい」
「だからマリオンに初めて伺った時あんな無理を通したんですね……」
(あの時はハウンドのことを詐欺師だと思っていたからあんまり考えていなかったけど、私のせいで迷惑をかけてしまったのよね)
そんなステラの悩みを吹き飛ばすようにマリオンは高らかに笑う。
「まあ! あんなのハウンド様の今までの無理に比べたらなんでもないですわ。それに、ステラ様と出会わせてくれたことに感謝しておりますの。ステラ様がお召しになるドレスを考えるともうアイデアが湧きに湧いて……!」
こころなしかマリオンの背後に炎が見える。
ちらりとセシリアを見るとただ頷いていた。
「最近のマリオンのドレスはまた一皮むけたというか新時代の象徴って感じよね。今日のステラのドレスだってすごいもの」
美しい薔薇色のドレスをじっと見つめるステラの、その頬も薔薇色に染まっていた。
「……本当にありがとう二人とも。あなた達のおかげで命が助かったし、みんなのびっくりする顔を見れてスカっとしたわ」
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