Sugar & Cacao〜甘さの比率〜

そら汰★

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第3章 砂糖を湯煎で溶かしたら55%

03

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 気分を変えようと、ふとテーブルに目を向ける。
 今日尾鷹が新しく購入してきた箱に入った有名店のチョコレートが置きっぱなしにされていた。
 チョコレートは値段も特徴も店舗によって様々だ。尾鷹が購入してくるチョコレートは、大体ひと粒三百円から五百円前後。ご褒美にしては贅沢なものだ。
 以前の郁哉なら、その日の内にひと箱数分で食べ切っていたはずだ。けれど手の届く場所に置かれていても無闇に食べようとは思わない。
 嫌いになった訳ではなく、大切に食べたいと思っているからだ。

「あれ?」

 蓋の開いた箱の中は、チョコレート不在の茶色いグラシンケースが良く目立っている。

(俺がひと粒食べた。那津ってば四粒も食べたのか!?)

 頭の中で計算される金額に啞然とする。尾鷹が購入してきたものだが、もっと大切に味わえと思ってしまう。
 そういえば竹田と砂川が尾鷹を紹介する際に、郁哉と張り合うほどのスイーツ男子と言っていた。
 ご褒美チョコレートの厳選は、詳しくなければ到底知らない店舗のものもある。

(合宿が終わったら……お礼に俺のおすすめ店に誘ってみようかな……)

 二人で女子に混ざり並んでる姿を想像すると、プッと吹き出してしまう。
 きっと目立つに違いない。

「楽しそうだね?」
「ひっ──ッ! 馬鹿ッ! いきなりうしろに立つなよ!」
「郁哉がニヤニヤしてるから、邪魔しちゃ悪いと思って待っていたんだけど?」
「待つなよ! そして普通に話し掛けろ!」
「それじゃつまらない。まだ終わっていないの?」

 ひょいっとソファー越しに身を乗り出す尾鷹は、作業途中のタブレットの画面を覗いてきた。
 ふわりと洗いたてのソープの香りと、吐息と共にチョコレートの香りが鼻を擽る。

「う、うん。まだだけど。分からないところが……」

 尾鷹はソファーの背もたれに左手を置くと、郁哉を囲うようにしながらタッチペンを持つ手を掌で包み込んできた。
 ドクンドクンと心臓が早鐘を打つ。
 聞こえてしまわないかと狼狽えながら、ペン先に目を向ける。

「ああ、ここは大さじ一杯。それとこれは先にレンジに掛ける。五分で十分柔らかくなるから。それから……郁哉」
「……えっ? な、なに?」

 振り返ると唇と唇が重なった。
 ほんのりと甘い尾鷹の舌先が、郁哉のふっくらとした唇を優しく愛撫している。
 唇が離れると、尾鷹の色素の薄い蜂蜜色の虹彩に見つめられていた。

「講習料。俺へのご褒美」
「──ッ、なっ!」

 ボッと一気に茹で上がる郁哉に、互いの唾液で濡れた唇をペロリとひと舐めしニヤリと尾鷹が笑う。

「ごちそうさま」
「う、うっ……、それ! チョコ俺より多く食べたじゃん!」
「はあ? 自分で買ったものなんか褒美じゃない。私物でしょ」

 馬鹿なの? とでも言いたげな顔で、最もな突っ込みをされてしまう。
 なにも言い返せない郁哉は「うるさいッ! もう寝る!」と、逆ギレ気味にその場を逃げ出した。
 逃げたところで尾鷹がこのあとやって来ることを、すっかり失念していた郁哉だった……。
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